鑑定士と顔のない依頼人

ミニ・シネマ・パラダイスVol.19
ミニ・シネマ・パラダイス 市川桂

年末年始と映画を観るのをサボッて、 映画を観るにはナマった身体で、何を観ようかと、スマホで検索。 私は映画は好きなのですが、映画の情報を収集するのはあまり得意でなく、「映画が観たいな~」と思ったときにはじめて検索。 近くで良い時間でやってそうな中から公式サイトを観たりして、直感で行く映画を決めることが多いです。 中には日々サイトやアプリや情報誌やらで映画情報を敏感に集めている人もいると思いますが、私の場合は「映画を観たい気持ち」が沸き起こった時に、「その時の気分に合ったもの」があるのが肝となっているかと思います。

ちなみに、レンタル店でも必ず4本借りることにしていて、 1本目、ミニシアター系映画(じっくり観たいもの) 2本目も、ミニシアター系映画 3本目、ハリウッド映画(お気楽に観れるもの) 4本目、アニメやドキュメンタリー(変り種) といった具合に、食べ合わせを考えるが如く借ります。 そうして1週間の中で、その時の気分に合わせてチョイス。 もちろん気分が乗らないと2本くらい観ないまま返すことも。 この方式でクロエ・グレース・モレッツ主演の「キック・アス」を私は観ないまま5回返し、6回目にして始めて観ることができました・・・。笑

さて、今回はタイトルに惹かれ 「鑑定士と顔のない依頼人」をチョイス。 久々に新宿武蔵野館に行きたいなぁという思いもありました。

新宿武蔵野館は自由席になっているため、上映ぎりぎりに入ったためかなり前の席に。 休日の昼間、お客さんの入りは結構あり、サラリーマン風の一人客からカップル、お年寄りまで幅広い層まで、8割方埋まっていました。

映画はイタリアが舞台。 冒頭は、今は住む人がいなくなった洋館に数名の人たちが家具や美術品を鑑定している光景から始まります。 一流の鑑定士である初老の男性、バージル・オールドマンは、一方で美術品オークションでハンマーを叩く著名なオークショニアでもあります。 常に高級スーツや手袋を手にはめ、一流のレストランで食事をし、豪邸に住んでいる彼は、誰もがうらやむ成功者。 しかし本来の姿は、生涯独身を貫き、女性の肖像画を大量に集め(異常なくらい)、生きている女性を理解し、愛することのできない孤独な人間としても描かれています。

そんな彼のところに 「自宅にある、両親の遺品である家具や美術品を鑑定して欲しい」と、 クレアという名の女性から電話がかかります。 しかし依頼者である彼女は、鑑定士であるバージルに色々と理由を付けては、直接会うことを避けます。 得体の知れない依頼者に対して、不信感を募らせていたころ、 実は彼女は心的障害があり、広い場所をひどく怖がり、 自宅の隠し部屋に隠れていて、10年以上人と会うことを避けているということが発覚します。 隠し部屋を挟んで二人は次第に会話をし、バージルには初めて女性を愛しいと思う感情がわいてくるのです。 そして彼女の顔を観てみたい、という強い願望が芽生えてきます。 前編を通して、鑑定のための美術品が登場し、舞台を彩ります。 劇中、数多くの美女の肖像画を観ることになるのですが、果たして隠し部屋にいるクレアの容貌は・・・。 (ネタバレになるのでこれ以降は自粛しますね)

この映画はラブストーリーでなく、謎めいた依頼人の不思議さや不信感ともいえる感情が、全体にどことなく尾を引いています。 そしてクライマックスを迎えると、その不信感の意味を知ることになります。 最後はもう胸いっぱいになりまして、複雑な涙が流れることになります。

ラブストーリーであり、謎めいたサスペンスでもあり、 孤独なヒューマンドラマも盛り込まれていて、非常に観ごたえのある一本で、 映画館を出るころには、ナマッた身体もスッキリ。 次は何を観ようかと考えながら帰ることとなりました。

鑑定士と顔のない依頼人

鑑定士と顔のない依頼人
監督 :ジュゼッペ・トルナトーレ
製作年 :2013年
製作国 :イタリア
配給 :ギャガ
URL :http://kanteishi.gaga.ne.jp/

Profile of 市川 桂

市川桂

美術系大学で、自ら映像制作を中心にものづくりを行い、ものづくりの苦労や感動を体験してきました。今は株式会社フェローズにてクリエイティブ業界、特にWEB&グラフィック業界専門のエージェントをしています。 映画鑑賞は、大学時代は年間200~300本ほど、社会人になった現在は年間100本を観るのを目標にしています。

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