Just do it.

番長プロデューサーの世直しコラムVol.8
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

僕には、とっても好きなものがあります。 ナイキです。靴から始まってウェア、バッグ、Gパンまでナイキ。着ているものの約70%はナイキですね。マジです。仕事で嫌なことがあると無意識にナイキの靴を買う習性があって、家には一面ナイキの靴という壁があります。昔は二面ありました。200足くらいあります。今は。なんでそんなにナイキが好きか?と話し出すとずいぶん長くなっしまうので書きませんが、ナイキは変な会社でいろんなおもしろい逸話が残っています。

Just do it. という言葉があります。ナイキがずっと言い続けているスローガン。ナイキの社是。スポーツをする人たちの魂の言葉。世界中のコピーライターが、これ以上の言葉を探してさまよい歩いているけれど、いまだに超えられない言葉。

この言葉は、実はちょっと違う意味で開発されたという裏話があります。

そもそも70年代、世界で一番力のあるスポーツブランドはアディダスでした。オリンピック出場国のアディダス使用率が90%近かったり、圧倒的なシェアを誇っていた会社でした。

80年代に入り、西海岸ブームやジョギングブームに乗っかってナイキブームがわき起こります。それに加えて国やチームではなく選手個人と契約するというナイキのやり方も功を奏してナイキは一時的にスポーツシューズのトップシェアの会社に躍り出ます。

それもつかの間、80年代後半にわき起こったフィットネスブームと、それ専用のシューズを開発して、新興勢力として出てきたリーボックにあっという間にひっくり返されてしまうんですね。その80年代後半にナイキでは、ひっくり返されたシェアを取り戻すべく新しいキャンペーンの企画会議が続けられた。そこで、リーボックが気にいらねえ。あいつらをつぶしてやりたい、という意味で「Just go ahead. Just fuck It.」という言葉が考えられたそうです。男数人で女の子を強姦するときにはやし立てるように言う言葉、「やっちまえ、やっちまえ」「リーボックをやっちまえ」。

それが、あまりにも印象が悪く、社内的に不評だったためまるく書き直して 「just do it.」になったそうです。 (参考「ジャスト・ドゥ・イット-ナイキ物語」 ドナルドカッツ著)

「なんだよ、そんなもんかよ」と思うかもしれませんが、そこに広告のコピーの恐ろしさがあると思うんです。

「just do it.」という言葉は、「just fuck it.」がまるまって生まれたとは、受け止める側は誰も思わない。スポーツでめちゃくちゃリッチになったマイケルジョーダンがこの言葉を使ったとき、「貧乏から抜け出すには、俺みたいにがんばって、やるしかないだろう」というように聞こえて、そのかっこよさにみんな群がった。いろんな人が刺激を受けてがんばった。

某コピーライターにこの話をしたら、「コピーというのは、理屈から作り上げるとなかなかうまくいかないものですから。マーケッターがコピー書けないのはそういうことで。偶然の神がナイキに降臨したんでしょうね」と、おっしゃっていました。んん~ん。まあ、生きている内に一回でいいからナイキのCMを作ってみたいものです。それが一番の夢ですかね。今は。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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