反抗的なオブジェがV&Aを占拠!? V&A Disobedient Objects
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- London Art Trail Vol.27
- London Art Trail 笠原みゆき
"Book Bloc Shield"(本の防御盾)の作り方? "Lock-on Devices"(鍵掛け装置)って一体? その答えは現在ヴィクトリア&アルバート博物館(通称V&A)で開かれているDisobedient Objects(反抗的なオブジェ)展にあります。V&Aはヴィクトリア女王とアルバート公から名をとって1852年に創立された450万点もの装飾芸術とデザインのコレクションを収容する国立博物館。地下鉄サウスケンジントン駅から徒歩数分。
正面入り口から左手に入ると、天井から床まで会場一杯に鉄のパイプが立てられていて、まるでバリケードの中に入ったかのよう!Disobedient Objectsを代表するバリケードという言葉は、16世紀にパリ市民が砦としてワインや農産物輸送用の樽(barriques)を積み上げた事から生まれたといいます。
展示パネルや展示台には、無塗装の建築構造用パネルが使われ、通常の美しい展示台に透明のケースに入った作品が並ぶV&Aの展示とはひと味違った風景。また、部屋のあちこちに世界各国の抗議運動で使われたバナーが吊るされ、中央奥のスクリーンにはその運動の様子が投影されていて、日本からはTPP反対デモ(2011年)の様子が映し出されていました。
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"Book Bloc Shield"の作り方、使い方マニュアル
これらのマニュアルは数種類あって(冒頭で触れた"Lock-on Devices"を含む)持ち帰りもできるようになっている
ダウンロードはこちらから
©Marwan Kaabour
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実際に使われた"Book Bloc Shield"
さて冒頭の"Book Bloc Shield"。 2010年のイタリア、ローマ。ヨーロッパに広がった2008年からの不況のもと、当時の大蔵大臣が、「文化は食べられないもの」と福祉、教育、アートの予算を次々と削っていったことに学生達が憤慨し、「国が私たちの未来をブロックするのなら、私たちはこの街をブロックする!」と、警官隊との衝突の盾としてその抗議運動に使ったのが始まり。各々の盾には、古典文学の本の表紙が使われ、運動は瞬く間に同じく文化予算の大幅な削減政策を行なっていた英国ロンドンへと飛び火していきました。左がその図解マニュアル、右は2011年、マンチェスターで行なわれたロイヤルウェディングに対する座り込みに使われた実物で、オスカー・ワイルドの小説"The Happy Prince and Other Tales"(幸福な王子)1888年出版から。
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© Bread & Puppet Theater
1960年代から巨大パペットを使った抗議運動を行なっているNY生まれのBread & Puppet Theater。展示されているのは1991年湾岸戦争への抗議デモで使われた等身大のパペットで、中央のパペットは亡くなった我が子を抱えるイラク人女性象徴しているといいます。その後のイラク侵略戦争で父親を亡くした友人のイラク人アーティストの言葉が、今も私の耳から離れません。その事実を知った私はショックを隠しきれませんでした。
「気にしなくていいの。イラクの人はね、長引く戦争で国に残った人たちだけでなく、国を離れた人たちも皆何らかの形で家族を亡くしているのだから。」
一般人が家族を失うのが当たり前の世界。それが戦争。
今度はスマートフォンのゲームアプリによる抗議運動。
イタリア人アート・コレクティブMolleindustriaの'Phone Story(2011)'はスマートフォン、iPhoneのアプリ。 ◆コンゴの子供達にコルタン(精錬すると電子部品のレアメタルが得られる)を採掘する強制労働を強いるゲーム ◆スマートフォンを西側諸国で出来るだけスピーディーに消費し、その猛毒の電子部品のゴミをパキスタンやガーナに捨てていくゲーム ◆急増する中国のスマートフォン生産工場労働者の自殺問題を取り上げたゲーム など。ゲームを通してその製造業、原料供給国の問題を浮かび上がらせます。 因にこのアプリはアップルのiTunesストアーから発売4日後に撤去されたそう。アプリの収益の70%はその開発業者にいってしまっているそうですから、便利なスマートフォンを使う際もう一度考えてみる必要がありそうです。
中央にデスマスク、そして硝子や陶製のモザイクタイルを敷き詰めた、燃えるような橙色のトッラクは英国人アーチィストCarrie Reirchardtの作品'The Tiki Love Truck(2007)'。2007年英国初のカーアート・パレードへの作品制作の依頼を受けていたReirchardtは、テキサスに住む長年の友人アッシュの死刑執行が行われるや否や、彼のデスマスクを型取り、10日後のマンチェスターでのパレードにて死刑執行に反対する抗議を行いました。
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V&A正面入り口
左右にBook Blocを掲げ、警官隊と衝突する民衆の姿が描かれたモザイクタイル画が見える
これらは今回の展示のためのV&Aが制作依頼した
Carrie Reirchardt & the Treatment Rooms Collectiveの作品
国立の博物館であるV&Aは今回の社会性の強い展示開催に当たり、 そのスポンサーシップ、教育&インターンプログラム、ミュージアムショップ、レイトナイト・イベント(毎月末金曜夜に開館時間を延長して行なわれるイベント)などの在り方ついて様々な議論を醸し出し、もう一度見つめ直すことになったそうです。
ここで紹介したのはほんの一部。 この展示は、来年の2月の初めまでなので、ロンドンを訪れた際は是非立ち寄ってみてください。
Profile of 笠原みゆき(アーチスト)
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©Jenny Matthews
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:www.miyukikasahara.com