WEB・モバイル2008.12.03

NYの ローカルアーティスト、Ted Riederer

Dig It! NYC Vol.2
Dig It! NYC 藤井さゆり

前回は、ブルックリンで開催されたアートフェスティバル“D.U.M.B.O. ART UNDER THE BRIDGE FESTIVAL”の模様をお伝えしましたが、そこではニューヨークから発信されたボーダレスで様々なスタイルのアートワークに出会うことができました。 そこで今回は、実際にニューヨークで活動をしているローカルのクリエイターにスポットを当て、日常、どのように過ごしているのか、どんなものが自身のクリエイティブワークに影響を与えているのかなどについて探ってみたいと思います。 今回ご登場いただくのは、ニューヨーク生まれのローカルアーティスト、テッド・ライデラー(Ted Riederer)さん。彼のアートワークも交えながらご紹介します。

スタジオで制作中のテッドさん

スタジオで制作中のテッドさん

テッドさんは16歳の時に音楽をはじめとしたアートを作り出し、ボストンやニューヨークの大学にてファインアートを学んだ後、スクール・オブ・ビジュアルアーツにてMFA(マスターオブファインアーツ)の学位を取得。これまでにチェルシーのギャラリーやMOMA(ニューヨーク近代美術館)と提携しているコンテンポラリーアートの美術館である「P.S.1*」、サンフランシスコやベルリンでも個展やグループ展を実施、実績も充分にあるアーティストです。

彼のスタジオは、クイーンズ(ニューヨーク市の行政区の1つ、マンハッタンの東隣に位置)のロングアイランドシティーにあります。マンハッタンからは地下鉄で川を渡ってほどすぐの場所。元倉庫だったような趣きのある大きいビルの中の一室を3人のアーティスト仲間とともに使用しています。それぞれの創作スペースは確保されつつ、間はパーティションで区切られているだけなので、お互いに今どんなアートワークを手掛けているかが分かるのだそうです。そして、時には助け合い、アイディアをシェアできるのが利点だと言います。

スタジオ内

スタジオ内

この日会えたのは、彼のスタジオメイトの一人であるスティーブンさんのみでしたが、全員が感性を信頼して刺激し合い、作り出すアートワークにおいても尊敬し合っている、そんな印象を受けました。何人かとシェアすることで広いスペースを安く借りられるのも大きな利点なのでしょう。ニューヨークでは1つのアパートメントをルームメイトとシェアすることが通常なのですが、それに近い感覚なのかもしれません。また、スタジオがあるビルの屋上からはマンハッタンを一望できる素晴らしい夜景を眺めることもできます。大変美しいです。

彼のアートワークは、ペインティング、インスタレーション、パフォーマンス、音楽と多岐にわたっています。オイルペインティングも大変素晴らしいものでしたが、個人的にとても面白いと思ったのが、インスタレーションやパフォーマンスでの表現方法です。

インスタレーション “St. Antipode”

インスタレーション “St. Antipode”

1つは“St. Antipode”(Antipode:対立物、正反対の位置にあるもの)というインスタレーション。鎧を着けた戦士と骸骨の山が対局に置かれていますが、これらは全てレコード盤からできたもの。骸骨はレコード盤を型に合わせて融解し作られています。また、骸骨にはレコードのA面側を、黒光したリアルな鎧の戦士にはレコードのB面側が使用されています。 彼の中では、骸骨(A面)=悪、鎧の戦士(B面)=ヒーローという図式があると同時に、10代だった頃の彼にとってより魅力的だったのは、トップ100に上がるようなA面の音楽ではなく、個性のあるB面の音楽で、メインではなく“Bサイド”の生き方がより自分らしいと気づいた、というところから来ているようです。タイトルが“Antipode”であることにも納得。また、家庭内での問題や様々な事柄が起こった、彼にとって最も重要な年であったという1986年にリリースされたレコードで全て作られているという点も面白いところです。

 
インスタレーション “The Resurrectionists”

インスタレーション “The Resurrectionists”

2つめは“The Resurrectionists”(復活した死者、よみがえり)というパフォーマンスとインスタレーション。海外のミュージシャンがよくライブパフォーマンスと称してギターを床に叩きつけ破壊するように、The Resurrectionistsというバンドがドラムの合図後、演奏をせず楽器をその場で破壊。無惨な姿になった楽器が、その後彼らの手によって修復され、再び音を奏でるまでに復活。飛び散ったギターボディの小さな破片までも集められ、時間をかけて楽器を蘇らせています。 これは、彼が10代の頃に映画で見たアメリカのバンド、ザ・フーのピート・タウンゼントのギターを破壊するパフォーマンスに衝撃を受け、その後もジミ・ヘンドリックス、カート・コヴァーンなどのミュージシャンにより、次々とそのパフォーマンスが繰り返されているということに端を発したもの。パフォーマンスの為にギターを破壊するといった行為の愚かさ、もしくは憧憬、楽器、音楽への愛情が表現されたアートワークなのかもしれません。楽器の破壊パフォーマンスはビデオで見ることができます。(この修復された楽器のインスタレーションは、2007年の1月から2月上旬までチェルシーのギャラリーにて展示されました)

