何だかわかる? Can We Ever Know Meaning Of These Objects? @Gallery 46
東ロンドンのホワイトチャペル駅をでて、大通りをわたり、飛び込み専用の仮設ワクチン接種会場であるワゴン車の並ぶNHS病院の前を通り越すと左手遠方に人集りが。その人集りが双子のように対になったジョージアン建築の建物 – Gallery 46 に吸い込まれていくのが見えます。今回はこちらGallery 46 から、グループ展「Can We Ever Know Meaning Of These Objects?」をお伝えします。人工物と歴史的人工物の関係をアートを通して探求してみようという試みで、キュレーションは自らもアーティストの Kevin Quigley とこのコラムでもお馴染みのSarah Sparkes。
まずは祭壇の並ぶ厳かな部屋へ。パノラマ状に広がった層を成す台座にチェスの駒のようにならぶのは、木に鳥、子鹿、羊、アザラシ、ワニなどの自然や動物に加え、不思議な鳥人、ツノのある人?など。タイトルから、ツノのある人は北欧神話に出てくるトリックスターの巨神、ロキであることがわかります。まるで神話の一場面を再現したような作品はVictoria Ranceの合金、白目(ピューター)を鋳造した彫刻作品。
狭く急な階段を登ると今度は博物館のアーカイブ室のような小さな部屋。様々な鳥のさえずりが聞こえてきて、のどかな田舎にいるようです。壁には資料の山積みになった研究者の書斎の写真、古墳の隣に佇む男性の写真、白亜の崖の前を歩く少女。机の上に置かれた古いキャビネットの引き出しは少しだけ開けられ、写真やスケッチなどが顔を覗かせています。右上のスライド映写機を覗くとガラス製のスライドが遺跡を彷彿させるイメージを映し出しています。考古学者の書斎に迷い込んだようなインスタレーションはEleanor Bowenの作品。
隣の部屋から静かにゆっくり呼吸する音が聞こえてきます。パフォーマンスを行なっていたのはCaroline Gregory。首から背骨—脊椎を示唆するオブジェが下げられ、骨のようなオブジェも周りに置かれています。どこへ行くにもマスクを着用しなければならなくなった現在の状況下で、ただ呼吸することの大切さ、ありがたさに気づいた方も多いはず。実際ストレスのある浅い呼吸は脳の血管が収縮し新鮮な血液を脳へ上げにくくする一方で、ゆっくりリラックスした呼吸は、脳の血管を開き、脳へ新鮮な血液を送り脳を活性化させ、さらには脳神経、脊髄を通して体全体の健康につながるのだとか。
遠方まで広がる黄金色の砂漠を飛び回るのはUFO!のような謎の物体。地上では幾何学模様の何かがその物体と通信している様子。作品はLisa McKendrickの油彩、「Machine Land, 2021」。
部屋のコーナーに立てかけられていたのは美術品を収めるキャビネット。周りには焚き火用の木切れが添えられ、左手にはガソリン缶のようなものも置かれています。さらにキャビネットの中からメラメラと火が燃えていてなんだか物騒。そして上の棚には小さな骨壷のような容器が収められています。作品の素材表記から、その容器には2004年のMomart美術倉庫の火災の際の灰が収められていることが明かされます。当時の火災でイギリス現代美術を代表する100点以上の作品が灰になり、トレイシー・エミンやダミアン・ハーストなどの作品を含むチャールズ・サーチのコレクションの多くも灰になったことで知られています。作品はMartin Sextonの「Today A Flame – Tomorrow Ashes, 2021」。
杖を立てかけ、そこに座り込んでいるのは誰?
土や木の根、粘土、布など素材を使い、自然に同化しつつある隠者を表現したのは Luke Jordanの「The Hermit, 2021」。
隣の建物に渡り、最後の部屋へ。そこはまるで陶芸工房のよう!Associated Clay Workers Unionと称した11名の陶芸家が共同展示を行なっていました。まず目に飛び込んでくるのは手前の仁王の阿形(あぎょう)像のように口を開き、怒りをあらわにした首像。作者の Jo Pearl は、コロナ禍中での人々のストレス、フラストレーションや怒りを表現したのだとか。モデルを務めたのは彼の友人たち。作品は「London, 2020」。
窯から焼きあがってきたのはまるで生き物のような壺たち、窯の上には科学の実験装置のようなものが設置されています。シュルレアリストの世界を彫刻で表現したような作品はDuncan Hooson の「Testin, Testing, Testing. Wtf!, 2021」。
もしすり鉢とすりこぎが生き物になって、会話を始めたらこんな感じかも?ユーモラスなせっ器はDanuta Solowiejの作品。
38名の作家の参加した展示、まだまだ紹介しきれませんが、文字数が限られているのでこの辺で。
家族のメンバーの遺品を整理していたら、大切にしまわれていた使い道も意味もわからないものが見つかり、家族全員が謎解きにエキサイトしたという話を展示会場で聞きました。結局私たちは、ものそのものだけでなくそれにまつわる物語にさらなる魅力を感じるのかもしれません。