長靴を履いていこう!@Yorkshire Sculpture Park 後編
屋外に出ると、カナダ雁が食事中。のどかです。この日は恒例のヘンリームーアの彫刻に寝そべる羊の姿は無し。
北西へ1キロちょっと歩いて、The Waston Galleryへ。
中に入ってみます。Jonathan Baldockの個展「Touch Wood」が開かれていました。
彫刻のモデルはスフィンクス? 人の面、獅子の体を持つ聖獣として知られるスフィンクスですが、フェルトで優しく包まれ、野草の描かれた姿は優しそうな好々爺のように見えます。
さて、この双頭の生き物は一体?
緑の舌や口からはシュルシュルと蔦が生えていて、植物のような眉毛を持っています。体も植物で覆われているようです。どうやらモデルがありそう。
モデルはこちら。500年前に彫られた、中世の教会、YSPからほど近いウェイクフィールド大聖堂にあるレリーフ彫刻の一つ。グリーンマンですね。
こちらはその反対側。リスみたいでなんだか可愛いです。精霊であり、人である植物と人間が混ざりあった奇妙な存在のグリーンマンは、森と大地の信仰として、キリスト教普及以前からヨーロッパにあった自然崇拝のシンボルでした。それはキリスト教の布教に利用され、教会建築に取り込まれていったのです。
お猿のようにお尻を丸出しにした人物像?こちらもウェイクフィールド大聖堂にある彫り物がモデル。こんなユーモアな彫刻が教会に?と目を疑ってしまいます。バルドックは今回の展示にあたって数ある大聖堂の彫刻の中から、スフィンクス、グリーンマンそしてこのお尻を出した人物像の3つを作品のモチーフに選びました。この像は、聖歌隊席の裏側の隠れた部分に小さく彫られていて、長い間大切にされてきたそう。但し、後のビクトリア朝時代にはなんとイチジクの葉の彫り物が股の間に貼り付けられてしまったのだとか。イチジクの葉は旧約聖書の創世記でアダムとイブが身体を隠すのに使われたことで知られています。
中央の幕の内側に入ってみます。四つの幕が円状に貼られ、それぞれが春、夏、秋、冬と四季をイメージしたもので、パッチワークのように縫い合わせられた布が、万華鏡の光のような輪の模様を描いています。中央には等身大の繭のように編まれた籠が設えられ、その顔部分は花になっていて仄かな香りが漂っています。
こちらもグリーンマン?でも手のついた体は鍋みたい?タイトルを見ると、「Becoming Plant (a Hop)」とあり、緑の部分はビールの原料で知られるホップの実にそっくり!体の部分がビール醸造の鍋だから、植物になるというより、ビールになるっていう感じ?この陶芸作品、顔の一面は彼の母親の顔、反対面は自身の顔をモデルにしているのだとか。さて舌を出しているのは彼の顔それとも?
バルドックは子供の頃から、母や乳母に裁縫や籠編みを学び、親しんできたそうです。作品づくりにおいて、陶芸を含め、何世代にも渡って昔から受け継がれてきたそういった実用的な工芸と自然との関わり合いを大切にしているといいます。中世の大聖堂の小さな木彫りの生き物たちが、まるで新たに芽吹いた草木のように、バルドックによって息を吹き返したようでした。
ギャラリーを出るともう帰りのバスの時間!まだ半分も公園を回ってないのに。この橋の向こうには森があって、野外彫刻がたくさんあるのですが。残念ながら今回はここまで。
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