職種その他2014.08.12

忘れちゃいけない、忘れられない記憶 at Cafe Gallery

London Art Trail Vol.26
London Art Trail 笠原みゆき

Sites of Collective Memories”(直訳すると『集合的記憶の現場』)と題した映像作品企画に惹かれ、南ロンドンのSouthwark Park内にあるCafe Galleryへ。 さて、いったいどんな現場のどんな記憶なのか?

Southwark Park。Cafe Galleryはこの先の池の向こうにある。

Southwark Park。Cafe Galleryはこの先の池の向こうにある。

ロンドン周辺を走る環状鉄道、ロンドン・オーバーグラウンドのSurrey Quays駅を出るや、緑豊かで広大な敷地が目に入ります。ここがSouthwark Park。 Cafe Galleryは複数のアーチィストによって運営される非営利美術団体、CGP Londonの運営するギャラリーの一つ。その名の通り、ギャラリーの建物が元々公園のカフェだったことから名付けられました。公園のなか程の野鳥の集う池に向かって歩いていくとそのすぐ先に平屋立てのギャラリーが見えてきます。

中は4つの部屋に分かれていてそれぞれの作家が映像作品を展示中。 全ての作品はAnimate Projectsのコミッションです。


最初の部屋に入るとスクリーンにはロンドンの街中を歩く一人の初老の男性の姿が。 男性は、ロンドン同時爆破テロ(2005)の生存者の一人であるJohn Tullochさん。当時の負傷した彼の姿がまるでルネッサンス絵画を解読していくようなアニメーションで映し出されます。更に詳細にいかに爆発が彼に物理的にだけでなく精神的にもダメージを与えたのかということを解き明かしていきます。 この作品はShona Illingworthの “216 Westbound” (2014)。

216 Westbound - extract from Animate Projects on Vimeo. ©Shona Illingworth

このプロジェクトの協力者には、インペリアル・カレッジの爆風損傷研究センター(Centre for Blast Injury Studies)という機関の名も。そんな機関があったの?と調べてみると英国在郷軍人会(Royal British Legion)と国防省の支援のもと、テロの後遺症、トラウマが認知され研究が進む中、2008年に設置された機関であることが分かりました。


次の部屋は誰かの家の居間に入ったかのように、肘掛け椅子にカフェテーブル、TVが並んでいて、テーブルの上には家族アルバムが。おばあさんが語る、誰もが見たという女の子の幽霊とその現れた場所、彼女の家族、ロマ民族の歴史が実写とアニメーションを交えたカラフルな映像のなかで混じり合っていきます。

“CHUVIHONI”(2014) Installation ©Delaine Le Bas & Damian James Le Bas

“CHUVIHONI”(2014) Installation ©Delaine Le Bas & Damian James Le Bas

CHUVIHONI from Animate Projects on Vimeo. ©Delaine Le Bas & Damian James Le Bas

皆さんはロマ(ロマ二)民族をご存知でしょうか。ジプシーという名称のほうが、伝わりやすいかもしれません。1000年程前にインドからヨーロッパに渡ったとされ、土地に縛られず*、旅を続けながら生活する民族です。(*現在は定住するロマ人も多くなっています) 作品は自らもロマ人であるアーティストDelaine Le BasとDamian James Le Basの作品、“CHUVIHONI”(2014)。女の子の役を演じているのはDelaine Le Bas本人。


その先に進むと今度の部屋には 「五歳の私の記憶にあるのは・・・光っていうのはあんまり記憶にないんですけれども・・・。」 と女性コメントが数秒流れるや否や、電子音ノイズが鳴り続け、爆風の中に入ったかのように辺り一面を何かの破片が5分間飛び散り続ける映像が。 この作品は、Jordan Basemanの “Little Boy” (2014)。 タイトルは広島の原子爆弾の名“Little Boy”から。声の主は五歳のとき広島で被爆した塩冶節子さんです。

Little Boy from Animate Projects on Vimeo. ©Jordan Baseman


最後の部屋の映像は、南ポーランドの美しい森と麦畑が舞台。 5人のインタビューを聞いていくうちに、それが全て一つの事件~その森と麦畑で行なわれた70年前のロマ人の大虐殺~について話していることが浮かび上がってきます。

子供の頃遊んでいた秘密の森には何故か沢山の墓があって常に生花が添えられていた・・・と語る女性。 その同じ森でロマ人の家族が一人一人殺害されていくのを目撃してしまった後、ナチに強制されシャベルをとり墓穴を堀り、遺体を運んで埋めた当時14歳の男性。 逃げて行く先で掘りたての自分の墓穴を見付けたロマ人の女性。

今でも地元の人に“地獄”と呼ばれる麦畑の由来を伝える女性。 女、子供達の多くはその森で、男達の多くはその麦畑で殺されたといいます。 作品は、Roz Mortimerの"This is History (after all)" (2014)。

This is History (after all) - excerpt from Animate Projects on Vimeo. ©Roz Mortimer

インタビューに答えた目撃者の一人は70年間誰にもその事を話しておらず、話終えた後開放感から安堵を覚えたといいます。ナチによるロマ人大虐殺は第二次大戦中、20万から50万人にも上るといわれているのにも関わらず、ユダヤ人の大虐殺のように広く伝えられていないので、とても貴重な映像だと思います。


ギャラリーの目の前の池ではボート遊びを楽しむ家族連れ、白鳥の親子の姿が。

ギャラリーの目の前の池ではボート遊びを楽しむ家族連れ、白鳥の親子の姿が。

夏期休暇中の公園内という場所柄か、小さな子供を連れた家族も数多く展示を見にきていました。 重いテーマではありますが、ロマ人虐殺やヒロシマ原爆を経験した語り部たちも、70年前は皆子供だったのも事実です。 忘れちゃいけない、忘れられない記憶の遺産。 アートの役割、可能性を考えさせられる展示でした。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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