映像2024.06.26

「右に出る者はいない左」

第106話
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター
Akira Kadota
門田 陽

九州で一番優秀なコピーライターと言っても過言ではない左俊幸くんと、先月今月二カ月続けて飲みにいきました。もっとも左くんはお酒は一口もやらない完全な下戸なので飲むのはもっぱら僕だけなのですが。彼とは彼がまだ学生の頃からの付き合い。はじめはその「左」という苗字の珍しさに惹かれました。全国に400人ほどしかいない珍しい姓だそうです。僕の苗字の「門田」もそんなに多くはないですが、それでも現在全国に25,800人もいるので「左」はかなり希少です。

その割に左姓の有名人は多い気がします。

まずは歌手で俳優の左とん平、続いては姉妹で名女優だった左幸子と左時枝、そして何といっても左卜全。卜全を「ぼくぜん」と読めるのは昭和生まれの証。「ズビズバー、パパパヤー♪」を知らない60オーバーは一人もいないはずです。なんなのでしょうか、ズビズバー、パパパヤーって。今でも強いワードだと思います。もし新しい学校のリーダーズとかがリバイバルさせたらきっと蘇るコトバです。

しかし、そんな卜全やとん平、幸子、時枝、
俊幸らをおさえ、圧倒的な力で彼の右に出る者はいない左が一人存在します。

1970年代、「水戸黄門(TBS系)」の再放送か「藤山寛美3600秒(テレビ朝日系)」だったか記憶が曖昧(ネットや諸々の資料を隈なく探すも見つけられませんでした涙)なのですが土曜日の午後のテレビ。半ドンで帰宅したあとに見た番組である人物がクローズアップされ、少年の僕はとても興味を覚えました。その人の名は左甚五郎。左一族のレジェンド、キングオブレフトと言い切ってもよいでしょう。ただそのとき甚五郎は出てこなくてニセ甚五郎の話でした。最後まで本物は現れず、かえってそれが子どもだった僕の心に強烈に残ったのだと思います。

それから数年後。左甚五郎との二度目の出会いは「まんが日本昔ばなし(TBS系)」でした。こちらはアーカイブが残っていたので(こういうときにネットは力を発揮しますね!)見た日付もしっかりわかります。1981年1月17日の土曜日の19時からの放送です。タイトルは「二人の甚五郎」。43年ぶりに見返しました。市原悦子のナレーションが懐かしくてすばらしいです。ただこの話でも主人公は甚五郎ではなく佐吉という若者。甚五郎は佐吉の彫った猫を一刀で眠らせた名人として登場する神的存在です。

左甚五郎は実在したのでしょうか。僕の地元福岡にある筥崎宮の楼門は国指定の重要文化財です。その扉は左甚五郎作となっていますが、楼門の建立は1594年です。色々な説がありますが甚五郎が生まれたのは1584年(1594年説もあり)なので、10歳で福岡に来て彫ったことになります。ちょっと無理があります。いま日本各地には甚五郎作として重宝されているものが100ほどあるのですが、その作られた年の幅は300年にも及ぶのでどんなに長寿でも超人でもありえないのです。そこがまた甚五郎の魅力なのかもしれません。

ふと僕は甚五郎の作を生で見たことがあるだろうかと考えました。ない気がします。彼の一番の代表作は先ほど「まんが日本昔ばなし」でも取り上げられた眠り猫。それは現在も日光東照宮にあるのです。これは行くしかないでしょう!東武浅草駅から特急スペーシアに乗って約2時間で東武日光駅に到着。そこからバスで約10分。案外あっさりと着いた日光東照宮(※写真①)。外国人観光客と修学旅行の中高生が多いです。

写真①

拝観料は大人1,600円(宝物館とのセットだと2,400円)、流石世界遺産な料金。表門をくぐってすぐの場所にこちらも甚五郎作と言われる「見ざる、聞かざる、言わざる」のいわゆる「三猿」が近寄りはできませんが、けっこう無防備に飾られています(※写真②)。そして来てわかったのはこの有名な三猿の横にはまだまだ沢山の猿がいること(※写真③)。三猿も含めて全部で十六猿。う~~ん、甚五郎もダジャレ好きだったのかな、とか思いながら歩くとまもなく目的の「眠り猫」登場(※写真④)!!ただその飾られた場所は頭上高くそして門の上なので立ち止まることがあまりかないません。遠くから写真を撮って拡大して見ると、薄目を開けている気もしますが、きっと気のせいです。

写真②
写真③
写真④

目的は果たし東京に戻りました。実はもう一箇所行くところがあります。それは東照宮をグーグルマップで検索したときのこと。僕の事務所から徒歩15分の場所に上野東照宮というのが日光よりも先に表示されたのです。調べると国指定重要文化財で1651年造営の唐門には昇り龍・降り龍の彫刻がありなんとまたしても左甚五郎作なのです。駆けつけました。拝観料大人500円。良心的です。

こじんまりしていますが、隅々まできれいで気持ちよく見てまわれます。入口から徒歩約3分でそれはありました。唐門です(※写真⑤)。

写真⑤

門の横には龍がいて、こちらはかなり至近距離で凝視できます(※写真⑥⑦)。ゾクッとしました。修復されているとはいえ373年前の作。にもかかわらず生き生きとしていて艶めかしいのです。門の前の掲示板の説明によるとこの龍たちは毎夜不忍池に水を飲みに行くそうです。見てみたいものです。この龍を見て甚五郎は実在したと確信しました。

写真⑥
写真⑦

でもな~、日光の眠り猫は薄目を開けていた気がするよな~。

ところで1994年1月10日放送の水戸黄門「大黒様を笑わせた男」では左甚五郎役を左とん平がやっていた話はまたの機会に。(※文中敬称略しております。)

プロフィール
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター
門田 陽
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター 1963年福岡市生まれ。 福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州、(株)電通を経て2023年4月より独立。 TCC新人賞、TCC審査委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。 趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

門田コピー工場株式会社 https://copy.co.jp/

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