秋のリージェンツ・パークを満喫!フリーズ野外彫刻展:前編

Vol.124
アーティスト
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき
二百種以上の野鳥の訪れる自然豊かなリージェンツ・パークで、ユリカモメ、カナダガン、オオバンなどがお出迎え。公園は410エイカー東京ドーム36個分の広さ。

野鳥のさえずりに誘われてやってきたのは、ウェストミンスター区とカムデン区にまたがる広大な王立公園リージェンツ・パーク。ここで、秋恒例国際アートの祭典、フリーズ・アートフェア・ロンドンに合わせて一足先に展示が始まるフリーズ野外彫刻展に行ってきました。ほぼ20年続くフリーズ・ロンドンは、年々値上がり、今年の1日全館共通入場料は何と263.4ポンド(約4万3千円)!一方、数日のみのアートフェアに対して野外彫刻展は前後の2ヶ月ほど開催していてこちらは無料。ヨークシャー彫刻公園のキュレーターClare Lilleyによって10年前から始められた試みです。さて、会場最寄りのリージェンツ・パーク駅からでなく、ベーカーストリート駅から公園に入った私。公園の管理をしているパークレンジャーに尋ねると、近道の東ルートは翌週開くフリーズ・ロンドン会場建設のために閉鎖中。そこで少し足を伸ばして北回りルートで。

バラの花がどこまでも続くローズガーデン

湖上で青色のボートを漕ぐ人々を横目に橋を渡り、内周道路を横切るとコーヒーの香ばしい香り。目の前にカフェ・バーが現れます。カフェの営業時間は、夏は朝8時から夜8時、冬は午後4時までと季節のよって異なるので要確認。そのまま北へ野外劇場の先にある未だ花の咲き乱れるクィーン・メアリー・ガーデンの噴水を目指します。噴水から東へ、上り下りのあるハーブガーデンを抜けしばらくすると右手に3万本のバラの咲くローズガーデンが現れます。その先の黄金のゲートを抜けチェスターロードをまっすぐ進むとようやく右手にお目当てのイギリス式庭園の入口。

「Red Stack, 2022」 Shaikha Al Mazrou

前方に現れたのは、緑の芝の上にふわりと高く積み上げられた真っ赤なクッション。いつ崩れてもおかしくないその一番上に飛び乗ってみたくなる?作品はアラブ出身Shaikha Al MazrouのRed Stack, 2022

「Don’t Look Back, 2022」 Tim Etchells

Don’t Look Back — 振り返るな。誰もがこのパンデミックの時間は一体何だったんだろうと考えたくなるこの頃。錆びた鉄板をくり抜いたその言葉は未来に向かって開いている。このコラムでもおなじみの英国の美術家で作家のTim Etchellsの同名の作品。

「Vertical Planes Me, 2022」 Jordy Kerwick

双頭のユニコーンの上に乗っているのはグリフィン?英国ポートランド島で採掘されたジュラ紀の石灰岩ポートランドストーンを刻んだ作品。この岩はセント・ポール大聖堂などロンドンのあちこちの建築に使われていることで知られています。Jordy Kerwickは化石の眠るこの岩を使い、10歳のころに体験した神話的な不思議な夢を彫り出したのだそう。作品は「Vertical Plane Me, 2022」。『Vertical Plane (1989)』はチェシャーの小さな村の古い屋敷に移り住んだKen Websterが、かつてそこに住んでいた16世紀の住人とやりとりすることになる怪奇現象を綴った著書。


「Dubito Ergo Cogito, 2022」Ron Arad

こちらは、ロダンの『考える人』のポーズをとる学生さん。


「Dubito Ergo Cogito, 2022」Ron Arad

作品は『考える人』の尻と足の跡を残し、台座を再現したブロンズ鋳造。来場者はそこに腰掛け、『考える人』になれます。『考える人』は当初ダンテの『神曲』地獄篇に出てくる地獄の門からインスピレーションを得た彫刻作品の一部でした。ロダンは「詩人」と名付けたこの像を地獄門をくぐる者を見下ろす頂点に配置し、ダンテそしてロダン自身を表現しているといわれています。早速座ってみるとかなり前のめり。地獄門を覗き込む崖っぷちに座る像。政争に敗れ故郷を追われ、地獄へ飛び込んでいったダンテに敬慕を抱きながら、ロダンはその像に制作、私生活と思い悩む自身の姿を重ねていたのでしょうか。あなたはそこで何を思う?作品はRon Aradの「Dubito Ergo Cogito, 2022」(我疑う、ゆえに我思う)

「Space mirrors mind, 2022」John Giorno

小さな隕石のような2人ほど腰掛けられるサイズの岩に刻まれた言葉。アメリカの詩人、John Giornoの石の詩シリーズ「Space mirrors mind, 2022」。心を映し出すのは?

「Tunnel-Tell (ceci sera), 2020」Alicja Kwade

今度は隕石の真ん中を何かが突き抜けていったようにくり抜かれ、鏡となり辺りの風景を映し出しています。

「Tunnel-Tell (ceci sera), 2020」Alicja Kwade

サイドから見るとこんな感じ。曲面に映り込んだお互いの笑顔の写真を撮りあって。作品はAlicja Kwadeの「Tunnel-Tell (ceci sera), 2020」

「Imperial LOVE, 1966 – 1971」Robert Indiana

世界の街角でおなじみ「Love」をモチーフとしたポップアートで知られるアメリカ出身のロバート・インディアナ。日本でも新宿アイランドタワーの正面入り口に設置されています。デザインはインディアナが1964年に友人や知人に送ったクリスマスカードに使ったのが始まりだったとか。

「Hercules meets Galatea, 2022」Matthew Darbyshire

見つめ合う二人。作品は英国美術家Matthew Darbyshireの「Hercules meets Galatea, 2022」。ヘラクレスといえば、ギリシャ神話の英雄の一人で、ヒドラなどの怪物退治などの難業を次々こなし、試練を乗り越えていく姿は古くから美術の題材に扱われてきました。一方、ガラテイアはキプロス王のピュグマリオーンが理想の女性として彫り出した人形。人形に恋をしてしまった王を哀れんだアプロディーテーは彫像に生命を与えます。こちらも絵画、近年では戯曲『ピグマリオン』そして『マイ・フェア・レディ』としてミュージカルや映画の題材にもなっています。でもよくみれば、ヘラクレス像は大きく威厳のあるはずなのに表面はガタガタ。実はこれ、ダービィシャーが発泡スチロール板をパン切り包丁で刻んで積み上げて手作りした型を鋳造したもの。原型はステレオタイプの英雄像として後に幾度もコピーされたファルネーゼのヘラクレス像(4世紀)を元にしています。一方の生まれたばかりのように艶やかなガラテイアは3Dモデリングソフトを使い、車の原型を作る工場で仕上げた型を鋳造したもの。全く異なる手法で製作された二つの像。どちらもギリシャ神話上の人物ですが、二人が出会うという場面はなくダービィシャーのでっち上げ。神話に新たな要素を加えていくようです。

ところで、二つの像の中央で解説を読んでる人、どこかでみたような?おっと、文字数が大幅にオーバーしましたのでこの先は次回。それではまた!

プロフィール
アーティスト
笠原 みゆき
笠原 みゆき氏 2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:http://www.miyukikasahara.com/

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