右手を怪我してみて、わかったこと。

番長プロデューサーの世直しコラムVol.29
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

非常に私事で恐縮なのではありますが、3週間くらい前のバスケの練習中に右手の中指を骨折いたしました。

ゲーム中にリバウンドを取ろうとジャンプしたら、リングの下にぶら下がっているゴールネットの下の端に、右手の中指だけが引っかかってしまった。「全体重+振り下ろした力」が指先にかかった状態でぶら下がり、「あいたたたた」となっちゃったわけです。

まあ、こんなのはバスケ部で暮らしていた頃には茶飯事で、なんというか「懐かしい痛み」でした。むしろ、ゴールネットに指が引っかかるくらい跳べた事実に喜んだほど。「ジャンプ力が戻ってきた」とね。

ただ、残念なことに、その指がみるみる腫れて、どす黒くなってきました。ずきんずきんと痛む。 「骨折してるんじゃないんですか?」という周囲の声には、「まさか、こんなもん、バスケやってたら普通だぜ」と強がってみせたんですが、心中はしっかり不安で(笑)、次の日、病院へ行きました。 外科の先生は、診るなり、断言。「折れてますねえ」。レントゲンを撮ってみたら、指の一番先っぽの骨がきれいにまっぷたつになっていました。 今は、簡易的なギブスをして、テーピングのテープで固定されている状態です。

これがね、なんというか、こんなに不便な生活になるとは思いもしませんでした。

「たかが、右手の中指」という認識は、あまりに甘かった。怪我してみて、はじめてわかりました。右手の中指は、体の中で右手の人差し指の次に使用頻度の高いパーツだったのです。 まず、パソコンが思うように使えない。自分の生活がこれほどパソコンにどっぷりかと思い知らされ、ぞっとしたほどです。メール、報告書、始末書は当然ですが、仮払いの精算さえ、もう自分の文字で書いたりすることはない。まあ、ペンを持ったとしてもまともに書けないのですが。

とにかく、僕は、一日中、キーボードをいじってる生活だったんだなあ。マウスの操作もままならないから、もう、どうにもならない。 今、このコラムも、右手は人差し指だけで書いていて、様子はあきらかに、パソコン初心者のおじさんです。すごい不便。

もちろん不便は、それだけではありません。 お箸が持てない。ちゃんとご飯が食べられない。特に麺類。変なお箸の持ち方になって、食べ物が箸からするっと落ちちゃうので力が入り、右手の小指の下の手のひらの端っこの筋肉が筋肉痛になるんです。 財布から小銭が出せない。自動販売機で買った物が取り出せない。ポケットから鍵を出すのも、うんこの後も一苦労。 当然、右手は洗えないからなんとなく気持ち悪い。

そこに家の引っ越しの片付け、会社内の席の移動やなんやかんやが重なり、もう最悪。

シャンプーするのもままならないので、よし、この際、いつもは使わない左手を鍛えてみようと思い立ち、左手だけでシャンプーをしてみました。 これが、また、まるで駄目。自分の意志が伝わらないというか思うように動かない。いらいらしただけのチャレンジでした。「頭を洗う」なんて簡単なことが、思うようにいかない。左手は、すぐに疲れちゃってへこたれる根性なしだ。左手ってこんなに使えないものなのか?なんで、右手とこんなに差があるのか?

で、結局、今回は、何を言いたいか。ちょっとしたことで全体が機能不全に陥ることがある、ということです。 何でもないようなことが幸せだったと思うんです。本当に。

右手の中指の先をほんの少し怪我しただけで生活が立ちゆかなくなる。自分の駄目なところが露呈する。精神的にもまいってしまう。ああ、もー、不便だなあ。なんでこんな惨めな気分なのか?

普通が当然。使えたら当然。何気なしに当たり前にやってることが、生活の中にはのすごくいっぱいあるんですね。 そういうのがちょこっと欠けただけで、もう駄目。これは、かなり情けない。 通っている整形外科の病院の奥はリハビリ施設で、つらそうに患者さんたちががんばっている。自分なんかより、もっと困っている人は世の中にはいっぱいいらっしゃるのだから、そういう人たちには本当に申し訳ないと思いつつですが、やっぱり、今の自分はすごい不便なのです。

右手の中指だけじゃない。健康は大切だなあと思います。今更ですが。 このご時世でいろんなストレスが溜まって、お疲れの方も多いと思います。 お体には気をつけてください。本当に。

カラダの調子が悪くなるのって、なかなか想像つきませんが、想像力を働かせて、どうやって自分の健康を維持するかにいつも気にかけておかないといけないと思います。 当たり前か。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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