意見の違いはあるけれど。Agree to disagree? @Kate MacGarry
ブザ—を押してドアを開くと中からは賑やかな話し声。「おっ、結構混んでるのかな?」入って見ると人影はなし。そこで討議していたのは人ではなくて鳥たちだったんです。今回は東ロンドンのKate MacGarryギャラリーから。ギャラリーはオーバーグランド、ショーデッチハイストリート駅から徒歩3分。
まず鳥たちを紹介しましょう。手前左がご存知カッコウ、その向かいがコバシチドリ、スコットランドや北欧の高原で繁殖する渡り鳥。英名の「Dotterel」はかつて簡単に捕獲できたことから、騙されやすいおバカな鳥として15世紀に名付けられたとか。今では乱獲の成果で数は激減し、保護鳥に指定されています。人間って勝手。
その奥にはおなじみのスズメ。
カッコウの後ろにはこちらも渡り鳥のベニアジサシ。カモメ科ですが、ツバメのようにシャープで長い尾をもつエレガントな鳥。日本には夏鳥として沖縄などを訪れ、こちらではアイルランドのダブリンに大きな繁殖地を持つそう。ちなみにベニアジサシによく似たアジサシ(こっちは体が紅色じゃない)はロンドンでも普通に見かける鳥で、テムズ川上空を蝶のように華麗に舞う姿を見ることができます。
その隣はアオサギ。長い首、長い足をもつ優雅な鳥ですが、河川、沼地や田んぼなどの水辺に一年中いる鳥。私の家の近所にはKFCの三角屋根の天辺から虎視眈眈とフライドチキンを狙う、ハンニバル・カーニバル・ヘロン(heron)とよばれるアオサギがいて有名。更に大カモメ、以前も紹介した歌鳥として親しまれているクロウタドリが加わり、七羽の談話が進行中。話は食べ物の話から始まり、渡り、世代間の差、歌のコミュニケーションなど多岐にわたります。それぞれの習性に及ぶとここでカッコウが話題の中心に。他の鳥が次々とその残虐性を責めると、(カッコウの習性についての作品は第113回をどうぞ)カッコウは冷酷に「私の卵はギフトなのよ。(カッコウの雛鳥を温める羽目になる)仮親鳥のヨシキリは自分の子は殺されてもあんな大きくて可愛い私の子を育てることができてラッキーだ。」と開き直り。(ちなみに英: giftの語源には毒という意味もある) 便乗するかのように大カモメも野ウサギを殺生することの楽しさを語り、残酷トークに花が咲きます。しかしアオサギが、やはり一番酷いのは人間だと生態系への影響を話し始め、抗議の矛先は人へと向かいます。このインスタレーション作品はMarcus Coates (第69回で紹介)の「Conference for the birds」(2019)で、北イングランド、チェリーバーンのナショナルトラストに依託された作品。チェリーバーンは『英国の鳥類史 』(1797 & 1804) によって、その高度な技術と観察眼で、版画家そして博物史著者としての名声を高めたThomas Bewickの出身地で、作品はビウィックの木版画のイラストをもとに作られています。オリジナルのイラストは、当時人々が虫眼鏡を用いたほど精確に描写された小さな挿絵なのですが、張り子作りの巨大な鳥の頭は人が被れるほどの大きさに拡大されていました。
さて鳥たち会議の隣にはダンボール製の手作りのプラカードが並びます。見れば「言っちゃダメ」「貧しい人に施しを」「犬のフンお断り!」「笑顔ありがとう」と、なんだかランダム。
プラカードを作ったのは実は小学生たち。こちらは彼らがデモをしている映像。この作品はPeter Liversidgeの地元の小学生とのコラボレーション作品で、2014年のメーデー、5月1日 にWhitechapel Galleryで行われたパフォーマンス。
「人々に平穏を。都市に平穏を。」上記の小学生たちが作ったバナーですが、このコラムを書いている6日前に、ロシアのウクライナ軍事侵攻が始まった今、見ると胸騒ぎがします。作品のタイトルは今回の展示のタイトルでもある「Notes on Protesting 」(2014)
赤く燃える森で「ここ暑いよ」とプラカードを持って抗議するのはシロクマ?それとも着ぐるみを着た人?
木が切り倒され、火と灰へと変わる森の風景。斜め上には「終」の文字。一見、テレビの画像の乱れのようにみえるこれらの作品、実は織物、タペストリー。作品はGoshka Macugaの「Make Tofu Not War」(2018) 。思わず笑ってしまうタイトルですが、ノイズのように見えるタペストリーが瓦礫と化す町のようにも見えてきます。戦火のウクライナそして地続きのヨーロッパ諸国の現在の動向をみていると、戦々恐々で笑うどころではないのが現状です。