大きな時代の転換点

番長プロデューサーの世直しコラムVol.26
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

100年に1度の不況だそうです。世界中が不景気みたいです。 アメリカのビッグ3と言われる自動車会社が潰れちゃうかもしれないとか、日本の自動車会社が何万人リストラするとか、電機メーカーが発表した経常赤字が凄い額だったりとか。

自動車や家電が売れない。でも、そういう物の不人気は、不況になる前から始まっていたような気がするのです。

個人的な気分を象徴する出来事なんですが、数年前にフォードのムスタングっていう車がモデルチェンジして、あまりのかっこよさに本気で購入を考えたことがありました。でも、今はまったく欲しくない。

で、「なんで欲しくなくなっちゃったんだろう?」と真剣に考えました。自分の中に、環境に対する配慮が芽生えていたとわかりました。「マッチョでかっこいいアメ車だけど、ガソリンで走るんだよな」と、そう思っちゃったわけです。「もう古い感じがするなあ。ガソリンかよ」と。

パソコンも行き着くところまで行き着いちゃった感じがして、昔みたいに無理して買い換えたりしなくても十分に使えるし、携帯電話にもまったく同じ感想があります。インターネットにも内容的な目新しさが見られなくなってきたし、嘘や胸くそ悪いことの方が多くなってきた。 大型家電店のテレビ売り場にいくと、家は大きくならないのに液晶テレビの画面だけどんどん大きくなっているような気がする。お洋服も、ムキになって海外のブランドを買って着ていてもあまり褒めてもらえなくなってきたし、そんなことで褒めてもらったらちょっと恥ずかしいような気もする。

みんなが欲しいと思っていたような、ちょいと無理すれば買えるかもしれない目に見える物の付加価値は、急速に陳腐なものに成り下がっている。そう思いませんか?

家電や自動車への魅力が、全世界的に急速に収縮しているじゃないだろうか。それは、やはり、金融危機の結果そうなっちゃったわけではなく、数年前からなんとなく大きくなってきた気分なんじゃないかと思います。

耐久消費財的な価値は、もう古くさい。

テレビコマーシャルでもついこの間までは、空港のラウンジでノートブックのパソコンを操作しているような、全世界を飛び回っている白人のビジネスマンみたいな設定がかっこいいとされていたような気がするけど、今そういうCM見ると本気で笑っちゃうような気がするんです。そういう気分。

「お金をお金で買って、それを売る」みたいなことでふくらんで、世界バブルがはじけて、お金のことを考えるのが嫌になっちゃった。それで儲けて買える物の象徴、自動車や家電に飽き飽きしてしまった。アフリカには水すら飲めない子供たちがゴマンといるらしいのに、いい気なものではあるのだが。

みんな、自分の人生や、周りの環境のことを真面目に考えたくなってきているんじゃないのかな?

で、そこで僕がつくづく残念に思うのは、日本のバブルがはじけたとき、日本人はそういうことに気づくチャンスがあったはずだということ。世界に15年先駆けて、哲学と環境を重視する国になれたのかもしれない。環境立国になれていたかもしれない。もったいない気がします。

と言うわけで、環境問題についての見識を深めて、映像でどんな貢献できるのか?環境問題や公共広告の仕事をする機会が多くなってきて、いろんなことを知りました。自動車のCMはやはり業界の花形であることに変わりはないのだが、売れないなら仕方がない。だんだん変わってくるだろう、というか急に変化するかもしれない。そういうことが気になるようになってきたんです。 古くなっちゃった文明にお葬式を出してやりたい気分なんだけど、僕個人がなにかできるわけもなく、コラムに書くことしかできないんだけど。 オバマの役割は、きっとそれなんだろうな。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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