シンガポールで働く~駐在員と現地採用とはどう違うの?~

Vol.8
Fellows Creative Staff Singapore Pte. Ltd. エージェント/マネージングディレクター
Junya Oishi
大石 隼矢

Fellows Creative Staff Singapore PTE. LTD.代表の大石隼矢(おおいしじゅんや)です。

いつもコラムをお読みいただきありがとうございます。第7回までASEAN諸国のクリエイティブ事情を経済や政治的背景を軸にお伝えしてまいりましたが、今回からはまた別の視点でシンガポールやASEANについてお伝えしてまいります。

私は日本の12拠点でクリエイターの人材マネジメントやクリエイティブセミナーの運営を行っている株式会社フェローズの子会社であるFellows Creative Staff Singapore PTE. LTD.の代表として2020年9月からここシンガポールで仕事をしています。大学を卒業し、新卒で株式会フェローズに入社、会社の成長に多少なりとも貢献した実績への評価と期待を受けて、この子会社設立と同時に移籍してきました。そういった経緯の私ですが、人材紹介という仕事柄知りえたことや、私自身の入国当時の経験、シンガポールでの生活、シンガポールのクリエイターなどについてお伝えすることで、シンガポールやASEAN各国で仕事をしたい、生活したい、という方への何らかのヒントになればと思います。
今回は「シンガポールで働く~駐在員と現地採用とはどう違うの?~」をお送りします。

海外で仕事をする方法は大きく分けて2つあります。1つは海外駐在員で、もう1つは現地採用者です。それぞれのなんとなくの違いはイメージできているかもしれませんが、ここで改めて違いを確認していきましょう。

【駐在員】

駐在員とは、日本の企業に入社後、海外の事業所やグループ会社などに転勤を命じられて赴任する人のこと。後ほど触れる待遇面などから海外で仕事をしたい人にとっては夢のようなチャンスといえます。ちなみにここシンガポールで私が出会う日本人の半数以上は駐在員の方々です。大手商社、メーカー、IT関連、広告代理店など様々です。

■駐在員のメリット

・世界規模での仕事にかかわるチャンスがある

シンガポールは東南アジアの中でもRegional Head Quarterを置く企業が多く、現地と合同プロジェクトを担当したり、ローカル社員のマネジメントを行うような要職に就いていたりするケースも多いようです。英語が公用語の一つでもあり、アメリカ、イギリスなどの欧米諸国やオーストラリアやニュージランドの企業やビジネスマンも多く居住しています。そのためアジアというくくりだけでなく、国際的な感覚を味わいながら仕事に携わる経験を積むことができると言えます。

・給料UP、福利厚生が充実しているケースが多い

多くの場合、日本でもらっていた給料+海外での生活分が現地通貨で支払われます。また、家賃が全額補助が出る企業や、納税分をキャッシュバックする企業、エンタメフィーとして接待料金を負担してくれる企業、などなど他にも企業ごとのallowanceが異なっています。フィリピンやタイなどでは自宅から会社まで専任のドライバーによる送迎が付いているなんていう企業も。現地での生活費が十分受け取れるので、日本の口座に入金される給与がイコール貯金になっている、という方は少なくありません。

■駐在員のデメリット

・駐在先の国・期間が選べない

一方で会社からの指令で海外に赴任するため、駐在先を選ぶことが難しい場合があります。希望は出せるとは思いますが、基本的には会社命令なので選ぶことができないと思った方がよいでしょう。アメリカに行きたい人が南米に、ヨーロッパに行きたい人が東南アジアに行く可能性は十分あります。期間が決められていることほとんどで、聞き取りをしたところ3-5年の任期が半数以上を占めていました。帰国したいタイミングに帰国できなかったり、駐在を続けたいのに帰国しなければいけなかったりと、自由度の低さがあります。

・制限がある

特にシンガポールですが、法律が厳しいことで有名です。現在はCovid-19による外出規制などがあるため尚更なのですが、駐在員として来ている=本社の代表として赴任するケースもあるため、収入が多くてついつい羽目を外したくなりますが一度でも法律に罰せられるようなことがあると、最悪就労ビザの取り消しや強制送還もあり得ます。そしてこれは会社にも多大な迷惑が掛かります。企業情報や就労情報は細かく管理されているため、当局から企業への注意勧告やペナルティが発生することもあります。

【現地採用者】

現地採用者とは、現地企業に直接雇用されて就業する人のこと。自ら応募したりエージェントを介して転職をするのですが、日本企業に籍を置いていない点が駐在員との違いです。私がシンガポールで出会う日本人の3~4割くらいが現地採用の方です。聞いてみると、駐在員で来星した後に転職をした方が多く、独立して飲食店や美容室を経営している方々もいます。

