こっそりラウンジへ! @Thames-Side Studios Lounge
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観光名所?にもなっているゴーストシップ
「誰か助けて、船が沈む!」
と思わず叫びたくなるところですが、よく見れば傾いた船体はすでに半分朽ちていてハトやカモメに占拠されています。
テムズ河沿いに浮かぶその船は一昔前、アーチィスト達のパーティー会場だったり、住んでいた者さえいたとか。
(友人で詩人のSMがそこに一時寝泊まりしていたと聞いている。)
その後維持費がかかりすぎたので持ち主がそのまま放置してしまい、現在に至るそう。
そしてその反対側にずらりと並ぶ倉庫のような建物群は当コラムの第68回でも紹介したThames-Side Studios。
アーティスト、デザイナー、工芸家のスタジオ(アトリエ)などのクリエーターのための複合施設で、現時点で約700ものスタジオが連なります。
第68回ではメインギャラリーを紹介しましたが、今回はその他のサブギャラリーの一つ、Thames-Side Studios Loungeからお伝えします。
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Thames-Side Studios Lounge は0号館の3階にある
さて繰り返しますが、イングランドは現在3度目のロックダウン中。
ギャラリーはもちろん閉鎖。どこか開いてないかと考えた挙句、スタジオはアーティストの仕事場だから開いている。
そうだ!スタジオの建物内のギャラリーがあるじゃない?!Thames-Side Studios Loungeはその名の通り、そこで働く人のための共同ラウンジ。
そして、その白壁のスペースをギャラリーとしてつかっているワケ。
三面に窓が広く取られ、見晴台のようにテムズ川が展望できる明るく広々とした空間にはデスクスペース、ソファ、卓球台が並んでいます。
通常ならミーティングや休憩や食事をする人たち、さらには卓球をする人たちで溢れているのですが…。
現在はご覧の通り、とっても静か。
グループ展はNew Print Studio Keyholdersと題して、最近Thames-Side Studiosにスタジオを構えたばかりの版画家たちの展示です。
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「The Great Mother, 2020」©Ugonna Hosten
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Heavy is the cloak of patience, 2020」©Ugonna Hosten
家族の肖像を描いたUgonna Hostenの作品。
「The Great Mother, 2020」では、おばあちゃんの手が礼儀正しく服の下でしっかり握られているのが可愛いですね。
「Heavy is the cloak of patience, 2020」の女の子も正装しているようで、二人ともとてもスタイリッシュ。
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「Step up, 2020」©Ellie Hayward
鳥の翼のような、木が並んでいるような、建築のような…。
思わず小人になってその不思議な空間を歩いて見たくなる作品は、Ellie Haywardの「Step up, 2020」。
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「Kea (New Zealand alpine parrot), 2019」 ©Tim Mitchell
「ケーアー」と聞こえるその鳴き声から名付けられたKea―ミヤマオウムは茶を基調に緑色を含んだオウム。
高山気候に棲むことができる世界で唯一のオウムでニュージーランドのみに生息しています。
入植者が山に入り羊の放牧をはじめたため、オウムたちは群れをなして羊を襲いました。
その結果、大量に射殺され、絶滅寸前までになってしまいます。
幸い現在では保護鳥になっていて、その賢さから、観光客にいたずらをしたりして人々を楽しませています。
ちょっと日光のニホンザルみたいな。
ちなみにオウムではありませんが、ロンドンでは野生化したインコ、鮮やかな緑のワカケホンセイインコが公園や森などあちこちで大繁殖中。
作品はTim Mitchellの「Kea (New Zealand alpine parrot), 2019」。
「Topophilia #2, 2020」 ©Amy Leigh Bird & Thames-Side Studios
何の動物の骨?ロンドンでこういった動物の骨が山のように見つかる場所があります。
さてそこはどこでしょう。答えはテムズ川。
引き潮時にはほとんどのテムズ川岸は歩くことができ、そこではペットボトルや歯ブラシ、髭剃りなどだけでなく、古い陶器やクレーパイプにガラスや金属の破片や船のネジなど様々なものが見つかります。
そして動物の骨は軽いので大体一箇所に集まっていて、まるで誰かが積み上げた骨塚のようになっています。
作品はAmy Leigh Bird の「Topophilia #2, 2020」。
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「Untitled, 2020」 ©Rob White
血のような赤に闇に溶け込む青。晴れた日のロンドンの夕暮れはまさにこんな感じで思わず息を飲みます。
和紙を重ねて刷ったRob Whiteの「Untitled,2020」。
「A Midnight Walk, 2020」 ©Soomin Yeong & Thames-Side Studios
木々に覆われた闇の中の家は、警戒するような鮮やかな朱色に覆われ、なんだか不安を醸し出します。
まるでロックダウン下で静まり返った真夜中、ロンドン郊外の住宅地をあてもなくさまよい歩くような。
作品はSoomin Yeongの「A Midnight Walk, 2020」。
人の気のない共同ラウンジはなんだか寂しいですがこうしてそこで働く人のアート作品があるとちょっと心がほっこりします。
人がむやみに集えない今だからこそ、会社のラウンジに社員のアートなどを展示してみるのもいいかもしれません。
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