FDA承認、アメリカ初の処方箋なしでオンライン購入できる低用量ピルOpill(オピル)
ご存知でしたか?毎年9月28日は「International Safe Abortion Day(国際安全中絶デー)」なのだそうです。
現在アメリカは、今年11月に行われる大統領選挙に向けて、共和党候補のトランプ前大統領、民主党候補のハリス副大統領が争う形になっていますが、この選挙の争点の一つに「人工妊娠中絶の権利」があります。これは「受精した段階で生命であると定義するため中絶は殺人」と主張する「プロライフ派」と呼ばれる中絶の権利に反対する人々の存在があり、この人々は、キリスト教の保守派で共和党と強く結びついていることが関係しています。
トランプ前大統領は、2016年の大統領選で保守派からの支持を固めるため、中絶に否定的な考えを持つ最高裁判事の任命を公約に掲げ、大統領時代には、最高裁の判事3名を保守派の判事に任命。これにより最高裁では中絶に反対する判事が多数となり、2022年に中絶の権利を保障してきた最高裁判決が覆されました。それ以降、現在22州が中絶に規制をかけています。
最も厳格な規制をかけているテキサス州では、レイプや近親姦による妊娠であっても中絶ができません。中絶をする場合は規制をしていない州外で手術を受けることになりますが、遠く離れた州外への渡航費用や滞在費を工面しなければならず、貧困層の女性は中絶を諦めるケースもあるようです。
この「プロライフ派」に反対である民主党のハリス副大統領は、「自分の体のことは自分で決めるべき」と中絶の権利を守ることを積極的に発言。一方、今回の大統領選でトランプ前大統領は、中絶の権利については各州に委ねるとして、前回とはスタンスを変えた発言をしています。
View this post on Instagram
View this post on Instagram
日本で中絶は、母体保護法で定められた条件として、母体の安全や経済的理由、レイプ、配偶者不明、妊娠後に配偶者が死亡した場合に、妊娠22週未満までならば受けることができます。日本で生まれ育った場合、共通認識として、中絶は個人やパートナー同士で決断することで、政治の争点になったり、法律で決められてしまうことが理解しがたいですよね。
また、性行為後になるべく早く飲むことで高い確率で妊娠を防げる「アフターピル」と呼ばれる緊急避妊薬がありますが、アメリカでは1999年に販売開始、2006年から処方箋不要の市販薬が販売開始されていますが、日本では処方箋なしのアフターピルは昨年の2023年11月末から試験的に販売が開始。まだ始まったばかりといったところです。
アメリカで処方箋なしで買えるアフターピルは、メーカーによりますが10ドル前後〜50ドル以下で購入可能(日本円で1,450円〜7,250円程度)、保険が適用されると0円になるものもあります。日本だと処方箋なしのアフターピルは7,000円〜9,000円、保険は適用外です。
View this post on Instagram
アメリカで売られている処方箋なしで買える緊急避妊薬のPlan B One-Step。オンライン他、ウォルマートなど主要な薬局で購入可能。
そして、毎日服用することで99.7%の避妊効果がある「低用量ピル」。以前のコラムで「スマホでピルを購入できるアプリNurx」を2018年に取り上げましたが、Nurxは処方箋のために医師の診察や薬局に行かずとも、スマホアプリから簡単に低用量ピルを購入できるサービスを提供しているヘルスケアスタートアップです。
そのNurxから、今度は処方箋なしで購入できる低用量ピルOpill(オピル)が2024年3月に販売。OpillはFDA(アメリカ食品医薬品局)から承認を受けた、アメリカで処方箋なしで入手できる初めての低用量ピルです。
Opillは妊娠する可能性のあるほとんどの人が服用可能で(乳がんを患っている場合、または過去に乳がんを患ったことがある場合は服用不可)、プロゲスチン(黄体ホルモン製剤)のみでエストロゲンは含まれていません。エストロゲンを含む低用量ピルは血栓のリスクがありますが、Opillは高血圧、授乳中、閉経期の人、偏頭痛のある人、喫煙者も服用可能です。
指示どおりに使用すると、98%の避妊効果があります。医師の診察や処方箋を必要としないため、健康保険に加入していない人も購入可能(加入している健康保険によっては自己負担なしで買えます)。主要な薬局やオンラインで販売されており、値段は1パック(28日分)で19.99ドル(約2,920円)。
View this post on Instagram
Opillは毎日服用すると、子宮頸管粘液を濃くすることで精子が卵子に到達するのを防ぎ、さらに、いくつかの周期で卵巣が卵子を放出するのを防ぎます。
副作用についてですが、Opillを服用する前と比べて、生理の回数が減ったり増えたり、短くなったり長くなったり、軽くなったり重くなったりする場合があるようです。服用している間は、生理期間中に少量の出血や、生理が止まったりする場合も。その他には、頭痛、めまい、吐き気、食欲増進、腹痛、けいれん、膨満感などの副作用は軽度で、自然に治まることが多いそうです。
Opillのウェブサイトによると、Opillが市販化されるまでに以下のステップにおいて消費者が関与しています。
<パッケージラベルの理解>
何回に分けて行われた研究と調査で、消費者はパッケージのラベルを理解し、医師の監督なしでも投与指示に正しく従うことができることが示されました。
<名前の選定とパッケージデザイン>
消費者は、シンプルさと覚えやすさから「Opill」という名前を選ぶために協力し、パッケージと色は性別に基づくものを避けるように設計されました。
<諮問委員会の公聴会>
FDAの諮問委員会の会議中に、多くの勇敢な消費者と支持者がOpillの承認を促す個別の証言を行いました。
View this post on Instagram
消費者のレビューを見てみると、アマゾンでは4.3という高評価で、多くの人が簡単で効果があるというレビューを残しています。
アメリカでOpillなどのピルへのアクセスが簡単になっているのは、冒頭で説明した宗教と絡んだ政治的・文化的背景が影響していることが理由の一つだと思われます。
現在のところ日本では、Opillのように処方箋なしで低用量ピルを買うことができません。まずは緊急避妊薬の「アフターピル」が試験的に販売されている段階なので、それからでしょう。
アメリカと日本は宗教観などの文化が違うので比べることではないかもしれませんが、処方箋なしにオンラインや近所の薬局で買える低用量ピルやアフターピルの存在は、予期せぬことで助けを必要とする女性たちを救うのは間違いないでしょう。
(参考)
foxylilly.com
Instagram: @foxylilly