オブジェを読んでみる?! @Thames-Side Studios Gallery

Vol.121
アーティスト
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

Thames-Side Studios Gallery

「本を題材にした展示を見に行こうよ。」そんな言葉に誘われ、行った先は第68回でも紹介した南ロンドン、テムズ川沿いにあるThames-Side Studios Gallery。中に入ると広い会場に白いテーブルが一列に並べられていてまるでブックフェア。でも並んでいるのは本じゃないぞ?今回はこのギャラリーから、Jonathan Callanの個展「Counter 」をお伝えします。


Thames-Side Studios Gallery

「Obelisk, 2020」

鏡面のように磨かれ、黒く輝く立体は、まるで墓石。英国で本は人気のある墓石のデザインですが、この作品は土台部分が実際の本になっている様子。背表紙をみれば「Dialectical materialism (唯物弁証法)」とあります。ソビエト連邦の研究者のGustav A. Wetterによって1970年代に書かれた哲学書で、Wetterはその後、ソビエト連邦崩壊の1991年に亡くなっています。作品は 「Obelisk, 2020」。


「A history of English monuments (1), 2021」

本からそびえ立つ要塞のような建物。世界遺産にも指定され、観光名所にもなっているロンドン塔は、その歴史から監獄、死刑場としてのイメージが強いものの、本来は要塞宮殿として建てられたものでした。現在でも英王室が所有する宮殿であり、王冠を含む戴冠宝器を保管しており、先月のエリザベス女王の即位70周年、プラチナ・ジュビリーを祝う式典でも使用されています。作品は「A history of English monuments (1), 2021」


「The march, 2018 」

ドラムの中央の凹んだ恐竜のような形はイングランドのかたち。ドラムを叩けば聞こえてくるのはイングランドの抗議活動の歴史でしょうか。先日2日の性的少数者の権利を訴える「プライド」行進は、ロンドンでは今年で50周年。100万人以上が参加し、3年ぶりに町を再び虹色に彩りました。作品は「The march, 2018 」


「Sleeping speech bubbles (2)’ 2021」

もしも漫画の吹き出しがおしゃべりしながら仲良く眠りについたら、こんな感じ?!作品は「Sleeping speech bubbles (2)’ 2021」


「Waltz, 2012」

山の下にたくさんの書物が埋もれていて、一体どんな本なのだろうかと気になります。作品は「Waltz, 2012」 。ワルツってあのくるくる回るダンスのこと?と混乱しますが、ドイツ語のワルツの語源には「回る」という意味以外に、「あれこれ考える、熟考する」という意味もあるようです。

「Ten years under the earth, 2021」

手形のついた赤い本から溢れるのはライムストーン(石灰岩)? この本の著者であるNorbert Casteretはカステレット洞窟を始め、様々な洞窟を発見した洞窟探検家。カステレット洞窟は、スペインのピレネー山脈にある氷の洞窟で、20メートル(66フェート)の氷壁のあるグランサラ(大広間)で知られています。またカステレットは多数の執筆も残しています。作品のタイトルは、ズバリ本のタイトルそのもの「Ten years under the earth, 2021」


「Utricle, 2022」

木の切り株のようにも見えるし、脳や人体のスライスのようにも見えます。よくみるとそれは本の集合体。まるで幾冊もの本が生き物のように集っています。作品はUtricle, 2022。Utricleとは小さなふくろ(小嚢)の意。私たちの体の中にあるミクロの袋である小胞は、細胞内の膜に包まれ、物質の貯蔵や輸送に用いられます。小胞は小胞内の物質によって異なる、それぞれが特化した機能を持っているそう。見た目は同じような小さな袋でも情報はぎっしり詰まっていてまるで本のよう。

展示されていたのは59個のオブジェ。まだまだ読めるオブジェがありますが、今回はこの辺りで。

プロフィール
アーティスト
笠原 みゆき
笠原 みゆき氏 2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:http://www.miyukikasahara.com/

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