「オムなしオムライス」
春本番らしいです。春眠暁を覚えず。春のせいなのか、それとも花粉症の薬のせいなのか、やたらと眠くなっていけません。理屈っぽく言えば、そもそも花粉も春だから飛ぶわけで、だとすると春のほうが下手人な気もします(下手人って、改めて漢字で見るとヘンですね)。
さて、リモート生活もすっかり板につき、なるべく人出の少ない時間を狙って外出していますが、それでも世の中は僕も含めて動きたくて仕方がないようです。3月13日の土曜日。この日は午前中から雨がシトシト降り続いていました。今年になってまだ一度も髪を切ってないことに気付き、行きつけの店に行く途中。東銀座駅のそばに行列ができていました(※写真①)。みんな傘をさしているので、自然とソーシャルディスタンスは保たれています。時間は午前11時30分。何の行列なのだろう?こんなときには現代文明の利器は便利です。その場でスマホで検索すると(そういやググるはもう死語なのかな?最近耳にしなくなりましたね)すぐに解決。YОUという喫茶店の人気のオムライス目当ての行列でした。ちぇっ、オムライスか。以前もここで書きましたが(※とりとめないわ第20話)僕は卵が苦手なので全く興味が失せました。ところが何かが妙に引っ掛かります。心のどこかなのか頭のどこかなのかがモヤモヤします。記憶のどこかにあるオムライス。
そうだ!思い出しました!!あの新聞記事です。90年代後半だったと思うのですが、当時朝日新聞で人気だった「中島らもの明るい悩み相談室」。読者のさほど深刻でない明るめの質問に中島らもさんが面白まじめに回答するコーナーで、週末にこれを読むのが当時楽しみでした。その質問の中にこんなのがありました。細部はあやしいですが、大よそ合っているはずです(仕事仲間兼飲み友達と終電を逃すほどこの話題ひとつで語り合ったのでよく覚えているのです)!
何でもその質問者がある喫茶店で見た妙な光景。隣の客の男性がオムライスを注文してそれが運ばれてきたときにウエートレスさんに「ナイフかなにかください」と頼むと「あ、フォークですかね」と言って持ってきたのはなぜかスプーン。そのお客さんは特に気にせずにそのままスプーンを使うのですが、そのときにオムライスの皮をはがして中のチキンライスだけをきれいに食べて卵には手を付けずに帰って行った。これは一体どういうことでしょうか?という相談へのらもさんの回答に驚きました。その喫茶店は某国スパイの連絡場所。ナイフとフォークは指定の合言葉でスプーンには「ピンチなのですくってくれ」という意味が隠されている。そしてその客はオムライスの皮にマイクロフィルムを包んで出て行ったというものでした。いや~、そのぶっ飛んだ発想力に感服しました。
僕の推理というか意見は「ナイフかなにかください」は「ナイフとフォークをください」と言おうとしたのがたまたま「ナイフかなにか」と言ってしまったのに対して「ナイフよりフォークがいいですよね」とウエートレスさんは自然な対応。さらにウエートレスさんはフォークよりもスプーンの方がもっと食べやすいだろうと親切心で持ってきたというだけのことだと思います。至ってごくふつうの光景です。そしてもう一つの疑問。皮を食べなかったのはきっとその男性が卵が苦手だからです。え!?それならオムライスは頼まないだろうとお考えですか。確かに最近は食品ロスの問題があるのでもうやりませんが、若い頃は僕も同じことをやった覚えがあるのです。オムライスはダメだけどチキンライスは大の好物なのです。それにしてもらもさんの想像力の逞しさにはかないません。
スミマセン。さきほど90年代後半と言いましたが、調べてみるとこの連載は1984年から1995年までなので僕の記憶違いですね。しかし記事の内容には自信があります。終電を逃して六本木の居酒屋「天狗」に朝までいたことは間違いないので。急に中島らもが読みたくなって本棚を探したのですがどうやら去年断捨離したとき(※クリエイティブ探検隊⑳)に処分したようで本屋さんに行って「今夜、すべてのバーで」の新装版(※写真②)を購入しました。僕はなぜ同じ本を何度も買ってしまうのでしょうか、という質問を天国のらもさんにしてみたい気分になりました。
ところで、春本番とか夏本番というコトバ。それじゃそれまでの日々はリハーサルなの?という屁理屈な話はまたの機会に。