職種その他2024.08.28

「16の夏、61の夏」

第108話
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター
Akira Kadota
門田 陽

一人暮らしのおじさんの朝は早い。最後に爆睡をしたのはいつだろう。30代まではいくらでも寝ることができたのに、今はもうそんなにぐっすり寝る体力がありません。前日に深酒をしても今日も5時前には目が覚めて、朝刊を取りに4階から下まで階段を降り昇り(昇り降りの反対だからこう書いてみたものの、なんか違和感があるな)してテレビをつけてPCを立ち上げて気になる記事を鋏で切り抜きスクラップします。毎朝のルーティン。PC以外の行動は昭和の頃によく見られたお父さんの図そのものです。そういえば昨日はZ世代の若手3人と飲みましたがそのうち2人はテレビは見ないどころか持っていませんでした。CM作りを生業としている身からすると難しい時代になりました。

ルーティンといえば、僕には毎年決まって同じ時に同じ場所に行くものがいくつかあります。1月2日、1月31日、8月31日の上野鈴本演芸場。3月31日の池袋演芸場。5月31日の新宿末廣亭。8月14日の横浜にぎわい座。これらはいずれも落語で余一会や特別興業等の人気の催し。落語鑑賞に関しては、会社員時代は年間1000席以上はライブで聴いていました。独立して事務所を上野に構えた理由の一つは寄席(鈴本演芸場や上野広小路亭)が近いからですが、近すぎると案外通う回数が減りました。いや理由は別かな。サラリーマンの頃は多少さぼっても一定のサラリーはもらえましたが、フリーランスはきびしいので昼間は以前よりも働いていて簡単に落語に行けなくなったのです苦笑。他にここ数年は1月第3週の土日は共通テストを受けに指定された都内の大学(今年は立正大学、昨年は東京大学でした)に行きます。それと8月のお盆明けに甲子園に高校野球を見に行きます。どちらもあの頃(高校生)のライブな自分、恥ずかしげもなく言えばアオハルの自分に会いに行くのです。

ただこの夏、甲子園に行くことについてはだいぶ躊躇しました。甲子園球場はドームではなく屋外です。果たして今年の酷暑に僕は耐えられるのか。それともう一つはチケットの入手の難しさ。今年の場合、ベスト8の試合からは前日の朝10時にネットのみ(コンビニ等では買えない)での販売になったのです。残念だけど今年はやめておこうかな、と思っていたのですが8月17日の第4試合「早稲田実業高校対大社高校」の劇的な試合をテレビで見て気が変わりました。その試合内容については著名人や野球解説者はじめ多くの方が語りつくしているのでそちらにお任せします。僕がその試合で心動かされたのは大社高校の応援団の声のでかさ。アナウンサーが繰り返し大社の応援の凄さを伝えますが所詮テレビ越し。こればかりは生で見て聞かないとわかりません。もう行くしかありません。その感覚は16、17、18歳の頃のまま。当時の僕は新聞部で取材と原稿書きに夢中な毎日を過ごしていました。

1980年7月16日。ネットで今調べたところその日は水曜日。高2の僕は3年生の広川先輩と一緒に、今はなき平和台球場の1塁側ダッグアウトの上に陣取って母校(福岡県立糸島高校)の野球部の地区大会1回戦の模様を取材していました。対戦相手は同じく福岡県立の伝習館高校。平日の昼間、まばらすぎる応援席。きっと僕らの姿は浮いて見えたのでしょう。試合の途中に読売新聞と地元の西日本新聞に逆取材を受けてどちらも翌日しっかり掲載されました(※写真①)。

写真① ※西日本新聞(左)/読売新聞(右)1980年7月17日朝刊

試合は0対5の完封負け。野球部よりも僕たちの方が目立ってしまいました。もちろんすぐに僕たちは職員室に呼ばれ多くの先生方にジロジロ見られました。そんな中、新聞部顧問の成廣先生が少し大きめな声で「授業をさぼって行ったのはよくないが、これはいいさぼり方だ。次からはちゃんと許可を取って行け。許可は出す」と妙な怒り方をされました。なんだかちょっとうれしかったことを覚えています。

写真②

あれから44年。今年の夏の甲子園ベスト8の第4試合は鹿児島の神村学園対島根の大社高校。試合は大社のエース馬庭くんが連投の疲れもあって打たれ8対2で神村学園が勝ちましたが、アルプス席から地鳴りのような大音量の大社高校の応援はすさまじかったです(※写真②)。現場で見て聞くことができてよかった。悔し涙を流す選手が羨ましくさえ思えました。行ってよかったです。来年も行きます。
 
ところであの取材の日の帰り道、球場の外で広川先輩は僕にホットドッグを奢ってくれながら「明日俺達きっと職員室に呼び出されるぞ」とニヤリとしながら言ったことはまたの機会に。

プロフィール
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター
門田 陽
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター 1963年福岡市生まれ。 福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州、(株)電通を経て2023年4月より独立。 TCC新人賞、TCC審査委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。 趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

門田コピー工場株式会社 https://copy.co.jp/

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