「野心的過ぎる」「コストが高すぎる」批判的な声が多かった女性専用のバスケシューズが人気ブランドになるまで

Vol.54
FIND IT. LOVE IT.
Sayuri Fujii
藤井さゆり

「女性の足は、男性の足と比べてアーチが高く、足幅とかかとが細く、側面が浅いという特徴がある」

 

ーそんな女性の足をモデルに、元女子バスケ選手がアスリート、スポーツトレーナー、整形外科医などの専門家とともに​​一から木型を作って、女性専用のバスケットボールシューズブランド、Moolah Kicks(ムーラキックス)が誕生したのが2020年。

 

 
 
 
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それ以降、新しいモデルが発表される度に話題となっていたMoolah Kicksですが、2023年9月に、待望の女の子専用サイズPress Breakが登場。対象は22cm〜25cmを履く小学校5年生〜中学卒業までのサイズで、カラーは6種類。

 

 
 
 
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90年代のストリートスタイル、ブランドのルーツであるニューヨークのストリートバスケットボールと結びついたデザイン。大人用のシューズと同様、生体力学的に女の子の足の形にフィットするように設計されていて、安定性と耐久性がありお手入れも簡単です。

 

Moolah Kicksのブランドアンバサダーであり、WNBA(女子プロバスケットボールリーグ)選手であるコートニー・ウィリアムズも「Press Breakは女の子たちのために作られていて、箱から出してすぐに快適にプレイできるような素材で作られたハイクオリティのシューズ」と紹介しています。

 

この「女性のためのバスケットボールシューズブランド」を作るというアイディアが生まれたのは、2019年当時、大学4年生だった創始者のナタリー・ホワイトさんが見たある広告への違和感からでした。

 

その広告への違和感とは、WNBAのトップ選手が、NBAの選手の名前が付けられたシューズを宣伝していたこと。

 

その時にナタリーさんは「アメリカでバスケットボールは、女性が多くプレイしているスポーツの一つなのに、女性は自分のシューズを持たずに男性用を宣伝している。この状況を変えなくてはいけない!」と思ったそうです。

 

 
 
 
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創始者のナタリー・ホワイトさん

 

前述の通り、女性の足は男性の足と比べてアーチが高く、足幅とかかとが細く、側面が浅いという特徴があるにも関わらず、ナタリーさんの調査では、ナイキ、アンダーアーマー、アディダスなどの大手ブランドが女性用と表記して作っているモデルの多くが、男性の足の型に基づいて作られており、女性らしい配色で偽装されて売られていると言います。

 

また、ナタリーさんがボストン大学の女子バスケットボールクラブでチームマネージャーをしていた時に、女子選手が男性用に作られたシューズを慣らすのに時間がかかったり、シューズを履き慣らした後でも、女子選手は足がシューズ内で滑り、足の甲と側面に灼熱感を感じるといった声を聞いたりと、女子選手がシューズで苦労してきたのを見てきたそうです。

 

専門家によると、女性の体は男性の体とは異なり、靴を足にフィットさせることは怪我の軽減に役立つだけでなく、女性の生体力学的および解剖学的特徴に合わせた靴を作ることで安定性を高め、選手にかかる力を軽減できる可能性があるとのこと。

 

Moolah Kicksのシューズは、何より女性の足の特徴に合うように、かつ、ハイクオリティの素材やテクノロジーを用いて作られているため、安定性や耐久性が備わっています。

 

 
 
 
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当初、ナタリーさんが「女性のためのバスケットボールシューズブランド」を作るというアイディアを投資家に提案した時、「野心的過ぎる」「コストが高すぎる」「女性専用バスケットボールシューズの存続可能なマーケットがあるのか疑問を持つ」という冷ややかな声があったそうです。

 

そんな声にも負けず、2020年にナタリーさんは、これまでに一緒にバスケをしたすべてのチームメイト、約40人を集めて、クラウドファンディングビデオキャンペーンを行いました。そしてなんと、ビデオの公開から数週間以内に、Moolah Kicksは前売りで30,000ドル(約450万円)以上の収益を上げます。そこからMoolah Kicksは、億万長者の投資家やスポーツグッズ会社の目に留まり、現在ではアメリカ全土で約500店舗がMoolah Kicksのシューズを扱うようになりました。

 

 
 
 
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また、子供の時からニューヨークでバスケをしてきたナタリーさんは、男子バスケットボールと女子バスケットボールの男女格差をよく目にしたとも語っています。

 

例えば、バスケットボールシューズを買う時には、男性用もしくは子供用コーナーで買わなければならなかったこと。そして、隣でプレイしている男子バスケチームを見ると、女子チームが得ている練習内容、コーチ、リソースとは違うということ。

 

ナタリーさんが小学校5年生の時に行われた、AAU(アマチュアアスレチック協会)トーナメントへのエントリー料金が、男子チームより女子チームの方が安かったこと。

 

そして冒頭でも触れた、2019年に当時大学生のナタリーさんが目にしたシューズの広告。

 

こういった一見ネガティブとも思える経験がナタリーさんがMoolah Kicksを誕生させるための布石となっていることに気づきます。

 

 
 
 
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2021年秋から2022年秋にかけては売上高が112%増加し、店舗の流通量も221%増加。2022年は購入が増えたため、​売上高が2倍に増加しており、人気は今も高まり続けるMoolah Kicks。

 

この度誕生した女の子サイズのバスケットボールシューズ、Press Breakの誕生により、ナタリーさんは、WNBAのコートニー・ウィリアムズ選手を通じて、若い選手からNCAA(全米大学体育協会)に至るまで、女子バスケットボールにおけるブランドの影響力を拡大したいと考えているそうです。

 

現在、若干25歳のナタリーさんが、若い女の子たちのための将来を考えて情熱を持って製品作りをしているMoolah Kicks。とても感銘を受けましたし、サポートしたいなと思いました。バスケットボールシューズだけでなく、男女の体型や構造の違いを考慮し、怪我を防止するため、安全のため、女性用を作る必要があるのに作られていないものがまだまだあるのかもしれません。

 

(参考)

Moolah Kicks

Women’s basketball shoes often aren’t made for women. This company is changing that. – Washington Post

How an ad for Nike shoes inspired this 24-year-old to create the first women’s basketball sneaker – New York Post

Women’s-Specific Basketball Sneaker Brand Moolah Kicks Launches Girls-Specific Design – Forbes

Changing the game of performance footwear for women ballers everywhere. | Natalie White | TEDxBoston

23-Year-Old Entrepreneur Invented The ONLY Basketball Sneakers For Women! – Whistle

Moolah Kicks Product Video – DICK’S Sporting Goods

プロフィール
FIND IT. LOVE IT.
藤井さゆり
東京生まれ、2008年ニューヨークに移住。 公益法人に勤務の傍ら、仲間内で企画したクラブイベントのフライヤーデザインをしたことから、デザインの面白さに目覚め転職。 転職後は、都内商業施設のウェブサイトの販促用ページ企画と取材、ライティングを経験。 ニューヨーク移住後は、ウェブマーケティングを企業にて経験、ウェブデザインをフリーランスで行う。 現在は、日本の着物をインスパイアしたオリジナルTシャツブランド「Foxy Lilly」のオーナー兼デザイナーを務める。
https://lnk.bio/foxylilly
Instagram: @foxylilly

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