スーサイド・ショップ
- ミニ・シネマ・パラダイスVol.15
- ミニ・シネマ・パラダイス 市川桂
8月の映画ライフを振り返ってみると、ミニシアターとはかけ離れていたと、反省。 「スタート・レック イントゥダークネス」を2回観てしまったり、今さらBlu-rayで「007シリーズ」をいくつか観て、ジェームズ・ボンドに痺れてみたり。ロードオブザリングの新シリーズ・「ホビット」を観ては、じゃあロードオブザリングも久々に観なきゃ、とか、ようやく「プロメテウス」を観ては、じゃあ「エイリアン」シリーズをいくつか観て、女戦士のリプリーに痺れてみたり。 夏の大作と、その前の大作のBlu-rayとDVD発売があったためでしょうか。 でも無意識に、夏はやっぱり大作が観たくなってしまっているのかもしれません。 反面、ようやく秋らしくなってきた最近は、文化的、芸術的なミニシアターにむずむずと気持ちが惹かれているような気がします。
秋の1本目は「仕立て屋の恋」、「髪結いの亭主」で有名なパトリス・ルコントの最新作。 「スーサイド・ショップ」を今回観てきました。
40年弱に及ぶキャリアにして始めてのミュージカル仕立て、アニメでしかも3Dなんて、チャレンジングな企画だと思いました。 いろんな意味でとても危険な匂いがします。 「仕立て屋」も「髪結い」もかなり前に観たっきりで、とても良かったことだけは印象にあり、ただ細部までは思い出せませんでした。主人公はいずれも社会の隅っこにいて、生きる気力に乏しいような人たちで、いわゆるフランス映画らしい、上品で悲劇的で、物悲しいラブストーリーになっていたような記憶・・・。 かなりぼんやりとしたイメージを持ちながら、ヒューマントラストシネマ有楽町に向かいました。
映画館が乱立している地区で、近くの日比谷TOHOシネマズシャンテは良く行っていたのですが、ヒューマントラストシネマ有楽町は初めてでした。 有楽町マルイのお隣、有楽町イトシア4階。 商業施設の中だけあって、買い物ついでのお客さんがたくさんいるようで、「スーサイド・ショップ」も162席中、半分以上は埋まっていました。 入場の際に3Dメガネを手渡され、「本当に3Dなんだなぁ」と思うほど、この監督と、アニメ、3D、という単語が結びつきません。 映画館の受付付近に、アニメのキャラクターの立体パネルが並んでいました。 いわゆるディズニーとかピクサー的なデフォルメキャラクターされた・・・いや、 一瞬ディズニーの『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』をはっきりと思い出すテイストです。
人々が生きる気力を失くし、自殺志願者があふれている都会。 生きながらにして、死んだような目をしている人々が暗い都会の中を歩いています。 トゥヴァシュ一家が営む「自殺専門用品店」は、連日大盛況。 各種毒薬、首吊り縄、ピストル、“ハラキリ用”の刀までそろえ、ネガティブ思考のトゥヴァシュ一家(父、母、姉、弟)が切り盛りしていました。 そこに新たに生まれた息子は、父親がびっくりするほど笑顔が明るいポジティブな子供・アラン。 アランの成長とともに、「自殺専門用品店」とそれを取り巻く都会の様子が変わっていきます。
ブラックユーモアたっぷりのストーリー展開とキャラクターです。 キャラクターも父親が“ミシマ”、娘が“マリリン”といった具合で、「自殺した有名人」の名前がついています。人々は「死にたい」、と言葉に出し、「この毒薬なら絶対死ねます。死ねなかったら返金します」とミュージカル調の歌を合唱します。とにかくアランと友達たち数人を除き、みんなが超ネガティブで笑えるくらい死にたがっている世界。 本作はフランスの作家ジャン・トゥーレの原作があり、 そうか、アニメが作りたかったのではなくて、アニメじゃなきゃ作れない内容だったのだな、と ストンと理解できました。
人々は悲観しています。ただ悲観が度を過ぎると、 観ているこっちとしては「もっと頑張れば良いことあるよ」とも思うし、物語はアランを起点に、最終的には前を向こうとしていきます。 そしてアニメであるおかげで、悲観的な題材ながらどこか面白おかしく観れてしまう。 生きる気力に乏しいような人にスポットライトを当てる、紛れもないパトリス・ルコントの映画でした。 3Dである必要は・・・どちらともいえない感じではありましたが。笑
Profile of 市川 桂
美術系大学で、自ら映像制作を中心にものづくりを行い、ものづくりの苦労や感動を体験してきました。今は株式会社フェローズにてクリエイティブ業界、特にWEB&グラフィック業界専門のエージェントをしています。 映画鑑賞は、大学時代は年間200~300本ほど、社会人になった現在は年間100本を観るのを目標にしています。