読書感想文

番長プロデューサーの世直しコラムVol.93
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

どうでもいい些末な事なんですけどね。

子供の頃、夏休みの宿題に「読書感想文」ってのがありまして、 僕はこれが虫唾が走るくらい嫌いだったんです。 普通の子供らしく、本を読むのが嫌い・・・だった訳ではないんです。

むしろ逆で、小学校3年生くらいまで、家に居る時はお菓子をぼりぼり食べながらじっと本を読んで過ごしている様な、半分引きこもりの肥満児でした。だから、夏休みに本を読むなんて当たり前の事で、実は結構な量の本を読んでいたんです。でも、読書感想文を書く宿題がたまらなく嫌いでした。

今年の夏、友人の息子が読書感想文が書けなくて、書かせるために苦労した。 という話を聞いて、あーわかるわかると、小学校3年生の息子の方に同情する気持ちになりました。やんなくていいよあんなもん。本は感想文書くために読むもんじゃないからさ。と。

その息子君は、一学期の終わりに「自己紹介文」という作文を白紙で学校に提出したらしく、親は焦って夏休みに、文章の書き方のトレーニングを息子君に課した。という話。栄光ゼミナールの作文講座にまで通わせたらしいのです。その息子君に読書感想文を書かせるために一夏かかった。親父も書いたし、お母さんも書いた。来年は一人で書けよ。と言っていました。その努力は素晴らしい。

白紙で出すなんて大物じゃないか?とちゃかしたら、そんな奴は小物だと。 そりゃあ違うんじゃないの?他の子達が当たり障り無く、いいか悪いか解らずやっている建前のような事を自分の息子がやれなかった。という事実が、他の子供より自分の子供が劣っているような嫌な気分になって気に入らないだけなんだよ。学校の読書感想文なんて送りバントの練習みたいなもんだから、やりたくない子に無理にやらせなくていいんだよ。 と、思いましたが言いませんでした。

今はどうか知りませんが、僕の時代の「読書感想文」には「課題図書」という 決められた本の中からどれかを選んで書く。みたいな感じだったと思います。 それが嫌だったのかもしれません。読みたくなる本が無かったからでしょう。課題図書の中に武者小路実篤の「愛と死」という本があって、適当にそれを選んで読んでいたら、なんか、子供の僕には気持ち悪い内容で、なんじゃこの本、ここに出てくる奴らはみんな腹が立つやつらだ。何も得るものが無い。くそだ。と思ったのでそういう感想文を書いて出したら、先生にめちゃくちゃしかられた事があります。「なんでこんな事書くんですか!」と。「だってそう思ったんだも~ン、おもしろくなかったんだも~んこの本」と。小学生ですから。面白くないって言うのも感想だと思うんですけどね。だめみたい。

だったら自分の好きな本で感想文を書きなさい。ということになったので、母親からお金をもらい、喜び勇んで本屋に行き。当時、何年か前の芥川賞をとった作品だと表記してあった、村上龍の「限りなく透明に近いブルー」という本がタイトルがかっこ良くて読みたくなったので買って帰り、親に見せたら、怒られて取り上げられる。という事もありました。なにがだめ?芥川賞じゃないの?と。なんか難しいなあと思っていたのです。

友達はどんな事書いているんだろうと思って見せてもらったら、誰かの伝記を読んでいて、冒頭から半分くらいまでその本のあらすじが書いてあって、で最後に「僕もこういう人になりたいと思いました」と書いてあって笑いました。そういう事でいいのかよ?

ネットで「読書感想文」と検索すると、いまでも悩んでいる人が多いみたいで、読書感想文の書き方的なサイトがいっぱい出てきます。簡単に書ける読書感想文の書き方、本の読み方。適当にコピペして形にする著作権フリーのテンプレートなんかもある。 驚くべきは、レベルの高い私立中学校を受験しようと思っている内申書の点稼ぎの必要な子供と親のために、夏休みの課題の読書感想文を代行して書いてくれる業者まである。しかもいい値段。みんな苦しんでるんだなあ。

そもそも、怒っちゃいけない、泣いちゃいけない、暴れちゃいけない、と学校では、子供は感情のコントロールを押し付けられる毎日なのに、いきなり本を読んで自分の感情と向き合い、当たり障りの無い範囲にチューニングした、正直だと思える様な感情を文章に書きなさい。あ、否定的な意見は書いてはいけませんよ。というのが読書感想文だと思うのです。そのバランスの取り方は大人でも難しいものです。人生経験が豊富じゃないとできません。 その難しさが学校の先生は解って書かせているのだろうか?そこが疑問。 先生達の課題図書の読書感想文を読んでみたいものだなあ。と思う。

読書感想文を書くという事は、いろんないい事もあるんだとも思えるけど、何の説明もなく「読書感想文を書きなさい」と押し付けられる事が多かった様な気がしますね。「夏休みは本を読まなきゃ駄目だよ」とはよく言われたけど、本を読む事のすばらしさを、本が読みたくなるレベルで力説してくれた人も居なかった。

「読書感想文」を書くとどんないい事があるんだろう?それを誰か教えてくれ。と思っていました。考えて行くと、感想文を書く事を前提に本を読むという事は、その本を深く読み込む。という事か?著者の考えに思いを馳せる想像力がつくということだろうか? 本が好きになり、読書を習慣化させたいという意図もあるだろう。

子供に本を読ませたいなら、親が自然に日常的に面白そうに読書をしているのが一番なんじゃ無いかと思う。読書感想文を書かせたかったら、そうやっていつも本を読んでいる親が、読んだ本の感想を子供に聞かせる事が一番なんじゃないかと思うのです。親の感想を先に聞いて、子供が読みたくなって、で読んで、その感想を親と言い合う。みたいな。 親が本も読まないくせに子供に「ちゃんと読書感想文を書きなさい」というのは無理があると思うのです。

読書感想文を書かなきゃいけないからといって、うんざりしながら読む本は、面白い本でも面白くなくなっちゃうんじゃないかと心配します。読書感想文なんか書かすのやめればいいのに。と、どうでもいい事に噛み付いてしまいました。ごめんなさい。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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