サンフランシスコのスタートアップが開発、服に着ける新しいAIウェアラブルデバイス「Ai Pin」

Vol. 56
FIND IT. LOVE IT.
Sayuri Fujii
藤井さゆり

サンフランシスコを拠点にするスタートアップHumane(ヒューメイン)社が、昨年11月に発表したAIウェアラブルデバイスAi Pin

 

 

パリのファッションウィークでナオミ・キャンベルがAi Pinを着けてランウェイを歩いたことでも注目されました。

 

@voguemagazine Blink and you may have missed the one and only #Naomi opening #Coperni’s spring 2024 runway during #ParisFashionWeek ♬ original sound – Vogue

 

現在は予約受付中で、発表以降、様々なメディアで紹介されており、Humane社は今年の3月にAi Pinを出荷開始することを決定しています。

 

価格は、充電器などのアクセサリーを含んで699ドル(約99,200円)〜、通話やショートメッセージ、データ通信などのためのサブスクリプションは月額24ドル(約3,400円)。

 

Ai Pinは、手のジェスチャーや音声によるチャットで操作することで、AIアシスタントとのやりとりが可能。正方形のコンピュータ部分とバッテリーブースターで構成されていて、コンピュータ部分とバッテリーブースターがマグネットでくっつくようになっており、それらを服の表面と裏面で挟んで取り付ける形になっています。

 

本体のサイズは、縦47.5mm、横45.5mm、厚さ14.98mmで重さは34.2g。AirPodsのケースと同じくらいのサイズ・重量です。

 

 
 
 
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Ai PinはOpenAI(GPT-4)で動作し、Qualcomm Snapdragonプロセッサ、13メガピクセルカメラ、マイク、スピーカー内臓、Bluetooth接続が含まれていて、友人に電話したり、口頭でメールの返信、写真撮影、音楽配信サービス「TIDAL(タイダル)」を利用した音楽の再生、​​自分の声のイントネーションで外国語のリアルタイムでの通訳をしたり、デバイスのカメラを通して食品の栄養価を質問することができます。

 

アプリは持たず、独自のOSで動作し、アプリの集合体として動作するのではなく、必要に応じてさまざまなAIやツールを呼び出せる仕組みです。​​

 

 

 Ai Pinにはスクリーンがなく、必要に応じて手に投影できるレーザーディスプレイが搭載されています。手のひらがUI(ユーザーインターフェース)になり、時間、日付、天候、現在再生している音楽のタイトルなどを表示できます。手をグーの形にするとホームスクリーンに戻ったり、人差し指と親指でジェスチャーをすると手のひらに映し出されるディスプレイが切り替わります。

 

 

写真撮影の際には、カメラに映っていることに気づいていない人々が無断で撮影される可能性があるという懸念を払拭するため、デバイスの使用中を示す「トラストライト」と呼ばれるものが組み込まれています。

 

また、マイクは常にオンではなく、Amazon EchoやGoogle Homeスマートスピーカーのように「OKグーグル」などのウェイクワードがない代わりに、デバイスを手動でアクティブにする必要があります。

 

 
 
 
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このAi Pinを開発した、Humane社の創業者であるイムラン・チャウドリさんとベセニー・ボンジョルノさん夫婦は、Appleでハードウェア設計とソフトウェアエンジニアリングに長年携わった後、2018年に同社を設立しました。

 

 
 
 
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共同創業者のイムラン・チャウドリさんがTEDで講演した時の様子。

 

二人は、スマートグラスやARヘッドセットなどのウェアラブルデバイスが人とのつながりを妨げるものだと考えており、Ai Pinは機能は同じでありながらも、ヘッドセットのように髪型を損なうことなく、一日中快適に着用できるものであることを目的としているようです。

 

 
 
 
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上記は、MetaのVRヘッドセットQuest3。

 

Humane社は、これまでに2億3000万ドルの資金を調達しており、その評価額は8億5000万ドルと伝えられています。 Humaneの投資家には、OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏が含まれています。

   

各メディアでは新しいAIデバイスということで注目をされていますが、どうなのでしょうか。

 

以前に本コラムで紹介した、トップテックガジェットレビュワーの​​マルケス・ブラウンリーさんは自身のポッドキャストでこのような発言をしています。

 

Ai Pinを使ったことはありませんが、発表の動画を見た限りでは、私が予想しているものと、実際に手にするだろうものとは、大きなあるいは小さなギャップがあると予想します。

