私の、息子。
- ミニ・シネマ・パラダイスVol.25
- ミニ・シネマ・パラダイス 市川桂
映画を選ぶときに、賞を参考に観ることも多いです。 映画賞はたくさんありますが、国や地域によってその審査基準はさまざま。 自分の好みにあった賞を探すのも、映画を選ぶものさしにしやすいのでおすすめです。 わたしはベルリン、ベネツィア、アカデミーあたりが好きで、賞をとった映画を観ることもしばしば。
公開中の映画で気になるものがいっぱいありましたが、今回は「私の、息子。」。 昨年のベルリン国際映画祭で最高賞に当たる金熊賞をとったルーマニア作品をチョイス。
自身も建築家で裕福な主婦であるコルネリア。自立できない一人息子のバルブを溺愛し、彼の恋人の悪口を友人に話す日々。そんなある時、息子が交通事故を起こし、子供を轢いて死なせてしまう。息子を護るため、ひとり奔走するコルネリア。彼女の思いとは裏腹にそんな彼女を鬱陶しがる息子との心の距離はどんどんと離れていきます。
お金持ちの息子として生まれ、自立できないニート息子。 過干渉になってしまう煩い母親・・・なんて日本の家庭でもあり得そうな設定です。 事故を発端に、母と息子、その恋人、父、死なせてしまった子供の父母など、 さまざまな人間関係模様が波紋のように、広がっていきます。
特徴的で効果的なのがカメラワークで、さまざまなシーンを密室に感じるように捉えています。 母親の自宅、息子に買いあたえた家、警察署、ダンスの舞台など、密閉感のある空間の中で、人と人とが関わりを持ち、会話をしています。ドキュメンタリー的な要素を持ちつつ、少し息苦しさを感じるほどの空間で会話が進むことにより、より人間関係の機微を感じ取ることができます。
息子が起こした事故だけを主軸に物語は進んで行きますが、 波紋のように広がっていく人間関係とその心の動きを感じることができる作品でした。
個人的には自立できない息子の憎たらしい顔と、ちょっとプヨッとしたお腹にリアリティを感じました(笑) 映画館の中は、中年以上の方が多く、もしかしたら身近にバルブのような問題児がいるのかもしれない・・・と想像してしまいました。
Profile of 市川 桂
美術系大学で、自ら映像制作を中心にものづくりを行い、ものづくりの苦労や感動を体験してきました。今は株式会社フェローズにてクリエイティブ業界、特にWEB&グラフィック業界専門のエージェントをしています。 映画鑑賞は、大学時代は年間200~300本ほど、社会人になった現在は年間100本を観るのを目標にしています。