ダーク・ブラッド
- ミニ・シネマ・パラダイスVol.23
- ミニ・シネマ・パラダイス 市川桂
映画が好きだと、いろいろと待ちわびて、 ドキドキワクワクした気持ちになれます。 「あの映画を撮った監督の最新作だ」とか、 「予告編で気になっていた映画の公開日はもう直ぐだ!」とか。
今回はその最たるもので、 ずっとずっと待ち続けていたファンたちが世界中に大勢います。 もちろん私もその一人なので、 お馴染みの渋谷・ユーロスペースの席に座り、 映画が始まるその瞬間まで、ドキドキワクワク・・・ 喜びいっぱいの気持ちでした。
「ダーク・ブラッド」は、俳優・リヴァー・フェニックスの遺作。 撮影期間を11日残して、突如、リヴァーはこの世を去ります。 映画は未完のまま20数年という時が経ちますが、 フィルムの権利問題など紆余曲折を乗り越え、 監督が強い思いに駆られてこの映画を完成させたのが2012年。 そして、2014年春、待ちにまった日本公開なのです!
1993年当時、同世代のジョニー・デップやキアヌ・リーブスより将来を期待されていた23歳。 映画「スタンドバイミー」の主人公の親友である 不良少年・クリスとして、観たことがある人も多いはず。 178cmの高すぎない身長、スラッとした立ち姿、少し子供っぽさも残しつつ、 金髪に青い瞳、ツンと上がった鼻。(イケメンです・・・) カリスマ的人気と、とても雰囲気のある強い眼差しをもった俳優。 そんな彼は23歳で死んでしまうのです。
11日分の足りないシーンは、監督のナレーションでストーリーを補足。 『彼の最後の演技をこの世に送り出してあげたい』と、 リヴァーをひたすら堪能する作品となっております。
そんなリヴァーの気になる役どころ、ストーリーは・・・
人気に陰りが出てきたハリウッド俳優の夫婦は、 気分を変えるためにアメリカの砂漠を車で横断する旅行中。 エンストで何もない荒野で足止めをくらいます。 命からがら見つけた小屋には、 ”ボーイ”と呼ばれるネイティブアメリカンの血を引く、 不思議な青年(リヴァー)が暮らしていました。 政府によって近くで行われていた核実験の放射能汚染で妻に先立たれ、 ボーイは「この世の終わり」を待ちわび、孤独を抱えているのです。 親切だけれども謎めいていて、狂気を秘めている。 夫人はだんだん彼の不思議な魅力に惹かれていき、 また反対に夫は彼を恐れるようになります。 荒野から逃げ出すすべがなく彼に従うしかない夫婦は、 ボーイにその命を支配され、踊らされていきます。
ロケーションが素晴らしく、緑のほとんどないダイナミッックな大地。 その小高い丘にあるボーイの小屋は荒屋には間違いないのですが、 独特な作りで、 風が吹くと飾られた楽器(といっても鉄パイプなどを切りそろえた手作りのもの)が 不気味な音色を立てます。 荒野を吹きすさぶ風の音と混じり、 何かが囁くような、また人が唸っているような音に聞こえてきます。
不気味さと寂しさを抱えた複雑な役どころですが、 少しやつれ気味の精悍な顔立ちをしたリヴァーが、魅力的な人物へと昇華させていて、 改めて彼の才能を見せつけられて、ファンはそれだけで胸がいっぱいな気持ちです・・・。 ボーイの持つ狂気は、妻に先立たれたのち、生と死を掌握したいという感情であり、 その”死”の部分が、本当に死んでしまったリヴァー本人とも重なっていきます。
リヴァーの死は、突然のものだったそうです。 死因については諸説あるので控えますが、 撮影の合間のわずかな休みの出来事。 親しい友人、恋人、兄弟と過ごし、 ジョニー・デップが経営するライブハウスの出口で、 突然倒れてしまい、病院に搬送されるもあっという間に死んでしまいました。
観客は、今再び甦ったリヴァーに出会います。 一つ一つの所作が印象的で、 映画を観終わった後、なんどもその映像が頭の中でリフレインされます。 私がもっとも印象的だったのは、 夫人に対するボーイのアイコンタクト。 青い瞳で、夫人に対する喜怒哀楽や、愛しい感情が手に取るように表現されています。
映画は公開されましたが、この映画は未完であることは間違いなく、 彼が永遠にこの映画の中で息づいているような貴重な作品となりました。 リヴァーのファンの方も、 リヴァーを知らなかった方も、 ぜひ甦ったリヴァーに会いに行っていただきたいです。
Profile of 市川 桂
美術系大学で、自ら映像制作を中心にものづくりを行い、ものづくりの苦労や感動を体験してきました。今は株式会社フェローズにてクリエイティブ業界、特にWEB&グラフィック業界専門のエージェントをしています。 映画鑑賞は、大学時代は年間200~300本ほど、社会人になった現在は年間100本を観るのを目標にしています。