見つけた!思い出のかけら @Eagle Gallery
先月4月12日、ロックダウンの規制が一部解除されることになり、ようやく小さなギャラリーから少しずつ再開し始めたロンドンの美術ギャラリー。テイトのような大きなギャラリーなどはまだ再開はしていないものの(政府の声明次第で再開は5月半ば以降?)そんな早速再開したインディペンデントギャラリーの一つ、Eagle Galleryを訪れてみました。
今年初めてでしょうか、久しぶりにロンドンのゾーン1を訪れた私。イズリントン区にあるファリンドン駅を出ると昼時ということもあり、駅前の和食のお弁当屋には列ができていました。ロンドンの町が徐々に通常に戻りつつある気配を感じさせます。とはいえ現時点では飲食店は持ち帰りか外での飲食のみ可能。イギリス気象庁によると、今年4月の平均気温はほぼ100年ぶりの1922年以来の最低気温を記録し、夜はまだ5度以下。パブやレストランに行ったものの寒くて風邪ひきそうだったという悲鳴があちこちから聞かれています。
さて5分ほど北へ大通りに沿って歩いて行くと、グリーンの壁にクリーム色でThe Eagleと書かれたパブがみえてきます。イーグルギャラリーはこの上の階。
サイドエントランスのブザーを押してしばらくするとドアのロックが解除され、ドアを開けると「お待たせしてごめんなさい。こちらへどうぞ。」とたった今、階段を駆け下りてきたらしい女性が息を切らせてそこに。女性の後について急な階段を上ると、通させれたのは正面に暖炉のある6畳ほどの小さな部屋。
あれ、このギャラリー、こんなに小さかったんだっけ?, と聞いてみるとメインギャラリーは現在まだ閉鎖中とのこと。迎えてくれたのは、実はギャラリーオーナーのEmma Hill。エマの運営するこのギャラリーは今年で30周年を迎えるそう。以前はロンドンのあちこちにあった、パブの上階スペースを利用したギャラリーですが、今では数少ないそんな個人ギャラリーの一つ。
さてそこにずらりと並ぶのは両手で丁度抱えられるほどの大きさのコンクリートの瓦礫の塊。一つ一つの瓦礫をみると、そこには公共団地のような建物が詳細に描かれています。
ベランダにはシーツや洗濯物が干され、鳩よけネットが張られ、窓にはカーテンが吊るされています。壁には落書きも。時折窓やドアが開いていたり、駐車場には車がとまっていたりして、人の気配は感じられるものの、その姿は見えません。
わずかに夜のシーンを描いた作品の中に明かりを通して人影のシルエットが見えるだけ。そこに住んでいる人はいったいどうなったのかと胸騒ぎを感じさせます。
今回の個展はHarriet Mena Hillの「The Aylesbury Fragments」エイルスブリーのかけらというその表題から察せられるように、瓦礫には、Aylesbury Estateという、タワーブロック(高層の公共住宅)が描かれています。Aylesbury Estateは1963年〜1977年にかけてロンドンの最も貧しいサザーク地区にあったスラム街を一掃するため、戦後の理想郷として、一万人の住民を収容可能なヨーロッパ最大級のコンクリート集合住宅として建てられました。
しかし、コラムの第94回でも当時のタワーブロック問題に触れているように、このブルータリズムの理想郷も他の例にもれず、その後は退廃の道を歩みました。そして、現在では再開発が進んでいて、かつてのユートピアは瓦礫へと消えていきました。
作家のHarriet Mena Hillは建物が取り壊される以前にそこで育った10代の住人たちとアートを通じたワークショップを行なっており、彼らの思い出の家の瓦礫そのものを使った作品のインスピレーションに繋がったといいます。ギャラリーオーナーのエマによると、パンデミックで予定が狂ってしまったものの、さらに数名の作家を加えたAylesbury Estateをテーマにした他のギャラリーとのコラボレーション展示の企画がもともとあったそうで、実現したら是非訪れてみたいと思います。