■現地採用のメリット

・年齢関係なく誰にでも挑戦するチャンスがある

これが1番大きなメリット言えるでしょう。駐在員の場合、社内で希望者を募ったり、上司からの指名されたりすることで海外への赴任が決まります。駐在員になるまでに数年は社内で経験を積む必要があるので、実際に海外で仕事をするまでには時間が掛かります。しかし現地採用の場合は、「海外で仕事をしたい!」と思ったらすぐに挑戦することができます。後述しますが、シンガポールは近年ビザ基準の厳格化があるものの、明確なルールに沿っているため、要件クリアすることができれば就業チャンスをつかむことができます。

・働く国・期間・職種を選べる

駐在員とは違い、現地採用は働く国も期間も職種も自分で選ぶことができます。働く場所は海外ですが、仕事の探し方は日本で転職する場合と同じ仕組みです。自分が好きな国で仕事をすることができ、日本に帰りたくなったら自分のタイミングで帰国することもできます。駐在員よりも自由度が高いと言えるでしょう。たしかに待遇面では駐在員に劣るものの、ポジティブに考えれば現地に根付いたお店も多く、より安価でおいしい食材も手に入るため、生活の知恵やサバイバル力が身につくでしょう。私も駐在ではないため、コロナ禍では毎日自炊をしていますし、こちらの食材を活用して作る料理のレバートリーもかなり増えました。日本のモノが恋しくなった際にもDon Don Donki(ドン・キホーテのシンガポール名称)があり比較的安価で手に入ります。また最近では和牛を扱うお肉屋さんや国産の魚を扱う魚屋さんもあり楽しいです。

■現地採用のデメリット

・駐在員と比べ給与が低いため、同じ日本人でも格差が生まれやすい

これは仕方ない部分もありますが、駐在員は会社命令であることに比べて現地採用は自分の意志で入社するため、現地の給与水準になります。業界や職種、役職によりことなりますが、例えば先日採用が決まった20代のWebデザイナーは3,300シンガポールドルでした。日本円を82円とすると、270,600円です。一方で駐在員は6000~10000シンガポールドル以上の給与が多く、加えて福利厚生や手当がついている方もいます。

・仕事探しが簡単ではない

シンガポールの場合、就労ビザに厳格なルールがあるため気軽に入国して仕事探し!ということはできません。「そんなに高い給与は要らない」と言っても法律上決められている指標なので、採用側としては避けて通ることができません。実際に私も去年から今年の初めは失業者や転職希望者から多くの相談を受けました。日本人が現地で就労できるビザの種類としてメジャーなものはEmployment Pass(EP)とSpass(SP)です。EPは在シンガポールの日本人で最も多い就労ビザになります。厳格なルールがあり、ビザ取得要件には年齢、学歴、職歴が大きく関わってきます。例えば、30歳、職歴9年、学歴Tier3*ですと、6000~7000シンガポールドル以上の給与が必要となってきます。この金額を上回る給与が支給されるということを申請時に明記する必要があります。厳格な~と言ったのはこの給与基準をクリアできて初めてシンガポールで就業するチャンスが見えてくるということです。

*Tier:大学をランクで分けたカテゴリ

まとめ】

今回は、シンガポールにおいての就業を駐在と現地採用を比較しながらお伝えしました。好きなタイミングで海外に挑戦できるのが現地採用のいいところだと思いますし、コロナ禍の日本から飛び出して海外に移住したいという方も多いのではないでしょうか。一方で自由にチャレンジできる権利があるとはいえ、今すぐに渡航できるかという点においては答えはノーです。もしシンガポールでの就業にチャレンジをしたい場合は、まずは日本から採用中の企業とコンタクトをとることをお勧めいたします。私たちはそのお手伝いができればと思います。

次回は「シンガポールでクリエイティブの仕事につくには」ということを切り取ってお話しできればと思います。

プロフィール
Fellows Creative Staff Singapore Pte. Ltd. エージェント/マネージングディレクター
大石 隼矢
1990年 静岡県焼津市生まれ。小さいころからサッカーに魅了され、日韓ワールドカップで来日したデイビッド・ベッカムの話す英語に衝撃を受け、自分も話せるようになりたい!と大学は外国語大学へ。2010年カナダ・ウエスタンオンタリオ大学へ交換留学。
2012年株式会社フェローズ入社。ブロードキャスト・ビジュアルセクション。2020年4月にフェローズ初の海外拠点であるFellows Creative Staff Singapore Pte. Ltd.の責任者に就任。
好きなバンドはOasis、最近の趣味はNetflixで英語学習、尊敬する歴史上の人物は吉田松陰と白洲次郎、好きな食べ物はカレーライスとらっきょう、嫌いな食べ物はかぼちゃと大学芋、みずがめ座B型、佐々木希とジェームズディーンと富岡義勇(鬼滅の刃)と同じ誕生日。
Twitter:@junya_oishi

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