トイレの神殿でピュアリフィケーション!? @Crossness Pumping Station
南東ロンドン、エリザベスラインの最終駅、アビーウッド駅を降りて北へ。20分ほど歩き、特別運行のミニ蒸気機関車バザルゲット号に乗ってやってきたのはCrossness Pumping Station。
会場はフルハウス!むき出しの巨大な配管にフィリグリー細工のように繊細な装飾。インダストリアルなのにデコラティブ。ここは一体?Crossness Pumping Station (クロスネス揚水所)は1859年から1865年にかけて土木技師、Joseph Bazalgette (ジョセフ・バザルゲット)により建てられた下水処理場。当時の最新の土木技術と装飾美を誇り、ビクトリア時代の鉄の大聖堂と呼ばれています。現在も現役で活躍中。
さて会場を見回すと。左手前方にはハープ。その隣にはハーピストのAnna Phillips。
アナウンスメントが聞こえ、上方の踊り場を見上げると!今夜のイヴェントの仕掛け人はこちら、作曲家のJackie Walduck(左手)とこのコラムの第132回で紹介したアーチィストChloe Coopper(右手)。まずはプログラムの紹介から。テーマは「Cleanse」クレンズ、清め、浄化。
ハープの演奏が始まるとその向かい側の右手前方でCurtis Donovanが巻き紙に音に合わせてドローイングをはじめます。
ハーピストは絵の進行に合わせ、時々様子を確認しながら演奏しているようす。厳かなハープの音が、ビクトリア朝の鋳鉄の柱や装飾にこだまします。
次の幕で踊り場に現れたのはジャズ、ソウルシンガーのJ Cocoa。
深い歌声と共に前方中央の大きなキューブ状のランタンの中で絵筆が走り始めます。描いていたのはアーチィストのCharly Helyar。ランタンが鮮やかに色で埋め尽くされるとここでインターミッション。
後半客席は前半と真逆にその向きが変わります。Coopperはマーブリング(水に絵の具を滴らし、できた模様を紙に写し取る技法)の準備万端。
闇の中、バイソンの描かれたアイリッシュ・ドラムを叩くWalduckがその音と共に浮かび上がります。そして、目を凝らして辺りをゆっくり見回すと会場の各角にマーブリングの準備をした女性たちがテーブルを設えているようすが伺えます。
やがて投影された映像が、大聖堂のステンドグラスの窓のように現れます。おさげの少女がこの施設の由来、歴史を紹介していきます。水の流れのようなWalduckのヴィブラフォンの音が呼応します。
19世紀当時、ロンドンではコレラが何度も大流行し死者が相次ぎました。当初は空気感染するものと考えられたいたコレラですが、やがて飲み水である水道水汚染がその原因であることが次第に明らかになります。水道水源であるテムズ河には屎尿を垂れ流しにしていた下水が流れ込んでいたのです。バザルゲットは1859年から、テムズ河の両側に幹線下水道を建設し、下水をロンドンにまで逆流しない、はるか下流にまで遮集する事業を開始します。幾つかの中継ポンプ場を設けながら、自然の勾配をたくみに利用した自然流下式の管渠です。南岸系統は1865年に、また北岸系統は1868年にそれぞれ稼動。1875年のこの事業の完成によりコレラの発生は激減したのです。
Coopperがマーブリングを始めました。すると!
映像と緩やかに移動するマーブリングがオーバーラップして、万華鏡の海の中に飛び込んだよう。Coopperは少しずつ色を加えていきます。
少女が水晶玉のようなものを抱え、一体化すると「ASCEND」の文字が現れ、 溢れます。すると、人々は一斉に立ち上がり、暗がりの中、角コーナーに光るのマーブリングステーションへ。
私も席を立ち、順番を待っていると、片面にCrossness Pumping Stationのロゴのついた、反対面は白地のお札のような紙を渡されます。その大きさと形から、プロテスタントの聖餐式用のウエハースを彷彿させます。指示に従い、生きた細胞のように揺れ動く模様を見定め、お札を投入!
浄化されたのは体内の一部、それとも記憶の一部?