シンガポールではたらくひと #3
Fellows Creative Staff Singapore PTE. LTD.代表の大石隼矢(おおいしじゅんや)です。
いつもコラムをお読みいただきありがとうございます。
第28回目のコラムです。前回から引き続き、新シリーズ「シンガポールではたらくひと」。今回取材したのは、Aesop Singaporeにてビジュアルマーチャンダイザー(VMD)としてはたらくYasueさん。現在シンガポールではたらきはじめて2年目をむかえた彼女のバックグラウンドやシンガポールでのお仕事、そして将来像について聞いてきました。
■Yasueさん プロフィール
1989年生まれ。茨城県出身。
高校半ばまでは勉強詰めだったというYasueさん。大学受験について真剣に考え始めていたころ、テレビで観ていた音楽番組の照明演出に興味を持ち、美術セットも含めて「あの空間はどうやって作られているのだろう?」と興味を持ち、美大への進学を決めたそう。
高校卒業後→東京造形大学入学→武蔵野美術大学へ編入。面出 薫 教授(現:同大学客員教授)に師事。
■日本で店舗施工を経験。「空間の演出を考えたい」とAesopへ転職
まず初めに、どうしてシンガポールで働くことになったのか教えてください!
面出教授が代表を務める株式会社ライティング・プランナーズ・アソシエーツがシンガポールに拠点を置いていて、大学のゼミの海外研修でシンガポールに来たのが20歳の時でした。この時はまだ卒業後に海外で働くといった気持ちはまったく無く、「まわりの新卒と同じように、就活して、正社員で、東京でキャリアを積むぞ」というマインドでした。大学卒業後は店舗デザインやディスプレイデザイン会社の株式会社スペースへ入社し、デザイン設計や施工監理といったすべての工程に関わるポジションで約4年半働きました。外車のショールームや、アパレル、化粧品メーカーなどの店舗施工に関わりましたね。
ひとつめの転機となったのはAesop Japanへの転職でした。さまざまなブランドやメーカーの店舗施工に携わってきましたが、その店舗を訪れるお客様が実際に体験するのは商品が入った後オープンしてからの空間であって、店舗という箱を作るだけではなく、商業空間の演出をしていく仕事をしたいと思うようになりました。
私が入社したころAesop Japanのオフィスメンバーはまだ20名弱ほどの会社でしたが、自分以外の全員が帰国子女か海外経験のある人たちだったことには驚きました。英語がまったく話せなかった自分にとっては、アジアやグローバルの会議に参加することだけでも大変で、自分の意見を深く伝えられない悔しさや焦りを感じていました。
■ワーキングホリデーを機に、海外でVMDの経験を積むためシンガポールへ
この転職が、大きな転機となったのですね。
周りの同僚たちに刺激を受けながらVMDとして3年働いたころに、イギリスへワーキングホリデーに行くチャンスができました。これがふたつめの転機です。Aesop Japanの同僚たちにも背中を押され2019年にイギリスへ渡りました。
コロナ禍もあり2年のワーキングホリデーの中でちゃんと働けたのは7割くらいでしたが、とても充実していましたね。PANTECHNICONという日本と北欧をテーマにした商業施設内のセレクトショップで店舗スタッフとして働いたり、仕事以外の時間は語学学校に行ったり。そうしてワーキングホリデーも終わりに近づいた2020年の暮れには、「このまま日本に戻るのは惜しい!Aesop Japanとイギリスの経験を活かして海外でVMDの経験を積みたい!」と思い、Aesopグローバル全体の中で募集中のポジションを探したところ、シンガポールで採用していることを発見したのです。すかさず応募したところ幸い採用になり、2021年にシンガポールに渡りました。
■渡英経験を生かし、VMDとして店舗の空間設計を「考え続ける」
今はどのようなお仕事をされていますか?
Aesop SEAのVMDとして、店内の演出を、実際に小道具をつくったりしながら、Aesopならではの空間をつくる仕事をしています。Aesopでは本社から、新作発表やシーズンごとに、デザインに関するガイドラインが送られてくるので、そこに書いてあるコンセプトを読み解くところからはじまります。そこから実際に各地の店舗(シンガポールやマレーシア、フィリピン)へ落とし込んでいくというプロセスで。
Aesop創業者が「考え続けること」を大事にしているんですね。だから私たちスタッフは常日頃から想像力を膨らませていて、仕事について語り合うことも多いです。来店するお客様の五感全体に印象が残るような空間になるよう気を配っています。
定期的に店舗に足を運んで気づきを得ていますし、毎度自ら装飾設営していますよ。
日々の仕事は5割デザイン、3割が設営、2割がチームや店舗へのVMDのトレーニング、プレスイベントの計画や新店舗の計画などを推進しています。
■ワークライフバランスを重視。フラットで意見を自由に言い合えるのが、シンガポールの魅力
どのような働き方をされていますか?
