処女の泉

ミニ・シネマ・パラダイスVol.13
ミニ・シネマ・パラダイス 市川桂

皆さんは古い映画を観ますか? そんな疑問を投げかけるところから、今回はコラムを書き出してみました・・・。 「古い」って、いつから「古い」になるんだろうか、と。 リュミエール兄弟のシネマトグラフによる「工場の出口」が1895年と思うと、映画の歴史ってまだ100年ほど。 その中で古い映画の定義を探すとなると、1970年代まではモノクロが主流だったため、だいたいそれくらいまで、といった独断と偏見で進めたいと思います。

その古い映画ですが、TSUTAYAにも置いているのはご存知ですか? 「世界名画劇場」といったコーナーがあり、主に日本の監督の作品がまとめられています。「黒澤明」とか「成瀬巳喜男」とか。 古い映画は、モノクロだし、ハイビジョンではないし、音はざらざらだし、テンポ悪いし・・・など 思われている方も多いかと。 でも逆に、戦争や紛争、貧困や経済成長など、激動の時代だからこそ紡げる豊かな物語性、技術による制約があるからこそ考え抜かれた演出など、現代の私が見ても驚きと感動に満ちている作品が沢山あります。

東京・渋谷のユーロスペースにて、「イングマール・ベルイマン3大傑作選」が公開中。 なんだかカッコいい名前の監督ですが、黒澤明、フェデリコ・フェリーニとならび「20世紀最大の巨匠」と称される偉大な映画監督です。 1918年スウェーデンに生まれ。特に1950年代は世界中の誰もが彼の作品を待ちわびていました。 今回はそんな1950年代に発表された、 『第七の封印』、『野いちご』、『処女の泉』の3作品をデジタルリマスターで上映。 久々に新作ではなく旧作の上映で、『野いちご』以外は未見だったので、足を運んでみました。

前回、ユーロスペースに行った時は藤原竜也主演の「I`m Flash」。 確か記憶では人は数えるほどだったのですが、今回は行ってびっくり、館内はかなりの人で待合室のベンチにも座れない! 若い学生風な人から、老夫婦まで、幅広い年代の男女。ベルイマンの人気、恐るべし、です。 行った回は『処女の泉』を上映、チケットを買って、座れないので立って開場待ちしました。

『処女の泉』は片田舎の豪農の一人娘におこる悲劇を描いたお話。舞台は16世紀のスウェーデン。 両親に大事に愛され育った娘が、教会にロウソクを捧げるために一人森へと行った際、悲劇に見舞われ、その報復のために両親たちも苦悩する、という悲しい物語です。 スウェーデンの山村の美しい森の情景と、光と影の絶妙な演出が、物語により深みを与えています。 音楽などの演出はなく、森の中を走るときの木々の折れる音や、スープをすする音、火のぱちぱちと燃える音など、シーンはいつも静かで穏やかです。その分、人間たちの感情に赴くままの行動にリアリティが加わり、観ている側の気持ちをごっそりと持っていきます。素晴らしい映画でした。

冒頭、古い映画を観てくださいとお話しましたが、 古い映画の中には、テンポが違うので眠くなるものもあると思います。 かくいう私も時々船を漕いでしまうことも・・・(まだまだ修行が足りません。) ですが、そういった部分を乗り越えてでも、古い映画を観てみることで、現代の映画がまた違ったかたちで観えてきますし、作品としての完成度や素晴らしさは、昔も今もありません。 きっと好きな監督や映画や俳優が見つかると思いますので、ぜひTSUTAYAの端にあるコーナーに目を向けていただければさいわいです。

イングマール・ベルイマン3大傑作選


『処女の泉』
監督: イングマール・ベルイマン
上映時間 89分
製作国 スウェーデン
出演: マックス・フォン・シドー
ビルギッタ・ペテルスン
初公開年月 1961/03/18
■イングマール・ベルイマン3大傑作選
『第七の封印』
1956年/  第10回カンヌ国際映画祭審査員特別賞
『野いちご』
1957年/  第8回ベルリン国際映画祭金熊賞
『処女の泉』
1959年 第33回アカデミー賞外国語映画賞、第17回ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞

Profile of 市川 桂

市川桂

美術系大学で、自ら映像制作を中心にものづくりを行い、ものづくりの苦労や感動を体験してきました。今は株式会社フェローズにてクリエイティブ業界、特にWEB&グラフィック業界専門のエージェントをしています。 映画鑑賞は、大学時代は年間200~300本ほど、社会人になった現在は年間100本を観るのを目標にしています。

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