ASEANのクリエイティブ産業事情~フィリピン~
Fellows Creative Staff Singapore PTE. LTD.(以下「Fellows Singapore」)代表の大石隼矢(おおいしじゅんや)です。
シンガポールも6月に入りましたが日本のように梅雨入りはなく、気温も変わらず30℃の晴天とたまにスコールを繰り返しています。コロナウイルス感染対策の規制は引き続き強いままですが、6月14日からは外出時の人数制限を2名から5名に緩和、また21日からは「感染者数が抑えられている場合のみ」飲食店での店内飲食が認められるようになる、などが発表されました。一方で、オフィスへの出勤は在宅勤務をデフォルトにするよう引き続き要請されています
シンガポールのワクチン接種状況は、12歳~39歳の年齢層へのワクチン接種も近日中に開始され、それにより国内のワクチン接種はほぼ完了する見込みです。在住の日本人の間では一日も早い外出規制の緩和を願う声も多くありますが、このように計画的にワクチン接種も順調に進んでいるので、それが完了するのを待っても良いのではないかと感じています。私にも飲食店経営をされている友人がいるので、協力しながら今よりも安全に外食を楽しめる日が来るまで、お互いに助け合っていきたいと強く思っています。
さて第7回のコラムはフィリピンについて書きたいと思います。
*前回同様にクリエイティブ産業の大分類として、映像・音声/マスコミ/ゲーム/広告・デザイン/出版/WEBサービス/ソフトウェア/建築設計としたいと思います。
まずフィリピンという国の概要をご紹介いたします。
フィリピンは北東の位置にある大きな島国です。これまで地図上で調べたことがなかったので驚きましたが、フィリピンは日本からも近いんですね。日本とフィリピンの歴史を調べてみると、豊臣秀吉の時代から国交があったようです。フィリピンがスペイン・アメリカの占領下となった後、第二次世界大戦には日本軍が占領していた時代もあり、フィリピン人の中には日本をよく思わない人々もいたようです。戦後は関係も回復し、今では主要な貿易相手先国の一つにまで成長しています。そんな歴史を持つフィリピンは現在人口が1億800万人を超えています。平均年齢が24歳というとても若い年齢層というのも一つの特徴で、豊富な労働力があるという良い面と爆発的な人口増加により、ここ数年で学校などの施設が足りなくなったり、都市部の過密化が問題になったりしています。公用語はフィリピノ語と英語でその他80近くの言語を使用しています。英語のレベルは英語能力ランキング(EFEPI発表)では「高い」にカテゴライズされていて、アジア24か国中ではシンガポールに次いで第2位となっています(ちなみに日本は9位/24か国で、「低い」に該当)。こちらで人材紹介をしていると日本語スピーカーの求人をもらうことも少なくはないのですが、同時に求められるのが英語力。私個人としては「きれいな英語」よりも「伝わる英語」を話せる方が重宝されると思っていますが、どうやら多くの日本人は「きれいな英語を話せない=英語ができない」と考えてしまう方も多く、ここに日本の英語力の低さの理由が垣間見えます。先日、日本のドラマ「ドラゴン桜」を見たのですが、劇中で阿部 寛も言っていました。「日本人に英語を話せますか?と聞くと、だいたいはこう答える“I can’t speak English very well” 間違っていないが、では逆にアメリカ人に日本語を話せますか?と聞くと、どうこたえると思う?”Yes I can! I know Sumo and I love Sushi” といったように答える人が多いと思わないか?」極端な例だとは思いますが、この辺りのマインドが違うんだと思いますね。
さて次に、フィリピンの主要産業についてご紹介します。GDPで見ると、サービス業が約60%、鉱工業が30%、農林水産業が10%という割合になっています。
参考資料:https://www.dti.gov.ph/uncategorized/gross-domestic-product-gdp/
それではクリエイティブやコンテンツ産業の規模はどのようになっているのでしょうか。まずフィリピンの総人口とデジタルユーザー数について興味深い情報がありました。総人口の71%以上はインターネットサービスを利用しており、ソーシャルメディアを利用しているユーザー数も総人口の半数以上となっています。さらに約8,700万人はモバイルユーザーとなっているほか、最も多いFacebookの利用者は約7,500万でした。インターネットユーザーがこれほどまでに急増している理由は、国内の遠距離通信のインフラが改善されてきており、それに伴ってインターネット環境にアクセスできる人々の比率が高まっているためです。また、スターモバイルやチェリーモバイルといった、フィリピンの現地企業が開発した携帯電話が、海外ブランドよりも遥かに安価で販売されているため、低コストでモバイル端末が購入できるのも要因の一つのようです。フィリピンでは、国民の大半はインターネットを利用しており、デジタルユーザーが非常に多い国へと変わりました。その影響もありEC市場が急拡大しています。日本でも同じようなことが言えるかもしれませんが、EC市場が拡大すると各社が自社ブランディングやマーケティングに力を入れるようになり、各種広告にもクリエイティブが投入されます。フィリピンで実際に放送されているCMを探してみたところ、ユニークな作品を見つけました。
笑ってしまいますよね。この記事によれば放送後、大バズりしたそう。紹介された商品も在庫切れが多発したとのことで、マーケティング的には大成功のようです。
こういったCMはフィリピン国内で制作されているのでしょうか。フィリピン国内の映像プロダクションはある程度の規模感で約70社程度ありました。前述のCMを制作したのはGigilという国内のプロダクションでWebサイトをチェックしてみると独立系プロダクションとしての賞を獲得しているようです。フィリピンのセブ島に拠点を置くITオフショア開発やクリエイティブ事業を手掛けるCYOLABのWebサイト(https://cyolab.sg/)によれば、欧米企業による受託先として前年比約20%の成長を継続しているそう。映像領域やWebデザイン、建築分野での3Dモデリング等、多くのデジタル分野で活躍が期待されるフィリピンですが、周辺の東南アジア諸国に比べてクリエイティブ産業に関する法令の整備が遅れていました。そのためプロダクションやエージェンシーも少なかったようです。近年では政府主導でフィリピンのクリエイティブ経済を促進するための法律の整備が進められ、何十年にもわたっていくつもの政権に無視されてきたフィリピンのクリエイティブ産業に、ついに適切な支援を与えることを目的とした「Philippine Creative Industries Act」が制定されました。この法律では、成長産業であるデジタル領域での様々なサービスが世界市場でのチャンスを得るために必要な支援やインセンティブを得られるようにすることを可能にしています。
平均年齢24歳とかなり若い年齢層を有するフィリピン。デジタルネイティブ世代がこれからのフィリピンの経済成長をけん引していくのでしょう。コロナウイルスによる規制が緩和された時には現地に赴き、フィリピンの若い情熱や活気に触れてみたいと思います。きっとそこにはフェローズを必要としている人々がいるでしょう。クリエイティブやデジタル領域で自分のスキルを高めたいと願う人や映像やゲームなどのエンタテインメントを仕事にしたいと思っているけどその道に進めていないという人はシンガポールでも出会います。そういった人々へ機会を提供できるように、企業とクリエイターの縁を繋いでいきます。
好きなバンドはOasis、最近の趣味はNetflixで英語学習、尊敬する歴史上の人物は吉田松陰と白洲次郎、好きな食べ物はカレーライスとらっきょう、嫌いな食べ物はかぼちゃと大学芋、みずがめ座B型、佐々木希とジェームズディーンと富岡義勇(鬼滅の刃)と同じ誕生日。
Twitter:@junya_oishi