職種その他2013.07.10

英国スタイルのBunraku(文楽)がやってきた!

London Art Trail Vol.13
London Art Trail 笠原みゆき

毎夏8月、スコットランドの首都エディンバラで開催される世界最大の芸術祭であるエディンバラ・フェスティバル・フリンジ(Edinburgh Festival Fringe)。 公演芸術(performing arts)中心の芸術祭であり、1947年第1回エディンバラ国際フェスティバルが開催された際、招待されなかった8つの劇団が自主的に公演をおこなったのがフリンジの始まりといわれています。

この伝統を受け継ぎ、プロ・アマ問わず、資格審査も一切なく、登録料と参加費を収めて会場を見つけさえすれば、誰でも公演できるユニークなシステムをもつのが特徴。このエジンバラ・フリンジで昨年チケット完売、スマッシュヒットを飾った、日本の文楽(人形浄瑠璃)スタイルの英国の若い人形劇団がロンドンで公演すると聞き、早速観てきました。

The London Wonderground

The London Wonderground / 右奥がテントの入り口

会場はテムズ川ほとりのサウスバンクに設置された1920年代の伝統的なスピーゲル•テント(サーカステント)劇場のThe London Wonderground。開演前の会場の前には既に長い列が。

目も鼻も口もない、でもパーソナリティーはしっかりある、アクの濃い東ユーロピアン兄弟、BorisとSergeyのエネルギッシュなパペット(操り人形)が人形師たちを振り回すかのように舞台を展開していきます。

あまりにパペットの口が悪いので、舞台は子供厳禁!(15歳以上から)。西洋の伝統的な片手遣い人形 (hand puppet あるいは glove puppet)や糸操り人形(マリオネット)ではなく、操作する人形師が黒装束あるいはそのままの姿で舞台の上で操作する文楽独特のスタイルを踏襲。膝丈ほどのパペット一体につき三人の人形師が操作し、そのうちの一人は声優もかねます。

話の筋は、兄弟のコントから二人の子供時代、セレブの物まね舞台、観客を参加させるイカサマ・ポーカー、カーチェイスの末パラシュート脱出とハチャメチャなのですが、ポーカーのギャンブルでSergeyは自らの魂を賭けてしまい、最後は笑いが一気に凍りつくダークなパペットならではのエンディング。

右がBoris、左がSergey。文楽とは異なり、全ての人形師が顔をさらけ出している。©Flabbergast Theatre

右がBoris、左がSergey。文楽とは異なり、全ての人形師が顔をさらけ出している。
©Flabbergast Theatre

子供時代のSergey

子供時代のSergey。ミニ・パペットがかわいらしい。
©Flabbergast Theatre

カーチェイスのシーン

カーチェイスのシーン。6人の人形師の息の合った演技が見物。©Flabbergast Theatre

 

英国で人形劇(Puppetry)というとまず名が上がるのが国民的人気の“パンチとジュディ(Punch and Judy)”。 英国初演は1662年ロンドンのコヴェント・ガーデンで、本来は大人向けだった人形劇ですが、現在では海辺の街の夏の風物詩として子供向けに上演されています。

海辺の街の夏の風物詩"Punch and Judy"

参考写真:Punch and Judy
Wikipedia から)

話は人形を操る役者によって変わり、挿話的なのですが、大筋はパンチが赤ん坊を放り投げ、奥方のジュディを棍棒で殴り倒し、さらには犬や医者、警官やワニなどを殴り倒した上、死刑執行人を逆に縛り首にし、最後に悪魔を殴り倒す?!という荒唐無稽なドタバタ喜劇。16世紀イタリアの仮面をつけて演じる即興風刺劇コメディア・デッラルテ(Commedia Dell A'rte)を起源としているそう。

それぞれがわかりやすい類型的なキャラクター故、演じる役者の技量が問われたという、コメディア・デッラルテは、発祥の地のイタリアのみならず、ヨーロッパ各地で幅広い層に受け入れられ、英国のシェイクスピアやフランスのモリエールなどの劇作家にも大きな影響を与えたといいます。

大人のための人形劇団として2010年に旗揚げした Flabbergast Theatre。 彼らのBoris & Sergey’s Vaudevillian Adventureはヨーロッパの伝統的なコメディア・デッラルテを引き継いだ“パンチとジュディ”の即興風刺劇と日本の伝統的な文楽の人形師の在り方を踏襲しつつも、双方に共通の人形の装飾的要素は完全に排除しており、この先どう展開していくのか楽しみです。

最後にこちらのBorisとSergeyの白黒無声映画“Unrequited Love”(4分間程)をどうぞ。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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