話は今年の2月に遡ります。 第2回のコラムに登場したアーティストのテッドさんからメールがあり、「Yoshitomo NaraがNiagaraに来て壁に絵を描いてったよ！ココに絵を描いていったのは誰も知らないから、今コラムに書いたらスクープだぜ！」

今年の2月末、チェルシーのギャラリーで個展をする奈良さんが、その前日に地下鉄構内で落書きをした事件がありました。おそらくその事件の前に立ち寄ったバーがNiagaraで、奈良さんが壁一面に絵を描いていったようです。Niagaraでバーテンダーとして働いているテッドさんは、いち早くこの情報を私に教えてくれたのでした。

Niagaraはマンハッタンのダウンタウン、東側に位置するイーストビレッジにあり、バーやレストランがたくさん集まる所。Niagaraは基本バーですが、アートショーや音楽ライブも行われています。

2月にそんな大きなスクープ情報をもらっていたにも関わらず、「そのうちに……」と思っていた私。いつのまにか半年以上も経っており、ようやく重い重い腰をあげて、Niagaraに行きました。テッドさんに会うのも約1年ぶりです。

テッドさんは変わらず人なつっこい笑顔で迎えてくれ、私にたくさんのカクテルとビールをごちそうしてくれました。仲間と行っているアートプロジェクト「アンタゴニストアートムーブメント」でベルリンに行ってアートショーを行ったり、ワシントンDCでパンクバンドのライブを行ったり、ソロでもライブを行ったりしているようです。合間にオーストラリアや東京にも旅行しています。彼いわく「お金はないけれど」、好きなことをやっている顔、雰囲気に満ちていました。

Niagaraではこの日、バー奥のスペースでアートショーが行われていました。無名のアーティスト何人かが作品を持ち込んでいて、その作品を壁に展示するのもテッドさんの仕事。アーティストと話をしながら、手際よく釘を打ち込んで展示していきます。床下から展示作品の中心までのサイズをメジャーで計りながら、「この位置に展示するといいんだ」という、ちょっとした展示レクチャーをしているようでした。そう、テッドさんはギャラリーでのアートハンドラーの仕事もしており、アート展示に関してはプロなのです。

アーティストと作品展示を行うテッドさん アーティストと作品展示を行うテッドさん バー奥のスペースでのアートショーバー奥のスペースでのアートショー

さてさて、今回のメインテーマ、奈良さんの絵。奈良さんは村上隆さんと同様、NYではとても人気のあるアーティストです。

壁に描かれた奈良さんの絵の上にはきちんと透明の板が貼られており、万全に保護されていました。黒ペンで描かれた、すぐ奈良さんだとわかる女の子の絵。絵と一緒に奈良さんの筆跡で“Hey NYC Are you happy?”“Yeah”“Love Niagara”と書かれていて、NYの夜を楽しんでいる雰囲気が伝わってきます。絵と一緒に、日本のポップアーティスト奈良美智について、そして落書き事件の様子を知らせるニューヨークポストの記事も添えてありました。

Niagaraの壁に描かれた奈良さんの絵 Niagaraの壁に描かれた奈良さんの絵 奈良さんについてのニューヨークポストの記事奈良さんについてのニューヨークポストの記事

奈良さんが壁一面にここまでたくさん描いてるということは、とてもNiagaraが気に入ったみたいですね。奈良さんはとても有名なアーティストでギャラリーや本でしか作品を見ることはできないと思っていましたが、ひょんなところで生の作品を見られて感激しましたし、落書き自体はいけないことですが、「そんなことしちゃうのね」と、なんだか身近に感じられました。NYにいるからこそこういう場面にも遭遇できたましたし、NYの不思議なつながり、NYの良さをまた見つけられた気がします。それにしてもバーの壁に描くってそのときのノリだったんでしょうか。カッコイイです。翌日の個展は、事件の影響もあってか大盛況だったそうです。

NYに遊びにいかれたら、ぜひNiagaraにふらっと立ち寄ってみてください。美味しいお酒はもちろん、奈良さんの絵も見るられますし、アートショーやライブも見ることができますし、なんと言ってもニューヨークのローカルな雰囲気が味わえると思います。テッドさんに会ったら「記事を見たよ！」と声をかけて話をするのもいいですね。人懐っこくお話好きなので、NYのことをいっぱい話してくれると思います。

Niagaraウェブサイト： http://www.niagarabar.com/