WEB・モバイル2014.08.06

NYCで活躍する映像・テレビ番組エディター:ジェシックさん

Dig It! NYC Vol.70
Dig It! NYC 藤井さゆり
ジェシックさん(Daniel Jehshik Kim)

ジェシックさん(Daniel Jehshik Kim)

クリエイターズステーションの読者の中には、映像エディターの方も多いと思います。映像エディターは、映画はもちろんのこと、テレビ番組、YouTubeに投稿する個人ビデオでさえも、エディターの腕によってその作品の優劣が決まってしまうほど重要なクリエイティブワーク。

ということで今回は、ニューヨーク・マンハッタンで映像・テレビ番組エディターとして活躍されているジェシックさんにインタビューしました。ジェシックさんはこれまでに、NBC、ABC、MTV、NATIONAL GEOGRAPHIC、TRAVEL CHANNEL、GOOD MAGAZINEなど、アメリカの主要テレビネットワークやメディアをクライアントとし、現在はフリーランスでお仕事をされています。

映像編集は「物語の像を彫る場所」「作品を追求するための万能なツール」と語るジェシックさん。理解あるクライアントと自由なクリエイティブ環境、映像制作における魔法のような時間とは?など、私が持っていた映像編集というイメージが変わるような興味深いお話を聞くことができました。ジェシックさんが実際に編集を手がけた映像とともにご紹介します。

通常はどのような流れで仕事を行っているのですか?

クライアントから仕事を受けた場合、通常、プロジェクトのディレクション、クライアントが何を期待しているのかということについて、最初に打ち合わせをします。その後、クライアントから素材や撮影フィルムを渡されます。実際の編集は私一人で行います。

編集作業はお一人で行っているのですね?

そうです。何か起こったときのためにどのように対応するかなどの一般的なガイドラインはあります。ですが、私がガイドライン以外のことを行ったほうがよりよいものになると感じた場合、ほとんどのクライアントからOKが出るほど、自由にクリエイティブができる環境で仕事をしています。それは自分でもラッキーだと思いますね。

「自由にクリエイティブができる」というのはやりやすいですね。クライアントも理解しているんですね。

たまに、最終的には3分になる作品のために、クライアントから何時間もの長い撮影フィルムを受け取ることがあります。可能性には制限がありませんしね。そういった時は、シーンをカットすることに対して非情にならざるを得なくなります。私にとっては、一番重要なことは、作品のためにベストなことをすること。その次にクライアントです(笑)。もちろん、ほとんどのクリエイティブワークと同様、クライアントによる審査がありますから、そこはきちんと対応していますよ。

Surf's Up from Intel on Vimeo.

映像・テレビ番組エディターという道を選んだのはなぜですか?

映画や本、また、ラジオで語られる物語が大好きだったということが基本にあると思います。巧みな話術で語られる物語ほど素晴らしいものはありません。映像編集は私にとって、物語の像を彫るような場所なんです。修正や再アレンジ、ミスを補正すること、また、シーンが成り立つように大規模な編集をしようとも、映像編集というのは、作品を探求するための万能なツールのようなものだと思っています。

元々シアトル出身と聞いていますが、 ニューヨークへは映画製作を学ぶために来たのですよね?

そうです、映画製作を学ぶためにニューヨークに引っ越して来ました。そこで私が映像編集をやろうと思ったのは、映像編集は、音や映像といった全ての要素が一体となった場所だと思ったからです。映像編集の「正しい時に、正しい場所へ、全てが合わさる瞬間」というのが私はとても好きなのですが、それはまさに映像制作における魔法のような時間だと感じます。

The Weather Channel films “ALIVE EP05 Out of Air”

コンピューター、ソフトウェアは何を使っていますか?

