「2の多い年に目にしたもの」
3年ぶりに行動制限のない年末年始です。
家にいてもネットやスマホやテレビなどから情報を得ることはできますが、思い出をつくることはなかなか難しい。家の外に一歩出るだけでもいきなり「姉さん事件です!(古ッ)」みたいなことがよく起こります。
あれはこの冬、つい先日。コンビニに買い物に向かうとき僕の住んでいる部屋の隣の空き地に囲いができている(※写真①)ではありませんか!
まさに古典小咄の代表作「隣の空き地に囲いができたんだって」「へぇ~」のまんまの状況です。誰にも理解されないでしょうが、これはこの日の僕には妙にツボでして、一日ニコニコできました。この小咄は世代によってはオチの部分が「へぇ~」ではなく「カッコイイ」なんだそうですが、僕は「へぇ~」派です。そうだ、思い出しました。同様の光景として中学生の頃、住んでいた団地の4階のベランダから布団が吹っ飛んでいく姿をずーっと目で追った記憶があります。当時、映画『人間の証明』(1977年公開)が流行っていてその中で麦わら帽子が空を舞うシーンのときに流れるジョー山中さんが歌う曲があるのですが、布団が舞う光景と一緒にその曲も思い出しました。人間の記憶はフシギです。
あれはこの秋。新橋の行きつけのお店でひとり酒を楽しんだ後、ほろ酔いの足で銀座をふらついたとき。小さなショーウィンドウから放たれた光に猛烈に吸い寄せられました。
そこにあったのはシャネルのブーツ(※写真②は大人の事情で使えないのでご想像ください)。なんなんだ、この違和感は。堂々とした黒い長靴。ロゴがなければ田舎の田んぼで大活躍のただの黒長靴です。このロゴの恐ろしいパワー。いっそこの長靴で田植えをしたらどれだけカッコイイだろうかと見とれてしまいました。そのあとすぐに野暮は承知で価格を調べたら定価181,500円でした。結果、一番印象に残ったのはその値段。人間は現金な生きものです。
あれはこの夏、下町(たしか門前仲町だったと思う)を散歩していたとき。蕎麦屋さんの貼り紙(※写真③)を二度見しました(※写真④)。
いったいどんな事情なのでしょう?仕入れの数をゼロひとつ間違えたのか、それともお店の大将が釣りに行って大漁だったのか、実はこれを目当てで入ったら蕎麦がとんでもなく高いとか。貼り紙のもつ魔力と夏の暑さにクラクラした日でした。同じくあれはこの夏、どこかのホテルのロビーで見た七夕飾りの短冊に書かれた決意(※写真⑤)に胸があつくなりました。
令和のこの時代とは思えない昭和な心意気。僕は嫌いじゃないです。人間は急に新しくはなれないのかもしれません。でもな~、若い世代はどんどん先に行きますね。街にはシステムがわからないと扱えないものが次々と現れます。居酒屋やファミレスでも注文をスマホ入力の店が増えていますし、無印良品もユニクロもレジは無人が当たり前ですし、ほんとに全員ついていけているのですか?ついていけないのは僕だけですか?最近空港でよく見るこの光景(※写真⑥)は昭和の頃に想像していた21世紀の図そのものだよなぁ、と秀樹感激と共にしばし呆然としてしまいます。
そしてあれはこの春、テレビの情報番組を見ていたら僕の勤務先のすぐそばのビルがもうすぐ解体されるというニュースがありました。昭和を代表する建築家のひとりである黒川紀章さん設計の中銀カプセルタワービルです。1972年に世界初の実用化されたカプセル型の集合住宅として竣工。当初は分譲マンションとして発売され大人気物件だったそうです。その頃の計画では25年毎にカプセルの部屋は取替えられる予定でしたが、実際には交換が困難なことがわかって実施されないまま老朽化してしまい今年解体となったのです。僕にとってこのビルはふだんのいつもの当たり前の存在でした。というのは、会社のデスクのそばの窓から常時見えていたからです(※写真⑦)。
解体の知らせを聞いてからは特に用がない日もこっそり出社してこのビルを眺めていました。その姿は徐々に変貌していって夏の終わりには消えてしまいました(写真⑧⑨⑩)。
あ~、またひとつ大事な何かが遠くに行った令和4年。人間は忘れる動物だけど、しっかり覚えておかなきゃいけないこともあるんだ、と強く感じた年の瀬です。
ところで、これを書いている今日は2022年12月22日とずいぶん2が多い日ですが、さっきシャワーのあとに体重を測ったら77.7キロ(※写真⑪)で太って残念なのにニンマリした話はまたの機会に。
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