2008年の喪失感と思い
- 番長プロデューサーの世直しコラムVol.24
- 番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光
2008年も、もうすぐ終わろうとしています。 この1年も、びっくりするくらいのスピードで過ぎていきました。 ほんとうに、あっという間でした。
今年は、これまでにも増して寂しい気持ちになる1年でもありました。 というのも、自分に影響を与えてくれたような人たちの中から、引退する方や、亡くなる方、活動を中止してしまうグループが多く出たからです。
わかりやすいところからいくと、プロ野球界では王貞治監督がホークスの監督を辞任。PL学園のころから大スターだった清原和博、桑田真澄のKKコンビがそろって現役を引退しました。僕が一人前になったのとほぼ同じ年に大リーグで成功した、うらやましい人物/野茂英雄もついに引退。サザンオールスターズが活動を休止してしまい、マラソンの高橋尚子、ゴルフのアニカ・ソレンスタム、テニスのモニカ・セレシュ、NBAではクリス・ウェーバー、日本元首相の小泉純一郎とキューバのカストロ議長、ニューヨークのヤンキースタジアムと広島市民球場、尾翼に鶴のマークの入った日航機、最初の新幹線0系も引退しました。
亡くなった方も凄い。俳優では緒方拳、ポールニューマン。「犬神家の一族」や「東京オリンピック」を監督した市川崑、CMの大御所で映画監督でもある市川準。かつて一緒に仕事して、見たこともないCMを作ってくれた、アートディレクターの野田凪。「ニュース23」の筑紫哲也、映画評論家の水野晴朗。デザイナーではイヴ・サンローランとミラ・ショーン。天才バカボンで有名な漫画家の赤塚不二夫。アメリカのギタリスト、ボー・ディドリー。小説家の氷室冴子。
今までは「時代が終わる」という言葉にぴんと来たことはなく、「そうやって人は入れ替わっていくんだ」なんてうそぶいてたもんだけど、今年は、確実に「何かの時代の終わり」を感じ取っている自分がいた。
こんなに偉大な人たちが引退したりいなくなったあとに、代わりを務め上げられる人が次々に出てきているかというと、そうでもないんじゃないかと心配になる。 つまり、自分ではなかなか行こうとしても行けない非日常へ、一瞬でもいいから連れて行ってくれるような人が減っていく不安があります。面白くなくなっていくんじゃないか?と。「速く長く走ったカリスマ」みたいな人たちがどんどん減っていく。
今のファッションも音楽も芸能も、文芸も広告も、ケンカを売り切ってしまって、なんだか訳がわからなくなっているような気がします。訳がわからないというか――表現者がものわかりが良すぎる人ばかりで、もしくは、ビジネスのことを考える力を純粋な制作者に押しつけすぎて。つくる側がせっかく一生懸命考えて、感じて、思いついた表現を、商売のために抑圧しながら世に出すことに唯々諾々としている――というところでしょうか。
傷つかないで、勝ったような振りができるのは、これまた人間の叡智なのかもしれないけれど、そんなことばかりやっているから、どんどん世の中がつまらなくなっていくんだ。そう、なんだかつまらない。パッとしない。 「何がつまらないんだろう?」と本気で考えていると、やっぱりどこかで爆発するようなところが必要なんだと思えてきます。
人間社会っていうのはそもそも、保証されていることは何もないわけだし、世界中、どこに行ってもいつになっても不安なのだから、精神的にも肉体的にも強くならなければいけない。疲弊した世の中の気分としては、なよなよした人を見るとうんざりするし、ケンカが強くないと人をうらやんだり、ねたんだり、人の悪口や陰口ばっかり言って暮らさなきゃいけなくなっちゃう。
王貞治氏がNHKの特集番組でおっしゃっていた言葉が、身にしみました。 「プロは結果を出さないとプロじゃない。『人間なんだから失敗することもあるさ』と思っている人間は必ず失敗する。甘えです。だから、プロがその仕事の現場にいるときは甘えてはいけない。自分を人間だと思ってはいけないのです。失敗することはあり得ないと思って努力して、失敗しない現場に立つのがプロです」。
自分のやるべきことを極限まで突き詰めて、自分を鍛えて、技術とパワーを身につける。それを本番で、勝負どころで爆発させてカタルシスを得る。そういうことのできる人が、自分にも他人にも開放感を与えることができるのでしょう。
いろんな人がいなくなる。そういう年でした、今年は。 その喪失感を嘆くよりも、嘆いても誰も戻ってこないんだから、自分が矢面に立って面白がれるかどうかが大事であるとも感じました。 それが伝わって、若くて面白い奴が僕にケンカを売ってくることを望みます。
もともとわかっていたけれど、あらためて、「自分で自分を解放するには努力が必須だ」と感じた1年でもありました。それを実践して見せてくれていた強い人たちが、どんどんいなくなっています。 誰かが言っていたのが印象的でしたが、 「存在感の大きい人がいなくなると、不在感も大きい」。
明日なくなってしまうかもしれない世界で、つんとすましてスカしていても、何かの流れにちゃっかり乗っかっていても、自分以外の何かのせいにしても、なにも面白くないということです。明日は、今日までできなかったことに挑戦する日でありたい。
来年もこうやって、あっという間に過ぎていくのでしょう。あっという間に過ぎるのであろうから、何度も自分で爆発を起こして、一気に駆け抜ける年にしたいものです。 プロデューサーという立場を考えると、本当は、そういう爆発の場をいっぱい作って、エネルギーのあるクリエイターたちを心おきなく爆発させてあげられるようにするのが正しいのでしょうけど。
皆さん、良いお年をお迎えください。 メリークリスマス&ハッピーニューイヤー。
今年お亡くなりになった方々の、ご冥福をお祈りいたします。
Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。