Apple Mac TowerとMacBook Proを使っています。映像編集で使っているソフトウェアはFinal Cut Proです。

The Weather Channel VIDEO “Virus Hunters: AIDS”

仕事をしていて面白いと思うのはどんな時ですか。

ストーリーの中で全てのものが成り立つよう、自分が編集したものに集中している時です。その経過で、自分がその時はよいと思って行ったものが、却ってそれがないほうが作品としてよいものになっていると気付くことがあります。これは仕事をしていて学んだことですが、たとえ自分がいいと思うことであっても、無理矢理ストーリーの中に押し込むべきではなく、あくまでもストーリーに沿って、登場人物にベストなことをする、ということ。なので、自分の中にある頑固さは手放さないと...。私の場合、これは仕事上だけではなく、プライベートでも当てはまりますけどね(笑)。

「頑固さを手放す」というのは仕事上ではとても大事なことですね。それでは、難しいと思うことはどんな時ですか。

クライアントワークでは、自分のクリエイティブ欲を満たすことはできないと実感したことです。クライアントワークで、自分にとってはすごい面白くなりそうだと思ったものであっても、最終決定に関してはクライアントが行います。作品のためにかなりの力を注ぎ込んでも、自分のクリエイティブ欲が満たされなければフラストレーションが溜まり、ストレスになります。なので、クライアントワークに関しては、自分ができるベストのことをやって、その状況を受け入れるということにしています。それが自分にとって価値のあることだと思うからです。しかし今は、自分自身で行っているプロジェクトがあるので、そちらで自分のクリエイティブ欲を満たすことができています。

「仕事上で自分のクリエイティブ欲を100%満たすことができない」と思っているクリエイターさんは結構多いのではと私も思います。それでは、仕事のアイディアやインスピレーションはどのように得ていますか。

自然に触れることでインスピレーションを得ています。自然は自分を静けさの中に連れて行ってくれます。頭で考えていることから離れて、直感や本能に従うことを教えてくれるんです。そして、全てを新しいものにし続けてくれます。インスピレーションやアイディアの基となっている私の好奇心は、自然への感謝から生まれています。

ユタ州のアーチーズにて

ユタ州のアーチーズにて

いかがでしたか。ジェシックさんは自由なクリエイティブ環境があることをラッキーだと言われていましたが、それは「ガイドライン以外のことをやることでよりよいものができる」という説得力のある提案がクライアントへきちんと伝わっているからなのだと思います。また、クライアントからの信頼があるからこそ、成り立っていることなのでしょう。

その半面「たとえ自分がいいと思うことであっても、無理矢理ストーリーの中にそれを押し込むべきではない」「頑固さを手放す」「自分のクリエイティブ欲を100%満たせないクライアントワークではベストを尽くし状況を受け入れる、その代わり自身のプロジェクトでクリエイティブ欲を満たす」といった言葉から、自分をコントロールしながら、とてもバランスの取れた仕事の仕方をしているのではないかと思います。

映像編集について語った独自の表現も秀逸です。「物語の像を彫る場所」「作品を追求するための万能なツール」「正しい時に、正しい場所へ、全てが合わさる瞬間は、映像制作における魔法のような時間」といった言葉は、実際に手がけた作品を見るとまさにそれを体現しているかのようで、思わずうなづいてしまいました。

最後の質問で、自然に触れることでインスピレーションを得ているということですが、仕事柄コンピューターから離れず、ずっとオフィスにこもりがちなクリエイターさんも多いと思いますが、自然に触れ合う機会を作ることで新たなクリエイティブアイディアが出てくることもありそうですよね。

ご自身のプロジェクトも積極的に行われているということなので、ジェシックさんの今後の活躍を楽しみにしています! ■www.jehshik.com

Profile of 藤井さゆり

藤井さゆり

東京生まれ、アメリカ在住。日本とアメリカでの職務経験あり。
東京丸の内にある公益法人にて8年間勤務の傍ら、友人が企画したクラブイベントのフライヤーや、CDジャケットのデザインを行う。
公益法人では「地方の街づくり・街おこし」支援事業の一環で、ウェブサイト業務に携わる。 公益法人退職後、2004年より4年間、都内商業施設のサイト更新・管理、販促サイトのキャンペーンページ企画と取材・撮影を含めたライティングワーク、ウェブデザインを経験。
2008年ニューヨークに移住。ニューヨークではウェブマーケティング、サイト管理を企業にて経験、それと共にウェブデザインとライティングワークをフリーランスとして行う。現在は日本の着物をインスパイアしたオリジナルTシャツブランド「Foxy Lilly」を立ち上げ、オーナー兼デザイナーを務める。
Foxylilly.com
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