ASEANのクリエイティブ産業事情~タイ~
Fellows Creative Staff Singapore PTE. LTD.(以下「Fellows Singapore」)代表の大石隼矢(おおいしじゅんや)です。
シンガポールは3月になりましたが、そろそろ雨季も終わって乾季のシーズンに入ろうとしています。スコールのような短時間の雨が多いシンガポールでは、日中30℃を超える日が続くので一時の天の恵みのように思えます。どうしてか土日に集中する気がしていて、外でのアクティビティが少々制限されるのですが、それもこの土地の風物詩として楽しめているのは僕だけでしょうか。ちなみにホテルでのステイケーション*1も解禁されているので、普段止まれない高級ホテルに比較的安価で宿泊できたりするようです。その他、シンガポール国内のみでクルーズ船の宿泊プランなどもありコロナ禍でも家族の時間を有意義に使う人達もいます。
*1 「ステイ(滞在)」と、「バケーション(休暇)」から生まれた欧米発造語。自宅や近場で過ごすという意味
さて第4回のコラムは、シンガポール、インドネシアに続き、「東南アジアのデトロイト」と言われるタイについて書きたいと思います。こちらで出会ったデザイナーとお話をする機会があったのですが、「タイはストーリーテリングが強い国だ。広告やコマーシャルはストーリー重視の作品が多く、日本の感覚と近いかもしれない」と言っていました。日本でも、YoutubeやFacebookなど、様々なメディアでこの感動的な動画が話題になっていますね。そんなタイについて調べてみました。
*前回同様にクリエイティブ産業の大分類として、映像・音声/マスコミ/ゲーム/広告・デザイン/出版/WEBサービス/ソフトウェア/建築設計としたいと思います。
まずタイという国の概要をご紹介いたします。
タイは東南アジア地域にあり、シンガポールから見て北方に位置しミャンマー、ラオス、カンボジアに隣接しています。首都はバンコクで、人口は約6千8百万人。
主要産業では、農業が全就業人口の40%を占めているもののGDPは全体の12%(約1.39兆バーツ:約4.95兆円)。一方で、自動車産業をはじめとした製造業への就業者は約15%だがGDPは全体の約34%(約4.56兆バーツ:約15.98兆円)とのこと。(2019年におけるGDP比率)
それではコンテンツ産業の規模はどのようになっているのでしょうか。
映画興行収入は約41億バーツ(約1.45兆円)、ゲーム市場は約157億バーツ(約5.5兆円)、テレビ市場は約616億バーツ(21.8兆円)、アニメ市場は40億バーツ(約1.41兆円)となっています。(JETROによるタイコンテンツ市場調べ2018年3月発表)
タイの映像コンテンツ市場全体を見ると、映画館へ足を運んだり地上波のテレビを見るよりも、サブスクリプション型の配信サービスを利用する人が増えている傾向にあるようです。実際にタイ国内の主な動画配信サービスは、国内会員数が最も多いタイ発のMONOMAX、Dooneeをはじめ、True IDTV、シンガポール発HOOQ、マレーシア発Iflix、アメリカ発Primetime、HollywoodHDTV、Netflixなどがあります。タイ国内では若者のテレビ離れが進んでいるというニュースもあり、どこか日本と同じような感覚があります。タイ国内にあるテレビ局は国営を合わせて全20局以上ありますが、広告費がオンライン媒体へ流出していることもあり、経営状況はあまりよくないそう。フォーマット購入した番組をタイ版にローカライズ制作して頑張っているようですが、この先の見通しは不透明な状況のようです。
一方でゲーム市場は成長著しく、タイゲーム協会はモバイルゲームが年20~30%、オンラインPCゲームは年9%~12%の成長を予測しています。ちなみに日本メーカーとしては2018年にコナミがタイに拠点を開設していますが、多くは中国、韓国、台湾のゲームメーカーが進出しているようです。
次にITやソフトウェア開発などのデジタル市場についてですが、2015年にタイ政府は「タイ4.0」という政策を打ち出しています。産業の高度化を目指した同ビジョンでは、タイ東部3県にハイテク産業を誘致する東部経済圏(EEC)計画を立ち上げ、AI(人口知能)やIoT(モノのインターネット)といったデジタル技術の活用を進めようとしました。現在、タイではソフトウェア開発、IoT、電子マネー決済(eペイメント)、電子商取引(eコマース)の他、デジタルコンテンツの市場が急拡大し、一般消費者の日常生活レベルでもデジタルの浸透を感じるまでに至っているようです。タイ政府は、デジタル関連の市場が2027年までにタイのGDPの25%を占めるだろうと予測しています。
タイランド4.0を立ち上げたプラユット首相が、『今後20年をかけて、工場(モノをつくる)としての役割から、価値を創り出す経済への転換を図ること』とスピーチしたように、農業や製造業といった旧来のタイから新しいタイへと進んでいくことでしょう。
ちなみに人材募集の面ではLinkedin社が発表している「Emerging Jobs Report Thailand」にて、Top10のうち9職種がデジタル関連の職種です。
2位Back-end Developer
3位Data Engineer
4位 Full Stack Engineer
5位Product Owner
6位Data Analyst
7位 User Experience Designer
8位 Talent Acquisition Specialist
9位 Digital Marketing Specialist
10位 Front-end Developer
「Emerging Jobs Report Thailand」より
タイ国内では賃金の上昇や生産性の向上への対応として、自動化、省人化へのニーズが強まっており、日本の製造業の基盤を支えるタイ国内の中堅企業や中小企業においてもAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)への関心度は高いです。タイへの進出を狙う日系スタートアップも多く、それに伴い高いスキルを持った開発者やデザイナー、プログラマーの募集が増えてくるでしょう。冒頭で触れたタイのクリエイティブがストーリーテリングなものが多い、という感覚はタイがこの数年で発展させてきたデジタル化の流れを促進するためのものなのでしょう。現地に行ってローカルの人たちにインタビューしてみたいと感じました。そうすれば日本とタイのクリエイティブの共通点についてもっと知れるかもしれません。コロナウイルスによる渡航制限が解除された際には、私もタイを訪問し、フェローズ進出の可能性を探りたいと思っています。このコラムを読んでくださった方のなかで、タイのクリエイティブ事情を知っているという方がいたらぜひお問合せください。
好きなバンドはOasis、最近の趣味はNetflixで英語学習、尊敬する歴史上の人物は吉田松陰と白洲次郎、好きな食べ物はカレーライスとらっきょう、嫌いな食べ物はかぼちゃと大学芋、みずがめ座B型、佐々木希とジェームズディーンと富岡義勇(鬼滅の刃)と同じ誕生日。
Twitter:@junya_oishi