長靴を履いていこう!@Yorkshire Sculpture Park 前編
ロンドンから北へ電車で2時間程、そこからさらにバスで30分揺られ、やってきたのは北イングランド、ヨークシャー州にあるヨークシャースカルプチャーパーク(YSP)。1977年に英国初の野外彫刻庭園として開園、500エーカー(東京ドーム42個分!)の広大な自然の中に、彫刻が点在し、複数の屋内外ギャラリーを兼ね揃えます。今回はここYSPから、二回に分けてお伝えします。
早速メインギャラリーで行われている企画展、Erwin Wurmの個展「Trap of the Truth」をみてみましょう。まずは屋外展示から。
「なんでわからないの!」「違うんだって!」そんな声が聞こえてきそう。言い争っているのは3メートル程のウィンナーソーセージの巨人。「ウィンナー」はドイツ語で「ウィーンの~」を意味し、ワーム(Wurm)はウィンナーソーセージの発祥の地、オーストリアのウィーン出身。ウィンナーソーセージは身近な国民食として、彼の作品の題材によく現れます。
こちらは雲のような巨人?作品タイトルの「Hypnosis」とは催眠の意。催眠療法は、身体的にも精神的にもリラックスした、催眠状態で実施する心理療法の一つ。催眠療法を発達させ、無意識の発見、心理性的発達理論などを唱えたジークムント・フロイトはオーストリア出身の心理学者で精神科医。雲をつかむようであった心の病の紐を解き、精神分析学や心理学の基礎を築きました。
「Kastenmann」はドイツ語で「箱男」の意。5.5メートルの巨大な箱男。そこに顔はなく、ワームが第二の皮膚と呼ぶ、衣類のぴったりと張り付いた箱を腰まで被っています。「箱男」といえば箱をかぶり、小さな穴から辺りを覗き見しながら生活する男の物語、安部公房の1973年作同名小説が真っ先に思い起こされます。どうやらこちらを原作に同氏の生誕100周年に合わせた実写映画が日本で公開されるようですね!
うちにもあります、冬の必需品であるオレンジ色のゴム製の湯たんぽ(Hot Water bottle)。靴を履いた4メートルある湯たんぽは丘の先を見つめているようです。包容力を感じさせる一方で、どっしりあたりを威圧するかのようなパワフルな存在感も感じさせていました。
旅行に出かけるのにウキウキしているのは本人だけじゃない?!等身大のアタッシュケース、スーツケースの軽快なステップにみている方も楽しくなります。
こちらはお出かけ?といった感じでしょか。おしゃれなバッグがヒールを履いています。作品の高さは5メートル程。
隕石でも落ちたかのようにぐっしゃりと潰されているのはメルセデス・ベンツ。メルセデスといえばドイツを代表する車ですが、名付けの親はダイムラー車のディーラーを経営していたオーストリアの大富豪エミール・イエリネックで、実は娘の名前からとった女性名なのだそう。何で一体潰されているのかのナゾを解くため、屋内のギャラリーへ入ってみます。
ありました!たくさんの潰された家や車!潰す重しになっていたのはソーセージ、野菜、果物!?
こちらはドイツの哲学者、マルティン・ハイデッガーの家がモデル。ああ無残にも巨大なバナナで潰されています。
デンマークのデザイナーテーブルから頭を出して、お酒を楽しんでいるのは、きゅうりではなくて、きゅうりの漬物のガーキン!「ガーキン」もまたオーストリアの国民食ということでワームが繰り返し使っているモチーフ。日本版だったら梅干しがちゃぶ台を抱えて日本酒をお猪口で一杯って感じかな?
さてこのキャンピングカー、何か変?よくみるとなんと人の手と足が穴からにょっきり!
体験型の彫刻?!こんな風にあちこちに穴があったりイラスト付きの指示が書いてあったりします。頭や足やお尻を穴や隙間に突っ込んだりして、まるで無邪気な子供の遊びのよう。通常だったら「そんなことしたら危ない!」と親に叱られそうなことばかり。そのほかにも、二脚用意されている椅子に、「またがって寝てみてください」とか、卓上ランプと机の間に「頭を突っ込んでみてください」などなど不可思議な指示がいっぱい。これらは実はワームが80年代から続けている、観客が彫刻になる「One Minute Sculpture」シリーズの一環。ワームは「1分っていっているけど、彫刻になるのは数秒でも構わないんだ。」といいます。彫刻を始めた当初は本当にお金がなかったから、身近にあるものだけを使って作品を作っていたというワーム。巨大彫刻が作れるようになった今でも初心と遊び心は忘れていないようです。
それでは次回は屋外に出て、さらに遠くへ足を伸ばしてみましょう!