ファッションを創る男
- ミニ・シネマ・パラダイスVol.17
- ミニ・シネマ・パラダイス 市川桂
白髪の髪をオールバックにして、小さいポニーテールを作り、 黒いサングラス、高そうなスーツを身にまとい、 クロムハーツの指輪を指いっぱいに付けている彼を、 みなさん1度は見たことがあるはずです。 “カール・ラガーフェルド”で画像検索していただければ、 「あ~!このおじさんね!」といった具合になると思います。
そんな世界的ブランド「シャネル」「フェンディ」のデザイナーとして知られる、ファッション界のカリスマデザイナーのドキュメンタリーを今回観てきました。
17時ごろ、すでに暗くなった有楽町駅前を通り、ヒューマントラストシネマに入ります。 JRの改札口を出て徒歩1分。 マルイのすぐ横なので、本当に買い物ついでのお客さんも多いのだろうなぁと思います。
ヒューマントラストシネマに行くと毎回思うのですが、人材派遣会社のヒューマントラストが運営している映画館のため、映画の前の宣伝CMがけっこうシュールだなぁといつも思います。 そのCM、マーくんと呼ばれる息子が、母にすすめられて「ヒュ」とロゴの入ったダサいスニーカーを 買わされる会話をメインとしています。 「ヒュいいわ~。お母さんはめっちゃいいと思うわ~、このヒュが。めっちゃええやろ?ヒュが・・・」と ヒュというワードが頭の中に残るのだから、このCMは成功しているのだと思いますが…。
さて、本題です。 ラガーフェルドに関しては、深い知識はまったく持ち合わせていない私。 ファッションが好きなのと、世界的なデザイナーのクリエーションの源を見ることができるんじゃないか、という期待を持っていました。 映画館はオシャレな雰囲気の人がいつもより多く、ファッション関係の仕事についていそうな人がチラホラといった、いつもと層が違うようでした。
「入ってもいいかい?」という監督の声とともに、彼の部屋へと入っていくところから映画ははじまります。 古い作りのアパートメント。壁は本でいっぱいになっています。 部屋の真ん中に天蓋つきベッド(女性的な繊細な白いレースのカバー・・・)、その手前に同じく白いレースのソファーがあり、さらにその手前のローテーブルにはファッション雑誌が高く積まれています。 スタイリッシュな空間というよりは、少し乱雑で生活観も垣間見えます。 奥には衣装やクロムハーツがたくさんおかれた部屋など、アパートメント全体がラガーフェルドのものなのでしょうが、彼にとってこのベッドのある部屋が、一番プライベートな場所なのだろうというのが分かります。 このシーンでは朝自宅を出るまでを映していますが、映画はそういった日常風景、仕事場での風景、デザイン中の風景、そして彼に対して質問をなげかけ、インタビューしている風景で構成されています。 逆に第三者からの彼に対するコメントなどはほとんど出てきません。 そういった構成から導きだされたラガーフェルドは、「普通のおじさん」といった印象に、逆に新鮮味を感じます。 世界的なデザイナー、という肩書きから、もっと破天荒だったり個性的だったりといった印象を持つかと思っていたため、とても意外なのです。
飛行機での移動のシーンが記憶に残ります。 彼は飛行機にのるとお腹の調子が必ず悪くなる(父親ゆずりらしい)とのことで、子供のころ母親が作って刺繍をしてくれたクッションを、必ずお腹にあてて眠っているのです。 そんなことを少し恥ずかしそうに話ながら、眠りにつくラガーフェルドの可愛らしいこと...。 素朴な人間性に迫れたからこそ、人々が彼にもっているイメージをある意味裏切った映画となっているのだと思います。
Profile of 市川 桂
美術系大学で、自ら映像制作を中心にものづくりを行い、ものづくりの苦労や感動を体験してきました。今は株式会社フェローズにてクリエイティブ業界、特にWEB&グラフィック業界専門のエージェントをしています。 映画鑑賞は、大学時代は年間200~300本ほど、社会人になった現在は年間100本を観るのを目標にしています。