グレート・ビューティー/追憶のローマ
- ミニ・シネマ・パラダイスVol.27
- ミニ・シネマ・パラダイス 市川桂
映画館に着いて驚きました。 未だかつてないほど、Bunkamuraル・シネマが混雑。 チケットカウンターからの列がロビーに溢れていまして、スタッフさんは 「並んでいただいても初回には入れないかもしれません~」 と、アナウンス。 ほとんどがル・シネマのメインターゲットのシニア層ですが、ちらほら一人女性客なども。
「げげっ。なんでこんな混んでるの~!」 とちょっと帰りたい気持ちになりましたが、お目当ての映画はぎりぎり入れそうだし、すでに並んでしまった手前、諦めることもできず・・・前から2列目の席となってしまいました。こんな前で観たことない! 混んでた理由はサービスデーでチケット代が通常1800円が1100円になるから。 みるみる上映チケットが満席になっていきました・・・。 サービスデーおそるべし。
てんやわんやなロビーを抜け、満席の前から2列目真ん中。 浅~く席に腰掛けて、ぐぐっとスクリーンを見上げながら、上映スタート。
「グレート・ビューティー/追憶のローマ」は、今年のアカデミー賞で最優秀外国語映画賞を獲得した一作で、歴史を感じさせる古く美しいローマが舞台。 初老を迎えた小説家ジャップは、初恋の女性の死を境に、華やかな社交界(いわゆるセレブ)で「俗世の王」とまで呼ばれていた自分が、たった一人の女性が何を考えていたかさえ分からないことに気付き、これまでの自分が突如虚しく思えてくるようになります。
日々を過ごしながら、そんな自分を振り返り、自分自身に問い、また周りの人々を改めて見つめ直していく、なんとも深いお話。 人々が踊り狂うパーティはとても現代的で俗物的な一方、ローマならではの美しい街並み、宗教施設、アートが交わり、俗物性と芸術性を兼ね備えたジャップそのものの心を映し出しているようでした。 (まあ、彼から観た世界、ローマなので。)
彼は自分は人間というものの裏表すべてを掌握し、知っていると強く思っていました(一種の思い上がり)。しかし、記憶の中にある暗い海辺でうっすらと笑う初恋の女性は、まったくもって何を考えているのか分からない。 自分に自信がなくなり、また虚しく思えてくるジャップの心情を、様々なロケーションと対峙する人物との会話から丁寧に、時に分かり辛く表現しています。 「自分は人や人生のことを分かっていたようで、気づいていなかったこともあるし、何もかもが分かっていないし、何も無い・・・」 と。 初老の男性が虚しさに気づくと、見ている側にもこんなに虚しさを与えるのかと、正直、気持ちはどんどんどんよりしてきました。
ラストのシーンは、日が沈み、夜と昼の境目にある青白く薄暗い海の岩場。 初恋の女性がこちらを無表情でじっと見つめています。 彼女はジャップを好きなのか、嫌いなのか、今は嬉しいのか、寂しいのか・・・ まったく分からないのですが、そのどれもが彼女の気持ちなのかもしれない、と気づいたときに、人間の心の複雑さが顔を出して、彼女がより美しく神秘的に思えてくるのです。 スーっと、それがジャップにも、観ている観客にも浸透し、美しい気持ちが心の中に焼きつくような印象でした。
一方、観終わった後の私の首は、スクリーンを見上げ過ぎて、死んでいました・・・。 映画館が混んでいるのはうれしいのですが、やっぱり事前予約は大事ですね。
Profile of 市川 桂
美術系大学で、自ら映像制作を中心にものづくりを行い、ものづくりの苦労や感動を体験してきました。今は株式会社フェローズにてクリエイティブ業界、特にWEB&グラフィック業界専門のエージェントをしています。 映画鑑賞は、大学時代は年間200~300本ほど、社会人になった現在は年間100本を観るのを目標にしています。