トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動~
- ミニ・シネマ・パラダイスVol.14
- ミニ・シネマ・パラダイス 市川桂
トルコといえば? のび~るトルコアイスに、くるくるまわるケバブ、 ・・・が一般的だと思うのですが、私は違います。
というのも、「トルコで私も考えた」というエッセイ漫画に最近ハマり、 トルコが気になる存在だから。 というわけで、にわか、なんですけど・・・。
「トルコで私も考えた」は高橋由佳利さんという少女漫画家さんが、旅行で行ったトルコに大いにはまり、トルコ男性と結婚し、トルコに住み、ついには日本でトルコ料理屋を開くまでの、さまざまなおもしろエピソードをまとめたものです。「入門編」とか「嫁入り編」とか何冊かでてます。 (人気シリーズらしく、いろんな本屋さんで平積みされてます。) それを読んでいるとですね、トルコ人やトルコという国は、日本とはいろいろ違うわ~と感じるわけです。
おせっかいと思うほど、他人のことを真剣に考えたり、とにかく甘いものが好きだったり、すごくテキトーなことはテキトーだったりと。 作者の愛ある視点から、文化や人、食べ物、習慣、宗教について書いてあり、知られざるトルコを感じられます。
特にトルコ料理については、世界三代料理らしく(他はフランス料理と中国料理)、おいしそうな絵と解説がついているものですから、かれこれここ数ヶ月はトルコ料理屋を探しては食べにいっています。 おすすめはキョフテ(ハンバーグ)と、マントゥ(餃子みたいなもの)です。 食事の〆は熱いトルコチャイ(トルコチャイはミルクが入ってないのがスタンダードです。)をクイッとしてトルコ人の気分を味わっています。は~、おいしい・・・。
そんな具合で、トルコモード全開な私ですので、今回の映画は 「トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動」 トルコのとある村のゴミ問題に関するドキュメンタリーです。
監督であるファティ・アキン(在ドイツのトルコ系移民)の祖父母のゆかりのある土地が舞台。緑豊かな田舎町です。 監督ははじめてその地を訪れたとき、「ここは天国だ!」とまで思ったようですが、その地にゴミ処理場が建設される予定と知り、ショックをうけ、使命感にかられドキュメンタリーをとりはじめます。 2007年から5年間の記録をまとめたのが、今回の映画です。
トルコ当局のゴミ処理場は、びっくりするほどテキトーでずさんです。 普通のビニールシートで土への汚染を防いでみたり、素人が見ても溢れてしまうとわかるほど、とても小さな汚水処理槽を作っては、崩壊させたり。 そんなずさんなゴミ処理場ですから、街の景色も一変。 いたるところにゴミが大量に投棄されていたり、汚水で川は汚れ、街の中は異臭が漂うようになってしまいます。 とにかく、その光景には開いた口が塞がらない。
映画はそんな街の景色を、町役場の人、ゴミ処理場側の人、そこで働く人、そこに住む若者たちのインタビューも交えつつ淡々と収めています。
すっかり荒んでしまった「故郷」に対して、 老人たちは「それでも故郷が好きだから、ここに住むしかない。」というし、若者は「自然が侵されたこの土地では、豊かな生活はできない。だから外へ出て行く」という。
ここまでみれば、観ている日本人のわたしたちも、なんだか他人事ではないのに気づきます。 福島の原子力発電所の一件にも、とてもリンクしています。 ”普通のビニールシートで土への汚染を防いでみたり”なんてずさんなことが、身近で起きているような気がします。 その土地に住むひとたちが直面している問題とは、ほぼ一緒だと思います。 トルコ人だろうと日本人だろうと同じなのだと。
監督であるファティ・アキンはとても才能のある監督で、30代にして、ベルリン、カンヌ、ベネチアの3大映画祭で受賞を果たしています。 最新作の『ソウル・キッチン』はドイツで100万人以上を動員して大ヒットとなっています。 そういった影で、社会的に意義のある、いわゆる「興行的には撮らなくても良いもの」を撮っているのは純粋にエライなぁと思います。 トルコらしさ全開!といった感じではなかったのですが、今の時期、今のタイミングで観るべき映画だと思います。
次は『ソウル・キッチン』が気になります。
Profile of 市川 桂
美術系大学で、自ら映像制作を中心にものづくりを行い、ものづくりの苦労や感動を体験してきました。今は株式会社フェローズにてクリエイティブ業界、特にWEB&グラフィック業界専門のエージェントをしています。 映画鑑賞は、大学時代は年間200~300本ほど、社会人になった現在は年間100本を観るのを目標にしています。