 

手のひらをプロジェクターとして置くのは素晴らしいUIになるとは思えません。プロジェクターとして映し出すために手の位置はいつも正しい位置に保つ必要があるのか、服の素材によってAi Pinが垂れ下がったりしないのか、人によって肌の色が違う手を認識できるのか、手を持っていない人の場合などアクセシビリティの面はどうなのか、という疑問があります。

 

AIアシスタントを周囲に置いておく、というアイディアは良いと思いますが、技術の面でまだ十分じゃない、追いついていないのではないか、と思います。

 

マルケスさんの指摘は最もだと思います。ただ一つ、「人によって肌の色が違う手を認識できるのか」の部分については、実際に、創始者の二人の肌の色が違うということから考えても、そこを考慮せずにAi Pinを開発することはないと思います。

 

 
 
 
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次は、事業主・中小企業向けの月刊誌​​Inc.のウェブ記事より。

 

Humane社が伝えているのは、スマートフォンの使用を必要としない、より良い世界があるということ。ただし、Ai Pinの機能はiPhoneですでに実行できることの集まりにすぎず、画面がないだけです。

 

Humane社は、基本的に画面のないスマートフォンとSiriの改良版を作ったという考えで人々に売り込んでいます。

 

Ai Pinが行うほぼすべてのことができて、本当に優れているものは何か知っていますか?それは、アップルウォッチです。利便性や機能性を犠牲にすることなく、iPhoneとのやり取りを減らすことができるため、私は常にこれを着けています。アップルウォッチに質問したり、通知を表示したり、メッセージを送信したり、電話をかけたりすること、これら全てをiPhoneなしで行うことができます。

 

アップルウォッチを引き合いに出した、結構辛口な意見です。「画面のないスマートフォンとSiriの改良版」という表現はある意味合っているかもしれません。ですが、Ai Pinは基本的にVRヘッドセットやスマホのスクリーンからの脱却を目的として開発されたデバイスで、スマホやアップルウォッチでできない機能も持ち合わせていますから、「画面のないスマートフォン」と言ってしまうのは少し乱暴な気がします。

 

 
 
 
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カラーはEclipse​​、Lunar​​、Equinoxの3種類。上記は​​Equinoxで、LunarとEquinoxはEclipseに比べて100ドル高く799ドルで販売。

 

いかがでしたでしょうか。他にも、Humane社によるAi Pinの発表動画を見た様々な人々からのレビューを見ましたが、割と辛辣なものが多かったです。

 

個人的には、小さくて服に取り付けるという意味でも扱いやすそうですし、デザインも服のコーディネートに邪魔しない印象ですし、機能的にも便利だなと思います。自分の声のイントネーションでリアルタイムに通訳してくれるという点に未来を感じました。

 

少なくとも現時点で、Ai Pinはスマホに代わるものではないと思いますが、今後、AIの精度がより高くなり、さらに技術が進んで、バージョンアップされるものが出るのかどうか、楽しみに待ちたいと思います。

 

(参考)

This is the Humane Ai Pin – humane – YouTube

https://hu.ma.ne/aipin

Humane Wants Its New Ai Pin to Liberate You From Your Phone Screen – Time

Humane Is Running a Commercial for Its AI Pin, and It Highlights Everything Wrong With the IdeaThe story you tell is everything. – Inc.

Humane’s Ai Pin is a $700 Smartphone Alternative You Wear All Day – WIRED

Exclusive leak: all the details about Humane’s AI Pin, which costs $699 and has OpenAI integration – The Verge

Humane AI Pin’s Laser Ink Display Is a True Palm Pilot – Design Milk

プロフィール
FIND IT. LOVE IT.
藤井さゆり
東京生まれ、2008年ニューヨークに移住。 公益法人に勤務の傍ら、仲間内で企画したクラブイベントのフライヤーデザインをしたことから、デザインの面白さに目覚め転職。 転職後は、都内商業施設のウェブサイトの販促用ページ企画と取材、ライティングを経験。 ニューヨーク移住後は、ウェブマーケティングを企業にて経験、ウェブデザインをフリーランスで行う。 現在は、日本の着物をインスパイアしたオリジナルTシャツブランド「Foxy Lilly」のオーナー兼デザイナーを務める。
https://lnk.bio/foxylilly
Instagram: @foxylilly

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