“エイドフュジコン”って? @Swedenborg House
地下鉄ホルボーン駅を出て最初の角を曲がり西へ進むとSwedenborg Houseと書かれた美しい出窓のあるジョージアンハウスが見えてきます。冬を装った人々が吸い込まれていくのが見え、後に続きます。
入った最初の部屋は書店になっていてその先はギャラリー。
美しいターコイズのタイルの貼られた階段を上っていくとそこは書庫。閲覧もできます。
ありました!日本語訳の本! 『天界と地獄』は40ヶ国語に翻訳されたというエマニエル・スヴェーデンボルグ(1688 – 1772)の代表的書籍。あらゆる自然科学に精通する学者でありながら、啓示を受け、霊界を体験したという18世紀スウェーデンの科学者で、思想家のスヴェーデンボルグ。彼の著書は後の作家や思想家に多大な影響を与えています。今回はスヴェーデンボルグのミュージアム、ギャラリー、書店、イベントホールをもつ、スヴェーデンボルグ・ハウスからお伝えします。
ホールはすでに満席。訪れたのはGillian McIverのトークイベント“Profane and Sacred City”。映像作家のマクアイヴァーは現在スヴェーデンボルグ・ハウスでアーチスト・イン・レジデンスを行なっていて、このトークではそのレジデンシィの企画に関わっていく画家、彫刻家、イラストレーター、写真家、映像作家、俳優、音楽家が明かされていきます。
レジデンシィの最終構想は壮大で、スヴェーデンボルグと画家で舞台美術家、機械劇場の発明家、フィリップ・ジェイムズ・ド・ラウザーバーグ(1740 -1812)の交流に焦点を当てた舞台を様々な美術家のコラボレーションで製作し、実際の劇場で上演するというもの。スヴェーデンボルグとラウザーバーグが出会ったという記述は残っていないものの、マクアイヴァーはラウザーバーグによって描かれた晩年のスヴェーデンボルグの肖像画を書庫から発掘しています。ラウザーバーグの機械劇場とは”エイドフュジコン”と呼ばれる1.8 × 2.4 mの大きさのミニチュア劇場で、“自然界の様々な現象を、動く絵と照明を使って模倣する”というもの。繊細な雲の移り変わりや星空などを表現する幻灯用の透かしガラス絵、当時発明されたばかりのアルガン灯を用いるなど、人々を驚かせ魅了したエイドフュジコン。しかし、原画製作から全て手作業のため、製作コストに見合う売り上げが得られず、また次の作品を先急ぐ観客の要求にスピードが追いつかないのもあって、中止に追い込まれたという幻のミニチュア劇場。マクアイヴァーはラウザーバーグのエイドフュジコンが美術と映画の”失われた環“であると考えています。
実はこの夜のイヴェントでは実物大の‘エイドフュジコン’を現代に蘇らせたRobert Poulterが特別に招かれ、ミニチュアサイズの‘エイドフュジコン’の公演が行われるというサプライズ!が用意されていました。
テーブルの上に現れた木製の小さな黒塗りの劇場。「よく見たい人は前に来て床に座って!」というポールターの声に促され、図々しくも早速最前席に座り込みます。
主役はラウザーバーグと友人の英国画家トマス・ゲインズバラ。青空の下を二人は仲良く旅をしている様子。ところが二人が喧嘩を始めるとなんだか雲ゆきも怪しくなってきます。
突然背後で火山が噴火!二人が旅しているのはイタリア?頻繁に噴火を繰り返しているヨーロッパ最大の活火山、エトナ火山でしょうか。遠吠えをしていた狼もいなくなりました。
二人は洞窟へ逃げ込みます。洞窟の色も次第にピンクからオレンジへ。
やがて現れたのは地獄の都市、伏魔殿(パンデモニウム)。
そこには炎の池の岸で堕天使たちと指揮をとるサタンの姿が。どうやらジョン・ミルトンの『失楽園』がモデルになっているようです。
慌てて町へ逃げ戻った二人。でもここも火の海!
二人が船で海へ乗り出すと、今度は軍艦が次々と現れ、壮大なバトルが始まります。
音響に合わせ、スライド絵画と光を巧みに操るポールターの姿はまさに神のよう。ポールターをチームに加え、エイドフュジコンを取り入れたマクアイヴァーの最終舞台はどんな舞台になるのか。今から楽しみです。
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