センスとマナー
- ARTY FACT LONDON Vol.69
- ARTY FACT LONDON コウヅマノエ
早いもので12月も中盤。 どこもかしこもクリスマスのこの時期、会社や取引先そして友人たちとのパーティ、またはクリスマス・ホリデーの予定などで、イギリスの12月はみんな仕事に身が入っていない感じです。そして、クリスマスの日が近づくにつれて、知らない人同士が『メリークリスマス』とか『楽しいクリスマスを』と声を掛け合い、ほんわかとした気持ちになれる時期です。
今年は実に色んな出来事があった1年でした。 クリエイティブ関連のできごとで、まず頭に浮かぶのは「スティーブ・ジョブズ」氏の死去ではないでしょうか。 クリエイティブに携わる人たちにとっての「Mac」とは、毎日寝食をともにする、長きにわたる「友」のような存在のはず。その「Mac」を生み出したアップル社の共同設立者の一人であり、会社を成功へと導いたジョブズ氏。彼がアップル社を通して世界に与えたインパクトには、計り知れないものがあります。世界中の経営者たちから「カリスマ」と呼ばれた、ユニークな経営哲学を持ったジョブズ氏の早すぎる死には、世界中の誰もが少なからずショックに思ったことでしょう。
この「世界を変えた男」こと「ジョブズ氏」に卓越したビジネス・センスがあったのは言うまでもありませんが、直感的で使いやすく、美しいデザインの商品たちを見れば一目瞭然、「クリエイティビティ」も兼ね備えていた経営者だったと思います。 経営者とクリエイティブというと一見なんの接点もなさそうですが、いわゆる富裕層と呼ばれる多くの会社経営者の中には、アートや音楽などに造詣の深い人も多いです。世界のアート・フェアでは、個人コレクターとしてアートを購入する経営者たちも多いそうです。映画やテレビドラマの中でてくるオフィスの壁に、素敵な現代アートがさりげなく掛けられていたりしますよね。あれば、アート・フェアで買ってくるんですね。 もちろん、全ての経営者がアートに興味があるとは限らないでしょうが、トップで活躍する人たちというのは、基本的に話がとても面白い人が多く、人の話もきちんと聞いてくれる人が多いです。「話し上手は聞き上手」とはよくいったものです。 何を言いたいのかというと、仕事ができる人というのは、クリエイティブのセンスを持ち合わせているということ。つまり、頭が柔軟で多角的な物の見方ができる。色んなことに、色んなやりかたで、臨機応変に対処できる。ということではないかと思います。
一方、ビジネスや経営といったたぐいの世界とは全く無縁のように思える「クリエイター」ですが、クリエイターも経営者たちと同様、「色んな人の意見を聞きつつ自分の意見を的確に伝え、物事を色んな角度から見たり考えたりすることができる力」を兼ね備えることが重要だと思います。
これまでに、デザイナー、アーティスト、作家や建築家といった、様々なクリエイティブを職業とする人たちに会いましたが、それなりに成功している人たちは、物事の伝達能力と物事を多角的に捉える力が優れていると感じます。 最近では、ツイッターやFaceBook、ビジネスに特化したLinked Inなどを積極的に活用したソーシャネットワーキングや、ウェブサイトやブログなどのメディアで情報を発信したり、収集したりと、本来の制作活動以外にも個人で色々と努力をすることも大切となってきています。 中には破天荒な人生を歩んでいるアーティストもいますが、でもやっぱり成功していると言われる一握りのクリエイターたちは、ビジネス・センスを持ち合わせているのではないでしょうか。
▲ピピロッティ・リスト/目玉のマッサージ Pipilotti Rist: Eyeball Massage
先日、アートキュレーターをしている友人と「ヘイワードギャラリー」で開かれている『ピピロッティ・リスト/目玉のマッサージ(Pipilotti Rist: Eyeball Massage)』の展覧会に行ったのですが、その時にもアーティストとして成功するには「ビジネス・センス」が必要だという話をしました。 ちなみに、ビデオアーティストとしては大御所の「ピピロッティ」ですが、その友人が彼女の展示に携わったときには、後日、ピピロッティ直筆のお礼のハガキがスタッフ一人一人に送られてきたそうで、とても感動したといっていました。
クリエイターという職業は、受手があってこそ成り立つものであって、何かを世の中に送り出すためには、何ごとも必ず誰かの手を介さなくてはなりません。素晴らしいクリエイターとなるには、「ビジネス・センス」を磨くとともに、物事を円滑にすすめるためにも「ビジネス・マナー(結局は大人としてのマナーということなのかもしれませんが)」を身につけることも重要だと思います。
特に師走のこの時期、忙しくてつい心の余裕もなくなりがちですが、「みんなが優しい気持ちになれるようなちょっとした配慮」をすることも心に留めておきたいです。
Profile of コウヅマ ノエ
女子美術短期大学卒業後、デザイン事務所勤務。その後、雑誌『エルジャポン』のデザイナーを経て、フリーのグラフィックデザイナーとして様々な雑誌のデザインを手掛ける。2003年に渡英し、ロンドンにあるRavensbourne CollegeでInteractive digital Media の修士号を取得。現在は南ロンドンで様々なプロジェクトに参加しつつ、ロンドン生活を満喫中