川のように深く繋がるもの? @Royal Academy of Arts
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Royal Academy of Arts (裏門)
王立芸術院(ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ、通称RA)といえば1768年に設立された英国最古の美術学校。ロンドン中心部のピカデリーに拠点を構えます。現在の建物はパラディオ様式のバーリントン邸、元貴族の屋敷です。RAには当初から美術館が併設されていてナショナル・ギャラリーが1824年に創設されるまで、芸術家や学生に巨匠の名作に触れる場を提供し続け、現在もその質の高さに定評があります。学費が無料のため、展覧会の収益が学校の運営費となっています。また、毎年夏に行われるSummer Exhibitionは254年間途切れることなく続けられてきた全ての美術家を対象とした一般公募展。今回はその夏恒例の展示の裏のThe Gabrielle Jungles-Winkler Galleriesで行われていたSouls Grown Deep like the Rivers展の紹介です。展示はアメリカ南部のアフリカ系コミュニティーに焦点を当てたもの。
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The Gabrielle Jungles-Winkler Galleries – Gallery1
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Tree of Life (In the image of Old Things), 1994 Thornton Dial (1928 – 2016)
中央の老木のような小さい王冠のついた立体、気になります。早速近づいて見てみます。拾ってきた木の枝や木材、木の根、古タイヤ、衣類、有刺鉄線、プラスティック、塗料など、全て廃材を利用した作品。Thornton Dialだけでなく南部の黒人作家たちは皆身近に手に入る廃材を再利用して作品を作っています。
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Blue Skies; The Birds that Didn’t Learn How to Fly, 2008 Thornton Dial (1928 – 2016)
青い空とタイトルにはありますが、濁った埃の中に霞んでいる空。自由の象徴である翼のある鳥たちもその空の下で洗濯物干しのロープに力なく吊るされています。急速に工業の発達するアメリカ北部に比べ、南部は農業が中心で経済力が遅れていました。このため、白人の農場主たちは黒人を始め有色人種(非白人)が力を持つのを恐れ、人種差別的なジム・クロウ法という法律を1876年に成立させています。この法は1964年に廃止されますが差別はその後も根強く残りました。
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King of the Jungle, 1990 Thornton Dial Jr
使い古されたベンチに牛の頭がついていて、ちょっとかわいい?でもよく見ると鎖がその体に巻き付けられ、巻きつけられた先にはアルコールの瓶が。アルコール依存症が彼らの社会を蝕んでゆく様子が伺えます。前作の作家の息子にあたるThornton Dial Jr の作品。
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Keeping a Record of It (Harmful Music), 1986 Lonnie Holley (b.1950)
古いレコードプレーヤーの真ん中には犬の頭蓋骨?アメリカの黒人音楽といえば今ではアメリカを代表する音楽の1つですが1940—1950年代には感情的な白人たちによって危険な音楽と位置づけられていました。「記録」と「レコード」をもじった、「危険な音楽(と呼ばれた歴史)を記録しておこう」というのは、美術家だけでなく音楽家、教育者でもある Lonnie Holleyの作品。
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The Gabrielle Jungles-Winkler Galleries – Gallery2
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Eagle, 1988 Ralph Griffin
こちらのRalph Griffinの「鷹」も廃材の木材、釘、塗料を使った作品。
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Atlanta, 1988 Jimmy Lee Sudduth (1920 – 2007)
南部の経済的、商業的中心地であるAtlanta。アフリカ系アメリカ人公民権運動の穏健派の指導者として知られるキング牧師もここ、アトランタ出身で、1960年代には公民権運動の中心地となった都市。Jimmy Lee Sudduthは絵筆を使わずに土を混ぜたペイントと指でこの都市を描いています。
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Three-Way Bicycle, 1985 Charlie Lucas (b.1951)
3つのタイヤのついた自転車に乗るロボット?!障害者となり、仕事を続けられなくなった Charlie Lucasは、田舎へ引っ越して農民になるか、仕事を辞めて障害者手当をもらって暮らすか、フルタイムの美術家になるかの3択を迫られた時にこの作品をつくりました。Lucasの出した答えはもうお分かりですね?
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The Quiltmakers of Gee’s Bend 左から、1930年代、1945年、1960年のキルト
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The Quiltmakers of Gee’s Bend 左から1975年、2005年、2018年のキルト
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The Quiltmakers of Gee’s Bend — Triangles, 2021 Marlene Bennett Jones
最後のギャラリーには巨大なキルトがずらり。1930年代から2021年まで年代ごとに作られたもの。アラバマ州には豊かな穀倉地帯と森林を蛇行しながら流れるアラバマ川に、釣り針の鈎ようにくるりと曲がったGee’s Bend とよばれる小さな一角があります。そこには1816年、アフリカから18名、強制的に綿花栽培労働者として連れてこられた人々がいました。彼らは奴隷制度廃止後、土地を手に入れ定住しました。キルトはそんな彼らの末裔の女性たちによって代々母から娘へと受け継がれてきたものだったのです。
展示のタイトルは1921年に書かれたLangston Hughesの詩、「The negro Speaks of Rivers」の一節、「My soul has grown deep like the rivers」より。展示作品は正規の美術教育を受けていない多くの無名の美術家を支援した、William Arnett(1939 – 2020)のコレクションをもとに作られたSoul Grown Deep Foundation という基金からの借用です。展示の収益の一部は作品それぞれのもとのコミュニティーへ還元される仕組みになっているそうです。
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