プリマスの木漏れ日 @The Box 後編
セントルークス教会を後にして、雨の中急ぎ足で向かい側の近代的な建物へ向かいます。こちらも入り口のドアの上に「The Box」と書かれています。前回触れたプリマス市の複合文化施設「The Box」の本館で、20世紀初頭のエドワード朝建築の博物館を改築した建物。
入ったところはカフェになっていて仕事やお茶をする人たちがちらほら。でもその頭上に浮かぶ巨大な彫像は一体?
気になるので上の階へ上って近くで見てみます。右上の女性像は王冠被ってOrb(132回で触れた宝珠)にセプター(王笏)をもっていて、ん?モデルは女王?
後ろから見るとこんな感じで宇宙飛行士みたいです。大きさは2から4メートルとまちまちですが皆ほぼ同角度で、向かい側と合わせて13体飛行しています。
右上の白黒写真をみるとわかりますが、実はこれらの像、船首像(フィギュアヘッド)と呼ばれる船首に取り付けられていた木造の装飾像。こちらは4メートルの高さのDefianceという名の甲冑をつけた戦士で1859年製造。古くなった木造船舶は取り壊されましたが、その船の魂として大切にされた船首像の多くは保存され、造船所に展示されていました。但し、多くは保存状態が悪く、中心の木製部が腐食してしまっていたため、復元には多大な時間と労力が費やされました。この展示はかつて造船業を始め、海事の拠点の町として栄えたプリマスを象徴しているのだそう。角度も実際に船に備え付けられていた角度に合わせています。中にはあのアヘン戦争に参加した船舶の船首像も。ちなみに前出の女王像のモデルはビクトリア女王で1850年代作。
船首像を眺めていた空中回廊は市の図書館の閲覧所。自然光の入る空間でソファにこしかけて書籍や電子図書、資料の閲覧ができるようになっていました。手前の大きな図録は第二次大戦におけるプリマスに落とされた爆弾のロケーション地図。地図は爆弾の残骸や、不発弾の処理が追いつかない中、市民が迂闊に近づかないようにと作られたもの。海軍の重要な拠点でもあるプリマスはロンドンと並びドイツ軍による空襲被害の大きかった都市の1つでした。
さて、向かいにある美術館に入って見ます。右は18世紀の画家ジョシュア・レノルズの肖像画。レノルズはプリマス郊外のプリンプトン出身。ここでは生誕300年を記念し、特別展「Reframing Reynolds: A Celebration」が行われていました。伝統的な肖像画のようですが、力強く腰に腕を当てるポーズは当時、女性ではなく男性の肖像画によく用いられる表現でした。左は前回紹介したRana Begumの作品で、今回の特別展のために委託されたもの。レノルズの作品を光、色のブロックのみで表現しています。
レノルズは300年前の元祖セルフィ画家?左が23歳の時の自画像で、右が65歳の時の自画像。レノルズは生涯で30枚の自画像、そして大変人気のあった彼は2000枚以上の肖像画を残しています。しかし、この最後の自画像からわずか2年後にレノルズは視力を失います。
レノルズの画材道具。当時、顔料は鉱物、昆虫や植物から作られ、それに油、ロウ、樹脂を混ぜて絵の具が作られていました。
レノルズは前々回のコラムで紹介した美術学校、RA(王立芸術院)の設立メンバーの一人、初代会長で教育者としても知られています。レノルズはRAでの指導にあたり、線描をせずに直接色をのせていく、形を追うのではなく光を追う手法を奨励しています。これはそんなレノルズの下絵。ここから分厚く色をのせていくわけですが、下書きとはいえかなり仕上がっています。この絵を元々所有していたのはドラマチックな光の風景画を描く画家として名高いジョゼフ・ウィリアム・ターナー。ターナーは14歳でRAに入学、レノルズのもとで学び、その後RAの会員になります。
美術館内には常設展もあり、施設の下の階には地元で発掘されたマンモスが展示されている自然史博物館があったりと、Boxの中は盛りだくさん。吹き抜けを見上げると、まだ小雨の降り注ぐ中、Begumのインスタレーションが虹を描くかのように空間を彩っていました。
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