美しさは誰のため? @Welcome Collection
淡いピンクのカーテンを開けるとそこには1世紀に造られたヴィーナス、そしてイドリノの彫像のレプリカ。16世紀に発掘されたイドリノの彫像は、当時、ローマのディナーテーブルのオイルランプを抱えていたという説が有力。こんな像がテーブル脇に立っていたらなんだか落ちついてご飯できない気がしますよね。今回は第11回で紹介のウェルカム•コレクションから企画展、「The Cult of Beauty 」をお伝えします。200点以上!の古代から現代にいたる歴史的資料と美術作品の展示が並ぶ中の一部の紹介となります。
この顔に見覚えあり?モデルは、チューダー王朝最後の君主となったエリザベス1世(1533 – 1603)。25歳で即位、生涯独身を通し、人気の高かった女王は死後も理想化され描かれました。「ヴァニタス」とはラテン語で「空しさ」を意味し、16〜17世紀ヨーロッパで流行した美術ジャンル。富や美と死をモチーフに、世の虚栄の儚さを表現するのが特徴。なんだか鎌倉から江戸時代にかけて美女をモデルに死体が朽ちていく経過を描いた仏教絵画、九相図を彷彿させます。
人種、ジェンダーフリーの美しさとは?裸体のダンサーをみていると女性から男性へ、そしてまた別の女性へとゆっくり変化していきます。デンマークの作家、Cecilie Waagner Falkenstrøm が、10ヶ月間に渡り、様々な人の形と動きをAIに学ばせ作り上げたアニメーション作品。
パントン(PANTONE)といえば、広くデザイン業界で使用されている色見本帳のひとつ。印刷、プロダクト製造工程の色指定に使用されています。現在、その色数は2390色に上るそう。ブラジル人作家のAngélica Dassはこの色見本(背景部)と世界の様々な人種、年齢層の人々の肌の色を一致させる、ポートレイト写真を取り続けるプロジェクト「Humanæ」を展開。プロジェクトを通して、スキンカラーをもとに行われる人種差別に抗議しています。ちなみに彼女が2012年から続けているこのインスタレーションには必ず彼女の祖父母の写真が紛れているそう。
化粧軟膏パレット(左上)、顔料を磨り潰す亀型のオブジェ(コンパクトミラーのようにも見えますね)、女性のレリーフが刻まれたアイライナーホルダーなど、全て紀元前に使われていたもの。中でも化粧軟膏パレットは約4000年前まで歴史を遡ります。
こちらは、メイクアップのお試しコーナー。でもよくみれば、滑りにくい角の四角い細身のブラシ、奇妙な持ち手の歯ブラシ型のブラシなど、なんかちょっと普通のものと違う?2018年、美術家のKimberley Burrowsは、完全に視力を失います。最初の6ヶ月は落ち込んでしまい、とてもメイクをする気にはならなかったそう。しかし自身を鼓舞するため、メイクを再開しようとしたところ、その使い勝手の悪さを実感。そこで、目の不自由な人のためのメイク道具をデザインすることに。そしてそのデザインがこちら。手で握った感触を重視しています。
薬草(ハーブ)の野生的な香りがプンプンの漂う部屋へ。壁にはずらりと薬瓶の並ぶルネッサンス期の薬舗のイメージ。天井から吊るされていたのは、謎めいた物体、植物や液体の入った吹きガラスで作られたフラスコ状のガラス瓶、網に収められた目玉のようなゴルフボール大のソープ。それらが着地している有機的なマーブル模様のタイルの貼られたテーブル。このRenaissance Goo x Baum & Leahyのインスタレーションが不思議な香りの発信源のようす。
これらは実はルネッサンス期イタリアのコスメテック・レシピ本 (1562年版) を元につくられたもの。フラスコに入っているのはローズウォーター化粧水、天然樹脂を使った日焼け止め、羊の脂肪と卵の白身にマスティック・ガム(樹液)の香りを加えたアンチリンクルクリーム!などの美容製品。なんだか、まゆつば物? ところが、例えばこのアンチリンクルクリームを分析してみると、抗酸化物質やビタミンEなどがちゃんと含まれており、現代のスキンケア製品とさほど違いがないことがわかっています。
当時これらを作っていたのは実は、キッチン・サイエンティストの女性たち。薬草の知識やレシピは母から娘と受け継がれ、中でも商魂たくましい女性たちはそれらを売り出し、レシピ本を出版、ビジネスへと発達させます。実際、16世紀のヨーロッパにおいて、動植物をもとに作られる美容と家庭薬のレシピ本はベストセラーとなり、自らの美を追求する多くの女性たちが、手作りの美容品や薬で生計を立てていたのです。
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