次は何が起こるの? Lubaina Himid (前編)
新年明けましておめでとうございます。まだまだパンデミックが続く中、レポートが難しいこともあると思いますが、今年も引き続きどうぞよろしくおねがいします。
さて今回はテイトモダン(新館)より、Lubaina Himid (ルバイナ・ヒミッド)の個展をお伝えします。ヒミッドは2017年にターナー賞にノミネートされた当時このコラムの第59回にてその80年代の作品を紹介していますが(ちなみにその後、見事ターナー賞を受賞!) 今回は大々的なレトロスペクティブ (回顧展) になるので、二部に分けて紹介していきます。
鮮やかなローズピンクに塗られた回廊を抜け、中に入ると壁には芝居小屋の看板風のデザイン文字で大きく質問が書かれています。
We live in clothes,
We live in buildings
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Do they fit us?
9枚の絵画が広げたハンカチように一枚一枚壁にディスプレイされています。可愛らしいハンカチの中に描かれているのは軍手、金槌、ノコギリ、ネジ、ドライバー、鉛筆、巻尺、鉋と大工道具のよう?ハンカチ素材も柔らかい布ではなく鋭い金属製。そしてそれぞれの道具の下には取り扱い安全マニュアルのような言葉が付随されています。ノコギリの図の下には「休みをとらせよ。」鉋の下には「十分な空間を確保せよ。」どこからか安全マニュアルを読み上げるヒミッドの声が作業中の機械音とともに聞こえてきます。一つ一つの言葉に道具を取り扱う者への当たり前の安全マニュアルだけでなく、製作する美術家、家庭で働く女性へメッセージが込められているのが感じられます。絵画作品はMetal Handkerchiefs, 2019。音のインスタレーションはMagda Stawarska-BeavanとのコラボレーションでReduce the time Spent holding, 2019。今回の展示の5つのサウンドインスタレーションは全てStawarska-Beavanが担当。
その先には建築空間をイメージした絵画が並び、ラウンドテーブルの上には建築模型?そこにまた大きな文字で質問が書かれています。
What are
monuments for?
ミニュチアの木々の間に彫刻記念碑のように並ぶ瀬戸物。この懐かしい形どこかで見たような?早速「ビクトリアン・ゼリー型」でググってみると出てきました同じかたち。作品は「Jelly Mould Pavilions for Liverpool, 2010」様々なデザインのゼリー型はリバプールに建てるモニュメントの建築コンペを仮想して作った作品。描かれているはアフリカの生地の模様や人物などで、2010年当時、美術館、ショーウインドウなどのリバプールの街のあちこちに展示されたそうです。なぜゼリー型なのかっていうと、砂糖菓子はアフリカの人々を犠牲にした奴隷制度で得た富、それによって繁栄したリバプールを含む英国の都市の象徴といえるから。
家にある日常のオブジェの、ベッド、新聞、雑誌、時計、マンダリン、陶器の一部などが25メートルにわたって部屋をぐるりと取り囲むように壁一列に配置されています。その中央を小さな小川が流れるかのように世界中の64種類の模様と音の小節が青で描かれています。そしてまるで川のせせらぎのように囁くような声が6つのスピーカーから聞こえてきます。青にまつわる思い出が3カ国語で(英語、フランス語、フランドル語)で語られています。作品はBlue Grid Test 2020。
次のギャラリーへ。ここでまた壁に質問が。
How do you distinguish
safety from danger?
作品は「Plan B, 1999」。船または部屋の中は真っ暗で黒い波は折り重なって横たわる人影のよう。一方で窓の外には眩しいエメラルドグリーンの大海が眺められます。ヒミッドは90年代から Plan B(代替案)シリーズの絵画を発表してきました。そこにはいつも海を思わせる水の風景と幾何学模様が描かれ、中には紛争で国を追われ大海に身を投げ出さぜざるを得なかった人々の物語なども。ヒミッドは問いかけます。もしも、それが自分自身に起こったことだったら?
遠くから、潮の満ち引きの音が聞こえてきます。
波の音はこちらから。立てかけられた木の板は大波を表すかのよう。波の一つ一つの色が異なるように一本一本異なる青、緑で彩色されています。またそれは、嵐によってバラバラに砕けた難民ボートの木板のようにも見えます。そしてその木板の端には子安貝が描かれ、美しい砂浜で見つけた宝物の貝殻のようにも、荒波で砕けた船の木板に必死でしがみつく人々のようにも見えます。作品はOld Boat-New Money, 2019。
それでは長くなりましたので今回はここまで。
この先はまた、次回!