営業
- 番長プロデューサーの世直しコラムVol.22
- 番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光
せっかく上向き気味だった景気が、アメリカのバブルがはじけたことに始まった世界恐慌じみた株価の下落で、またやばくなってきました。困りますね。 サブプライムローンなんて最初からヤバそうでしたよね。土地バブルで失敗した日本人には教訓がありますが、アメリカ人には分からなかったのでしょうか?
広告業界は、こういった影響をもろに受けます。少なくともテレビCMを制作して生活している会社には余波が大きくなりそうです。そうなると、小さくなったパイを取り合うことになるので、僕も俗にいう「営業」をしないといけないと思っています。
この「営業」という行為がなかなか難しい。
プロデューサーにも営業タイプと制作タイプがいると思うんですが、僕は、圧倒的に制作タイプでありたいと思っています。常にスタッフの情報、映像のトレンド、社会状況を知る。面白いものを受け入れる。受注したら、自分で企画も書くし、アイディアも出す。 つくったもので勝負したいと思うのです。しかし、最近は立場も上がってきて、部下も食わせなければならないから、新しい顧客、つまり、自分の人間性を知らない人にもアプローチをしていかなければならない。
ところで、営業ってどうすればいいんでしょうか? よく「飲みに行け飲みに行け」「ゴルフしろ」と言われます。僕は、この期に及んで、まだそれらに違和感を持つのです。誰か、お客さんを誘ってお酒を飲みに行く。飯を食う。それは、コミュニケーションとして基本だとは思います。 でもね――「おとといの晩ご飯は何を食べましたか?」って聞かれて、いつもパッと答えられるでしょうか?調子に乗って、キャバクラにお客さんを連れて行っても、その人に着いたお姉ちゃんのことはしっかり覚えていても誰と行ったかは覚えていない人が多いもんです。
こうなってくると、目的とずれた結果を生んでしまうことになる。無駄金を使う。 「営業」は「見込み顧客の積極的な開拓」とか「企業(自分)の売り込み」であるべきで、ただただ「仕事を頂けませんか?」というニュアンスでは「金をもらえませんかねえ?」と言いに行くのと同じ。大切なのは、無心ですね。
「なんでお前と仕事しなきゃいけないの?」と言いたくなるような酒の飲み方をするバカがいかに多いことか。酒で恩が買えるのか? ただ「飲みに行きましょう」「ゴルフしましょう」はあまりにも無策です。
「営業」のマナーは、第一に相手のことを真面目に思うことではないでしょうか。 その人が何が好きで、何が嫌いか。どんな仕事をしていてどんな仕事をしたがっているか。何が趣味なのか?どんな生活をしていて、何に困っているか?そこに、自分の得意なものや好きなことが重なるのか?何かお手伝いできることはないのか?そこをとっかかりにしようとしない限りは、飲みに誘うのなんて失礼だと思うのです。一緒に酒を飲む行為が大事なのじゃなくて、そこで何を話したかが大事なのは中学生にもわかります。
ゴルフはいい例です。 ゴルフは、長い時間一緒にいるし、話も弾む。人間性もよく出るので営業に最適と言われていますが、自分がゴルフが下手で嫌いだったりしたら、マナーすら知らなかったりしたら営業に最悪な場となってしまいます。しまいには、「死ね」、と言われるでしょう。 ゴルフが好きなお客さんと仲良くしたいなら、ゴルフを好きになって練習をするべきです。
ゴルフに限らず、「営業」には「準備」が必要ですね。 相手のことを思い、自分の武器を用意して、それを押し付けず売り込む。それが、本当は仕事の技術であるのが一番なのですが、「営業」なのでそうじゃない場合もありですね。趣味の領域でもかまわない。その準備ができたところで、食事に誘うなり、飲みに行くなり、コースに出るという行為に発展していくなら有効な営業ができるでしょう。
ただ、仕事欲しさに何でもかんでも人を誘い出し、お金を払って「素」のままで体当たりしていくような営業の仕方はやけくそのようにしか見えませんし、呼ばれる側もとても迷惑ですね。お腹がいっぱいになるだけで(笑)。 ところであなた誰でしたっけ?という話になりかねない。
広告用語でよく「リマインド」と言いますが、それが「営業」の目的だと思うんです。ある時間を共有したら、自分のことを知ってもらい、興味を持ってもらい、最終的には、思い出してもらう。それができるように相手のことと自分のことをよく考える。準備をする。
「それができないなら、こんな時代に仕事なんかあるわけねえじゃねえか」と思う今日この頃です。
Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。