映像2024.09.25

「骨、折々の記」

第109話
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター
Akira Kadota
門田 陽

朝5時50分。なにかいつもと違う妙な感覚で起きました。頭がぼんやりしています。そっか、二日酔いかと思いつつベッドから起き上がると様子が変です。枕、シーツ、掛布団が赤く染まっています。身なりもいつも着て寝るロンTやジャージではなく下着のみ。
うん?何だろうこれは。あれ?スマホはどこだ?メガネもないな。鞄もないぞ。あ!玄関の鍵がかかってない。恐る恐るドアを開けます。げっ!!映画やドラマだとここで目にするのは胸部か腹部に刃物の刺さった美女の死体が定番ですが僕が目にしたのは鞄から散乱したノートや筆記具と壊れたメガネ。そして階段下の狭い踊り場部分には直径10センチ四方の血溜まりがありました。見事なまでにそのときの記憶がありません。酔って帰ってきたのは確か。推測すると酔っ払って階段で足を滑らせ転倒、後頭部を打撲出血。這う這うの体で部屋に入りそのまま倒れ寝たのでしょう。おそらくコナンも古畑もコロンボでも同じ推理のはずです。

写真①

ウエットティッシュと雑巾で踊り場の掃除を済ませ、傷を負った後頭部をハンカチで保護して再びベッドで横になるとまた寝てしまいました。気が付くとお昼前。なんにしてもこのままでいいはずはないので、シャツを羽織り短パンをはいて、あちこち痛む体に鞭打って近所のクリニックへ。すると入口に「本日は込み合っているので午前の受付終了」の貼り紙です(※写真①)。そんなことって、あるんですね。世の中病人だらけ。フラフラのまま一旦部屋に戻り夕方まで横になり再びクリニックへ。受付で事情を話すと、頭を打っているのは当院では責任もてないので大きな病院に行ってくれと言われ診てもらえません。仕方ないので近くの総合病院に電話をすると今日はもう時間外でムリとのこと。事情を話すと、「救急車を呼ぶほどのことか」と言われ、「それほどではないと思う」と答えると、もし吐いたり急に熱が出たり意識がなくなったら救急車を呼ぶようにと言われました。意識がなくなったときにどうやって呼ぶのか反論したい気持ちをおさえ翌朝タクシーで病院へ。

写真②

昨日からまるで食欲がなく、水分以外はなにも食べていません。1時間半待たされてようやく脳外科で受診。すぐにCT(※写真②)を撮った結果は「写真を見る限り異常はないです。傷はもうかさぶたになっているので消毒だけしておきます」と言われあっさり終了。

これでとりあえずは一件落着。「病は気から」というのは伊達に諺になっていませんね。「異常なし」がわかってまもなくお腹が減りカップ麺や冷凍食品などを次々とチンして食べて、何もなかったかのごとく仕事(リモート)の打ち合わせをしてメールの返信等を済ませるとウトウトしてきました。汚れたままのシーツのベッドで就寝。

ところが翌朝、足の痛みが激しく日の出前に目が覚めました。歩行困難。右足の親指が紫色で真ん丸に腫れています。スマホで近所の整形外科を検索すると9時開院。その時間ちょうどにタクシーで向かうとすでに大勢の患者さんで待合室はギッシリ満員。台東区は病人だらけの街。またもや1時間半待ってようやく受診。レントゲンを撮ってさらに30分待ち。気さくな院長先生から「折れてるよ」と言われギブスを嵌められました。履けなくなった靴を手に持ち、右足だけのサンダルを1000円払って借りてタクシーで帰宅(※写真③)。4階までエレベーターがないのが悔やまれます。

写真③

全治3~4週間。人生初骨折。何歳になってもまだまだ未経験のことは沢山あって、初体験はドキドキするものですが、骨折は一生したくなかったです。しかしこんなとき、令和という時代は便利です。食料はコンビニとウーバーが運んでくれ、情報はネットで拾えます。ユーチューブで「足を骨折したときの暮らし方」を学び、応急処置でのシャワーの浴び方を実践(※写真④)しました。さらにアマゾンで「繰り返し使える防水ギブスカバー大人の足首用」を購入。なかなかの優れもので重宝しています(※写真⑤)。ネットのチカラに感謝です。

写真④

写真⑤

それにしても今回の酔っ払いの代償は高くつきました。公私共に不自由な日々。近い距離でもタクシー移動。対面で会う人ごとにお恥ずかしい事情説明。現状、まだ歩きにくいので飲みに行くペースが明らかに減りました。あ、それはいいことなのかもしれません。そんな中、唯一の収穫はいまや日課となった病院のロビーでの待ち時間です。昨日のこと。仲良し後期高齢老婆二人の会話です。
「な~、いつも来るあの人来ないね」
「だれ?」
「ほら、あの人よ」
「あ~、声が大きい人?」
「そうそう、あの人名前何だっけ?」
「あ~~、名前はなんだっけ?」
「そろそろ来るかもよ」
「じゃあ、来る前に帰ろっか」
二人が帰ってから5分後、後期高齢爺さん登場。そこそこの男前。すると「あら~、いつものお二人さんはいませんね~!」とロビー中に響く大きな独り言。あ~、なるほどこの人だ!と思った瞬間、通院が突然楽しくなりました。今度あの二人の老婆に遭遇したら「あの人の名前は楢崎さんですよ」と話に加わることもできます。

ところで、今回のタイトルは吉川英治リスペクト(こういうこと書くのは野暮だけど)のつもりということについてはまたの機会に。

プロフィール
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター
門田 陽
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター 1963年福岡市生まれ。 福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州、(株)電通を経て2023年4月より独立。 TCC新人賞、TCC審査委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。 趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

門田コピー工場株式会社 https://copy.co.jp/

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP