「ワクワクチンチン♪ワクチンチン♫」
パブロ・ディエーゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピーン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ。
ピカソの本名。長いです。これで一人前。
コロナ禍生活15カ月目。ステイホームが当たり前の毎日ですが僕の好きな散歩にはあまり規制が及びません。ただ今回三度目の禁酒法のような緊急事態宣言が出てからは途中でフラッと店に立ち寄りビールを一杯という楽しみは減りました。しかしその分を取り戻すかのような別の楽しみが見つかりました。新しい趣味は暗記です。
これまでもコピーや企画が思い付かなかったり、煮詰まったりしたときは外に出てただひたすら歩きながら考えることはありましたが、それとはだいぶ趣が違います。怪我ではないな、コロナの功名とでも言うのでしょうか。もはや顔の一部になりつつあるマスクのおかげで歩きながらブツブツ言ってもすれ違うほとんどの人はスル―です。ときどき小さな子どもが気付くみたいでキョロキョロされることはあります。
あれは三年前(ちあきなおみの「喝采」のメロディで書いてみました。令和世代にはわからないだろうな~)、ふと人生の残り時間が少ないことに気付いて生きてる間に覚えたい文言や台詞や言い立てや歌詞などをノートにザッと100書き出しました(※写真①)。今では150に増えました。それを散歩のたびに一つまた一つとブツブツ暗記していくのです。「いえやす・ひでただ・いえみつ・いえつな・つなよし・いえのぶ・いえつぐ・よしむね・いえしげ・いえはる・いえなり・いえよし・いえさだ・いえもち・よしのぶ!ヨッシャ徳川15代完璧!!」とか「日本国憲法第23条、 学問の自由は、これを保障する」とか「わたくし生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯を使い、姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します」とか。
暗記したいもののほとんどは昔々から語り継がれているものや名作の類ですが、「作詞・きゃろらいんちゃろんぷろっぷきゃりーぱみゅぱみゅ、作曲・ヤーコプ・ルートヴィヒ・フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ、ピアノ・ゲオルギー・ヘミング・イングリッド・フジコ、バックダンサー・えがしらにじごじゅっぷん」や落語の「寿限無」風な言い回しで「バカルディバカルディはさまぁ~ず、会砂利水魚はくりぃむしちゅー、欅坂は櫻坂、アンドレ・カンドレ井上陽水、遠峯ありさは華原朋美、おさる改めモンキッキー、コアラ改めハッピーハッピー」など自作のものもいくつか入れています。
とはいえ散歩中は誘惑だらけというか、そもそも道草好きなので何か気にかかるものが目に入った時点でその日の暗記タイムは終了です。5月某日豊島区鬼子母神前、この日は「どうしようもないわたしが歩いている 種田山頭火」という一行だけを早々と覚えてテクテクしていると前から来た三人の小学生(※写真②)が聞き覚えのないクセの強い抑揚で「ワクワクチンチン♪ワクチンチン♫」というフレーズを連呼しています。三人ともマスクはしっかりしていますが、明らかに子どもの声なので発信源は確かです。何なんだ、この強い一行は。そんじょそこらのコピーライターには太刀打ちできません。すぐにスマホにメモりました。
その日の夜、家に戻ってメモを見返し思い出そうとするのですが、子どもたちの発していたイントネーションがわかりません。しまった、動画で撮っておけばよかった、と少し後悔。そのかわりになぜか僕が子どもの頃によく見聞きした「戸締り用心火の用心」のCM(日本船舶振興会)のあの曲の旋律が浮かんでしまいます。「あの曲」で分からない人はゴメンなさい。一度聴いたら耳から離れない「あの曲」です!「戸締り用心火の用心」と「ワクワクチンチンワクチンチン」は文字数がピッタリ一緒。なるほど嵌るはずですね。作曲は「一年生になったら」や「8時だョ!全員集合」や「こぶたたぬきねこ」や「男はつらいよ」他ヒット曲だらけの山本直純、流石です。
ところで、その昔(1984年)オリンパスが「ピカソ」という名前のカメラを発売して、欲しいけど高くて買えなかったんだよなぁ、という話はまたの機会に。