対局にある2つのものを1つにまとめること――それが、テッドさんのアートワークのテーマ。たしかに、紹介した1作品めは「A面(悪)とB面(ヒーロー)」、2作品めは「破壊と復活」というように、一作品の中で反対の位置にあるものがそれぞれ存在しています。また、音楽は彼のアートワークに多大な影響を与えており、先ほど少し触れましたが、彼にとって大変な時期であった1986年当時も音楽によって救われたと言います。

P.S.1(*下記参照)などの有名な美術館をはじめとして、コンスタントに個展やグループ展を実施するテッドさん。アーティストとしての活動がメインですが、その他にもアートハンドラー(アート作品をギャラリーや美術館に設置する仕事)、バーテンダー、アクティビスト(社会に貢献する活動家)、バンド活動もしており、多忙な毎日を送っているそうです。

ビルの屋上にて。テッドさんの後ろには素晴らしい夜景

ビルの屋上にて。テッドさんの後ろには素晴らしい夜景

どうやってアーティストになったのですか?という質問をしたところ、「勉強して、お酒を飲んで、音楽を作って、女性と遊びに行って…そんな感じかな。未来については…レベルアップしたいね!悪くないと思うよ」と、ビルの屋上でビールを飲みながら少しだけ不真面目に語ってくれたテッドさん。こんな会話の外し具合もニューヨーカーらしいなあ、という気がしました。その後ろには、素晴らしい夜景。 刺激的な都会の中で、こういった環境作りや小さいリラックスも、よりよいクリエイティブワークを創り出すのには大事なことなのでしょう。ニューヨークは慌ただしい都会の顔もありますが、その中で上手に気を抜いたり、自分のお気に入りの環境やリラックスする方法をアーティストが知っているからこそ、ニューヨークから素晴らしいアートが生まれるのかもしれません。 奇想天外なアイディアを実現し、音楽をこよなく愛す、とっても気さくなアーティスト、テッドさん。レベルアップしていく彼のアートワークから今後も目が離せません。先日、東京に遊びに行った彼は、かなり気に入った様子で、「東京でぜひアートショウがやりたい!」と意欲的な姿勢を見せてくれました。

テッドさんのウェブサイト http://www.secretshape.com/ テッドさんのバンド“The New You”のウェブサイト http://www.the-new-you.org/

*P.S.1…MOMA(ニューヨーク近代美術館)と提携しているコンテンポラリーアートの美術館。小学校であった建物をリノベーションしたこの美術館では、興味深い現代アートを多数扱っています。また、毎年夏の土曜日には中庭で野外イベントが行われており、大勢のニューヨーカー達で盛り上がります。夏にニューヨークへいらした方は、ぜひこのイベントもチェックしてみてください。 P.S.1ウェブサイト http://www.ps1.org/

先ほど少しだけご紹介した、テッドさんのスタジオメイトである スティーブンさん(Steven Bindernagel)のウェブサイト http://www.stevenbindernagel.com/ 彼のアートワークは、顕微鏡で見たような幻想的な世界観が表現されたカラフルなペインティングです。

こちらからスタジオ内の雰囲気など、他の画像が見られます(スライドショーが立ち上がります) http://www.flickr.com/photos/32776021@N07/show/

Profile of 藤井さゆり

藤井さゆり

東京生まれ、アメリカ在住。日本とアメリカでの職務経験あり。
東京丸の内にある公益法人にて8年間勤務の傍ら、友人が企画したクラブイベントのフライヤーや、CDジャケットのデザインを行う。
公益法人では「地方の街づくり・街おこし」支援事業の一環で、ウェブサイト業務に携わる。 公益法人退職後、2004年より4年間、都内商業施設のサイト更新・管理、販促サイトのキャンペーンページ企画と取材・撮影を含めたライティングワーク、ウェブデザインを経験。
2008年ニューヨークに移住。ニューヨークではウェブマーケティング、サイト管理を企業にて経験、それと共にウェブデザインとライティングワークをフリーランスとして行う。現在は日本の着物をインスパイアしたオリジナルTシャツブランド「Foxy Lilly」を立ち上げ、オーナー兼デザイナーを務める。
Foxylilly.com
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