Aesopはオーストラリアのメルボルンで生まれた会社で、メルボルンという土地はとてもワークライフバランスを大事にしています。クリエイティブな仕事なので朝から晩までデザインを練ったり、休日にイベントがあったりと、忙しくなる時ももちろんありますが、オーバーワークは原則禁止で代休付与などもしっかりあります。
あと、ユニークなルールも明文化されていたりして、例えば、“デスクトップに付箋を貼らない”とか“月に1度はオフィスのキッチンで皆でランチを共にしよう”など。あと、社員が使うフォントやペンの色にも指定があったり。おもしろいですよね。コミュニケーションの取り方に関するガイドラインは多くあるように思います。その意図は何か、創業者の想いやAesopに流れるイズムを深く考えると、そのこだわりにも似た芯のあるルールがあることは心地よくあったりもします。
日本と比べた時に、シンガポールの方が良いなと思ったところを教えてください!
すべてのことが圧倒的に効率が良いです。例えば、個人のスマホのWhatsAppですぐにグループを作って業者の方とやり取りしますし、年齢関係なく日本のような複雑な敬語もないので仕事上で関わる人たちとの関係もフラットで意見を自由に言い合えます。それから様々な申請がデジタルで行われていて驚きました。日本も今はそうなのかもしれませんが、私がいた時はオンラインで申請しても印刷して印鑑を押して、といった面倒な手順がありましたが、シンガポールではほとんど経験しません。ビザの取得もスムーズで、税金の納付もアプリで簡単にできます。
月に1度はある海外出張も、ものの数分で自動ゲートにて入国審査を通過できることは本当にストレスがなく、早朝・深夜作業でタクシーを利用するときもすぐアプリで予約可能です。装飾用の小道具を発送するために日本では宅配便の伝票も毎月手書きで大量に準備していましたが、シンガポールは東京23区サイズの国土のため、アプリひとつでピックアップから配送の状況まで追跡できます。商業施設も駅直結で営業時間外でも共用部通路が開放されているので、煩雑な入館申請なしに、従業員入口を通ることなく、自店舗まで辿り着けることはVMDとしてはとてもメリットを感じる点です。
■「東南アジアでの成長に貢献した一人」でありたい
最後に。今後の自分の姿やキャリアプランについて、考えていることを教えてください!
主観的にも客観的にもいま東南アジアは勢いがあると感じています。これからAesopが東南アジアでどういった成長をしていくのか?拡大するマーケットを支えて、見届けていきたいと思っています。
日本では国内での移動は毎月ありましたが、海外出張は年に1、2回でした。今はいろんな国の人と関わり、周辺諸国への出張も頻繁にあって、日々多くの発見や気づきがあり、とても充実しています。
シンガポールの今あるミッションの中でやれるとこまでやりたいし、これからもパソコンの中だけのデザイン作業ではなく、店舗で実際に自分の手を動かして演出がしたい。今もこうやって話をさせてもらいながら、現場が好きなんだな、と改めて思いますね。あまりプライベートでどうなりたいか、みたいなことはすぐに出てこないのですが、大きなプロジェクトがあると気負いがちなので、気持ちのオン・オフの切り替え上手になりたいと思います。Aesopだったらそれができるというか、仕事だけでなくもっとこれから自分がどう“生きていくか”について向き合わせてくれる場所だなと思っています。
■まとめ
Yasueさんは、バリバリ仕事をしてきたのにそれを感じさせない、とても柔らかい雰囲気を持っていて、笑顔が似合う女性でした。
シンガポールではたらくひとをテーマにしているこのコラムですが、Yasueさんへの取材を通してAesopという会社のこと、ビジュアルマーチャンダイザーという仕事のこと、海外経験ゼロからのキャリアの積み方について、様々な気づきを得ることができました。このコラムを読んでくださる方にもきっと色んな気づきや発見があることでしょう。
Fellows Creative Staff Singapore Pte. Ltd.では、フリーランスのクリエイターがリモートワークでプロジェクトを受注できるようなサービスをはじめました。その名も「Fellows Creators」。例えば日本人がシンガポールの案件を、シンガポール人が日本の案件を、といった形でクロスボーダーに案件の受発注ができるようなサービスを目指しています。
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