怒られたくらいで。
- 番長プロデューサーの世直しコラムVol.25
- 番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光
ある、Webの企画打ち合せでのこと。コンテンツの目玉は、『機動戦士ガンダム』でした。しかし、ガンダム世代の割には、僕はあまりガンダムに詳しくない。というか、知らない。ブーム当時は、精一杯つっぱって不良のふりをしていたので、アニメなんて観ちゃいけない(笑)と思いこんでいたのです。
その場でその旨の発言したら、ガンダムマニアのCMプランナー(後輩)に、「ガンダムも知らないで、プロデューサーやってる資格はない」とガンダム調で怒られたというか、諭された。彼は、心の底からガンダムが好きで、ガンダムとはどんな話か、どんなに面白いかをホワイトボードを使い、2時間かけてその場にいる全員に解説してくれました。
面白そうだった。プランナー君のガンダム話は、ものすごく魅力的であった。これだけ長い間商売になっていて勢いも衰えないので、少し知っておく必要があるとも思い、ガンダムの映画のDVDを買って観ました。
「良くできたストーリーだなあ」という感想を持ちました。ちゃんとした物語。 出てくる人物たちがやけにぶつぶつ小言を言うのが気になったが、多分当時では新しい、精神的に弱い主人公が高性能のロボットに乗って戦う設定が自己投影しやすいからうけたのだろうと推察。
印象的だったのは、主人公のパイロットがなにかの失敗で落ち込み「もうガンダムに乗りたくない」とすねてしまうシーン。 見かねた上司の軍人が主人公をぶん殴り、ガンダムに乗って出撃することを促すが、主人公は「殴ったな、父さんにも殴られたことないのに!」と食ってかかる。 「なんだそりゃあ?」と思った。「あほかこいつは?」。これは、有名なシーンらしい。
実を言うと、こういうシーンが現実の仕事で起きるようになっていて、恐怖を感じることがあるのです。
僕のルームは、部下に厳しく接することで有名です。他とは違う、体育会系的規律を守ることにしている。挨拶、礼儀、大きい声ではっきり簡潔に話す。簡潔に考えて、今起きている問題に最短距離で対処し、解決する。自分の保身ではなく、何が正義なのかを判断の基準にする。そんな一人ひとりが独立して行動し、チームとの連絡報告を密にとる。学校の先輩か、親に習うようなことだ。「家に帰って親に習って来いよ」と言いたくなることもある。「次の4月から小学校に入り直せ!」と。
サービス業のホスピタリティを、考え方から教え、実行しなかったら怒る。これは比較的いい上司なんじゃないかと思いながら、部下の成長を願っている。僕は、そのような者である。
めちゃめちゃ怒鳴るのは、ほんの一瞬。常識的な間違いや考えの足りなさを大きい声で激しく指摘するが、しつこくは言わない。「申し訳ありませんでした。次からはやらないようにします」。それでいいじゃないかと思うのだが、今の若者はちょっと違う。 あのガンダムのパイロットのように、うろたえて、すねて落ち込み、なかなか立ち直ってこない。ひどいときは逃げだし、会社を辞めてしまう者もいる。 怒られたことがないからなのだろう。 驚くべきことに、男の子にそういうのが多いのだ。女の子の方が現実的で、指摘と自分の認識に整合性があれば素直に言われたことを受け入れる傾向にあるが、男の子のすね度合いはけっこうひどい。
「怒られた原因はどこにあるんだよ?」、「怒られたからってなんなんだよ?」が怒った側の気持ちだけど、一旦フリーズしてしまった若者(男子)は、もう何が原因でも関係ない。自分が人から怒鳴られた。俺の根拠のないプライドは傷ついた。ちくしょう、言って返す言葉がない。悔しい。こんなアホなことで怒鳴られるのを他人に見られてしまった。かっこわるい。云々。 僕はそういう人になったことがないから、何を思ってフリーズしたままでいるのかさっぱりわからないが、本当に簡単に萎縮してしまう。それは、簡単すぎる。
「人は褒めて伸ばすものだ」と、現場から離れている人ほど簡単に言う。
最近の、ある年の入社式の後の新入社員との食事会の席――「僕は、褒められて伸びるタイプです。やれば出来る子です。だから褒めてください」と自己紹介した新人がいた。 「なんだと?」 僕はこういう場での常識は、「厳しくご指導ください」だと思っていたので、心底から度肝を抜かれた。今は、そんな風潮なのだろうか?
もちろん、やり方を考えなければいけないし、部下とじっくり話し合わなければいけないとも思っているが、厳しく指導して若者を育てていこうという考えは、これからも変わらない。
主人公をぶん殴って、逆ギレされた上司軍人の台詞はこんな感じだった。 「殴られもせずに一人前になった奴がどこにいるものか!」
僕は、ガンダムのキャラクターでこの軍人にもっとも共感しました。 体質的には、古いということになるのでしょうかねえ。
Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。