パラダイス・愛

ミニ・シネマ・パラダイスVol.21
ミニ・シネマ・パラダイス 市川桂

前回の続き。に、なるのでしょうか。 「パラダイス三部作」の前回「神」編から、今回は「愛」編です。 よくよく調べたら、順序としては「愛」がはじめで、「神」がふたつめ、最後が「希望」らしいのですが、もう観てしまったので、そこは気にせず。でも人物や内容は少し繋がっています。 「神」編では、イエス・キリストへ異常な愛を向けるアンナ。 「愛」編では、アフリカで現地の青年達との愛を夢見る、アンナの妹・テレサ。 「希望」編では、テレサの娘・メラニーがダイエット合宿で出会った父親ほど離れた男性に恋をします。

前回、たっぷり「神」編を堪能したはずなのですが、その後、もっと観たいという気持ちが、ふつふつと湧いてきて・・・。 「神」編の続きでも良いし・・・どの作品でもいいのですが、あの何とも言えない空気感と、魅力的なキャラクター(?)たちにまた会いたいような、そんな気持ちです。 これは三部作だから、三部みないと映画が終わった気になれず、ずっとモヤモヤしてしまうのだろう!ということで、そそくさとユーロ・スペースに観に行きました。

「愛」編は、シングルマザー(おそらく)のテレサが主役。 ひと時の休暇にケニア旅行へ。娘のメラニーは姉のアンナに預けていきます。 太陽がさんさんと輝き、美しい海。 高級ホテルのバルコニーには野生の可愛い猿がやってきます。 ケニアの観光地は、貧富の差が歴然で、白人たちがビーチでくつろぎ、縄がひかれた境界線の向こうでは黒人の売り子たちが立ちんぼして、強引にお土産を売っています。

「神」編でも感じたのですが、この監督は人の「肉体」について感心が強そうです。 いわゆる娯楽映画だと、役者は鍛えられ手入れされた、もしくは補正された清潔感のある美しい体をしています。 それがたとえ太ったおじさん役でも、どこか肌はツルッとしていて、現実的な不快感までは与えないと思います。 が、「愛」編は海辺のビーチが舞台で、まるまる太った水着姿の白人たちが、ウッドチェアで横一直線に並ぶ姿は、さながらショーウィンドウの豚肉...。 「こんな汚い体にはなりたくない!!」と反射的に思うほど、カメラはあまり直視したくない、太った体、シミだらけシワだらけの体を映しだしてくれます。

主人公のテレサも中年の自称・太った女です。 でも愛に飢えていて、贅肉の下にある自分の「心」を見て欲しいと願っています。 お金目的で近づいてくるケニア人男性たちと何度も肉体関係を持っては、そこに愛がないことに気づいて、傷ついて、でもまた本当の愛があるんじゃないか?と次なる男性にチャレンジしていきます。 観ているこちらも、テレサを通して「次に出会う人はもしかしたら・・・」と期待を持ってみたり、「でもここに本当の愛があるわけない」と思ってみたりを繰り返します。

全編に渡って、テレサ含め、脂肪多めな女性の裸体が見れるのですが、 映画館にいた10数名の観客たち(特に男性)は、どう感じているのか気になって仕方ありません。 特に今回は男女の色恋をテーマにしているため、男女間で見終わった後の感想も分かれてくるかもしれません。 ああ・・・前回同様、誰かと語らいたいと思いつつ、寂しく映画館を後に。 観終わった後はやっぱり、まだまだ続きが見たい気持ちでいっぱいでモヤモヤしております。 「希望」編をみて、ようやくこの気持ちは終息できるはずです・・・。

パラダイス:愛

パラダイス:愛
監督:ウルリヒ・ザイドル
出演: マルガレーテ・ティーゼル、ピーター・カズング
オーストリア・ドイツ・フランス/2012年/120分/R15+
配給=ユーロスペース
http://www.paradise3.jp

Profile of 市川 桂

市川桂

美術系大学で、自ら映像制作を中心にものづくりを行い、ものづくりの苦労や感動を体験してきました。今は株式会社フェローズにてクリエイティブ業界、特にWEB&グラフィック業界専門のエージェントをしています。 映画鑑賞は、大学時代は年間200~300本ほど、社会人になった現在は年間100本を観るのを目標にしています。

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